二 氷竜の三女
攻めよせるマシュマロとクッキーの発生源は、国中から選りすぐった魔法使いが通う帝国魔法学院、地下の大迷宮!
多くの魔法使いが学院から離れようと逃げまどっていた。
「学院の地下百階まで、すべて魔法のしかけが!」
「その最深部、学院長様の執務室から、国中へ呪いが広がっています!」
「聖夜を呪う魔王の正体は、学院長様です!」
燃えたつ姫君は足元に爆炎を発し、城のごとき学院の玄関へ突撃!
通路の狭さに気がついた時には、すでにその床が動きはじめていた!
起き上がるこげ茶色のブロック! はがれ歩く壁!
四方八方から迫るチョコレートの巨人!
炎の嵐がうなった直後!
赤髪の姫君はこげ茶の大波に飲まれていた!
少女チョコレートフォンデュはねばつきに身動きをうばわれ、はじめて悲鳴をあげる!
「お姉様!」
学院へかけつけた兵士隊も騒然!
「まさか火精の姫様が!?」
馬のひづめも溶けたチョコ沼にからまれ、玄関への接近は困難!
クッキーとマシュマロまでチョコまみれとなって襲い来る!
「しかし妹は、私たち四姉妹でも最弱」
疾走してくる雪色の馬車!
その屋根で踊る銀ドレスの銀髪!
鋭き瞳! 鋭き美貌! 薄いくちびる! 薄い胸!
「姫様! このままでは車輪もからみつかれ、この馬車も……!」
御者は馬をまっすぐに玄関へ向けながら、おびえた声を出す。
「関係ない。行け」
少女は迫るチョコ沼を冷ややかに見つめ、冷静な声で告げる。
兵士たちの視線を感じながら『拡散』を意識……その集中力は周囲の空気を急激に膨張!
逆巻く冷気は霧とたちこめ、かざした手から白銀の大河がうなる!
『氷竜の三女』は粒子を抑えてすべてを凍てつかせる!
突如として沼に広がる凝固!
馬車はなおも加速し、ドロドロの玄関へ突入!
「馬車だけにバシャッと!」
氷竜の姫君の得意顔!
御者だけでなく、聞こえてしまった全兵士の背筋に走る寒気!
「い、いや、あれでいいのだ。氷竜の姫様は美貌との落差がすさまじき笑いのセンス! それゆえにとびぬけた冷気を使う! ウケてはならぬ! 白い目で顔をそらすのだ!」
近衛隊長だけがかろうじてうめく。
「あれさえなければ、ひとつくらい縁談もまとまるだろうに……」
にじむ涙!
アイスチョコバーと化した学院玄関から悲鳴があがる!
銀髪の姫君は自ら凍らせたチョコ通路に固められていた!
「お姉様、助けて!」
わざとらしく脚を上げたセクシーポーズ!
いっしょに埋まる火精の姫君は、姉の恥ずかしい芸風に消え入りたい気持ちを全開!
ふたたびチョコを溶解! すべてをこげ茶のドロドロでおおい隠す!