肖像画
「すっかり忘れていました。この警備室の先には倉庫があるのでしょう。そこに案内していただけませんか」
「はい。いいですよ」
大野は木原に指示する。
「私は東さんと倉庫に行きます。あなたは残りの容疑者の監視をしなさい」
倉庫の鍵は開いている。この倉庫にはコピー用紙が山積みにされていた。壁には戦国武将の肖像画が飾ってある。
「なぜここに戦国武将の肖像画があるのでしょうか」
「前の社長が社長室に飾っていたそうです。稲葉さんに聞きました。入社二年目の私は知らなかったので」
大野は再び肖像画を見る。他の肖像画は埃を被っている。しかし一つだけ埃を被っていない肖像画がある。それは織田信長だ。
「あなたはあの肖像画の埃を掃ったのではないのですか。あなたがここに来た理由だったのではないのですか」
東は否定する。
「それはありません。先ほども言いましたが私は入社二年目です。前の社長とは接点がありません。誰かがあの肖像画の埃を掃ったとしたら佐野さんでしょう。佐野さんは前の社長を慕っていたらしいですから。他にも前の社長を慕っている人は大勢いたでしょう。加藤一成さんも慕っていたらしいですから」
「ではなぜ織田信長なのでしょう。前の社長のことを思っているのであれば他の戦国武将の肖像画の埃も掃うと思いますが」
「前の社長は織田信長が好きだったのでしょう。稲葉さんに聞きましたから間違いありません」




