完全セキュリティー
そして五分後。背の高い男が女を連れてきた。
「社長代理兼専務の稲葉拡です」
稲葉は名刺を渡してから横にいる女性を紹介した。
「こちらは営業部の川上早紀さん」
「川上です。本物の刑事さんに会えるなんて思っていませんでした。そうです。あの事を相談してはいかがですか。稲葉さん。椎名社長は、あれは悪戯だとおっしゃっていましたが、どうも私は悪戯ではないように思えて」
「分かった。相談しよう。では社長室に案内します」
四人の男女はエレベーターに乗り込んだ。稲葉は中で話した。エレベーターは地上三十階まで上がった。
「こちらです」
稲葉は社長室のドアを開けた。ドアの鍵はカードだった。大野はそれを見て質問する。
「セキュリティー対策ですか」
「はい。内のセキュリティー対策は業界トップですから。全てのドアの鍵はこのカードと指紋認証を使う事で開けることが出来ます」
川上は補足をした。
「まあ。受付でゲスト用のカードを作成すればドアの一割は開けることは出来ます。とは言っても開ける ことの出来るドアはトイレだけですが」
「トイレも」
「椎名社長は中途半端なことが嫌いで、どうせならトイレの鍵もカードにしようとおっしゃっていました」
すると川上より少し背の低い小太りの男が声を掛けた。
「こんなセキュリティーシステムなんて表向きは完璧な城だろ。裏は横領した金を隠すための黄金の城だ。噂を聞いたよ。社長だけが開けることの出来る、開かずの間があるそうだぜ。噂ではそこに横領した金のある金庫があるらしいぜ」
「辻。言いすぎだ。椎名社長がいないからってそこまで言うことはないだろう」
木原は川上に聞いた。
「彼は誰ですか」
「辻雅夫さん。この会社の警備員です」
辻は時計を見て慌てた。
「いけない。交代の時間だ」
辻は走った。その彼の姿を確認した木原は聞いた。
「そろそろ本題に入りませんか」