一 火精の四女
通りはマシュマロであふれ、広場はクッキーに占領された。
はねまわる猛犬のごとき純白は斬りつけた剣を粘着してしまう。
飛びかう怪鳥のごとき円盤は槍で刺せば粉をまきちらし、目と肺へ飛び込む。
鉄鎧の大男でひしめく帝都近衛隊がとりみだしていた。
その先頭へ降りたつ火の玉ひとすじ。
息も白くなる冬の晩、そでなしの炎色ドレスがひるがえる。
少年のごとくりりしい顔、燃え立つ赤髪!
小さく細くたくましい体、つつましい胸!
突如としてマシュマロは赤熱溶解!
クッキーは黒こげに爆裂飛散!
少女は間近に迫る恐怖へ歯を食いしばり『収縮』を意識……その集中力は周囲の空気を急激に圧縮!
うずまく熱気が風景をゆがめ、かざした手から紅蓮の嵐が吠える!
『魔法平和帝国』の姫君にして、最高位の魔法使いでもある美貌の四姉妹!
『火精の四女』は粒子を走らせすべてを焼きつくす!
甘くこげた煙がたちこめる中、兵士たちの歓声がわく。
「ありがとうございます! 助かりました!」
赤髪の少女はキリッとうなずき、赤面して倒れる。
あがり症だった。
「かこむな、離れよ! 火精の姫様はすさまじい内気! それゆえにとびぬけた熱気を使う! ほめすぎてはならぬ! ニヤニヤ見つめてはならぬ!」
叫んだ近衛隊長の頭をひっぱたく黒い羽。
「妹はその大声におびえます」
肩にとまったコウモリが静かにささやく。
「ははーっ! もうしわけありません!」
すでに火精の姫君は起きあがり、ひとりで駆けだしていた。
人目を避けるため!
いや、元凶を断つため!