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おもゑど、あなたと

作者: 久郎太

・饕餮様企画『風船葛』参加作品です

(詳細:http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/223158/blogkey/716338/)

 青い空、白い雲、まぶしい位の日差し。

 蝉は、短い夏を精一杯鳴き生きる。


 時折、涼しげなそよ風が縁側の簾を揺らし、江戸風鈴の音を奏でる。


 白い可愛い花をつけた風船葛の鉢植えに水をやりつつ、水打ちをする。

 かけた水が、夏の太陽の光に反射してきらきらと輝いていた。 


 今日も一日暑い日になりそう。



 いつもと変わらない日々。

 長閑で、静かで、都会の音がしない場所。

 都会で生活するのに疲れ果てた私が流れ着いた緑あふれる農村。


 ここの人は、皆とても優しい。

 

 こんな田舎暮らしをできるのは、ネット環境があればどこでもできる翻訳という仕事につけていたから。

 仕事のない日は、親しくなった近所のおばあちゃんの畑のお手伝いをしたり、頂いた苗で作った庭のささやかな家庭菜園の手入れをする。

 部屋に籠りっきりの仕事の後には、無性に外に出たくなる。

 おもいっきり外の新鮮な空気を胸いっぱい吸い込むととても清々しく、リフレッシュできる。

 穏やかに過ごせる私の居場所。



 今日もいつもの日課を終えて縁側に腰掛けしばしの休憩をする。

 ふと、縁側に置いていた今朝方届いた絵葉書を思いだし手にとってみる。

 今時珍しい手書きの葉書き。

 絵は、風船葛。

 花の絵ではなく、青々しい実を描いた残暑見舞い。

 蝉の鳴き声に秋蜩ひぐらしが、交じるようになったのはいつからか。

 何もかも、すべてを捨てて、ここに来て二年。

 ここに来てから届く様になった絵葉書。

 決まって、風船葛の絵葉書。

 送り主の近状と、届け主への体の気遣いと、決まって最後に綴られている言葉。


 あなたと飛び立ちたい


 風船葛の花言葉のひとつ。


 ねぇ、この花言葉の意味はなに?


 親親類兄弟も誰もいない私に唯一寄り添ってくれた男性ひと

 内向的で後ろ向きな私と違い、外向的で明るく前向きで人に好かれる人。

 一緒にいる時間は、とても心穏やかに安らかにさせてくれた。


 その穏やかな日々にほんの少し波紋が加わり、安心に不安がまじるようになったのはいつの頃だったのか。

 

 貴女は 彼に 相応しくない


 彼を取り巻く人々からの謂れもない言葉に傷つき、それを彼に聞くことも相談することも出来ない臆病な私。

 仄くらい日陰にいた私をいつも日向に導いてくれた手がほんの少しだけ離れただけだったのに、そんな些細な不安に私は押しつぶされた。


 彼が、長期出張の間に私は必要最低限の荷物をもって住んでいた街から、彼のもとから逃げ出してしまった。

 


 臆病で、意気地無し、後ろを向いたままの私。


 でも


 絵葉書をひと撫でして、思う。


 まだ、貴方を思っていて良い?


 答えのない問に少し胸が軋む。

 ふと目の前が陰り、葉書から視線をあげた。


 そこにいたのは、目の前に立っていたのは ・・・・・・



 会いたかった



 そう言って彼は、抱きしめた私の耳元でそう囁いた。

 突然いなくなった、私を責めることもせず優しくそう言ってくれた。


 


 私も


 あなたと飛び立ちたい



 その言葉と風船葛の種を一つ渡したら、貴方は気づいてくれるかしら?



 口下手な私の思いに・・・・・・

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 2年という月日にはいろんな葛藤などもあったかと思いますがずっと待っていなくて自ら会いにきちゃうところがキャンとしちゃいますねー [気になる点] フウセンカヅラを知らない人は種の形が分から…
[一言] 文章から、風船葛を揺らす爽やかな風を感じる素敵な物語でした。 夏の終わり田舎の独特な空気感がまた、物語に良い色を添えていたように思いました。 多くを語りすぎない、最後までキッチリ二人を書…
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