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ここは東方、絶海の島。島民はみな小さく、欲もまた体に比例してか寡欲、平和で地上の楽園としては、ひとつの模範解答をなしている。そしてこの島に、700年ほど前、とつじょ現れた怪力の異人、名を呂 是児可。
この人にまつわる伝説は、ちょっと信じがたいものばかり。後世の逸聞では、呂は異国の交易船でひとり漂着し、長身で偉躯、両腕に百人をいだくとも、まだ余力あり。ふかに噛まれて無傷、その皮膚、はがねのごとし。ときどき反吐をはいてはひんしゅくを買う。資性おんけんにして、仁心ふかく、多弁を嫌い、わらべを好む。それとたわむれるうち言語を得、その地で妻子を得る。のちに頭首となり、終生、櫂をかく、と。
が、驚くべきは、呂が残したとされる碑文。それは信じがたいことに鉄鉱石の岩石で、指で掘ったらしく指紋のみぞ残る1000枚を超す長大な自伝で、これまで語ってきたものがそれでありーーごめん、筆者の創意を多分に詰めこんじゃったーー、それはヨーロッパの古語に似た言語で書かれているものの、どの言語にも精確にはマッチしない。9分9厘、解読はすんだとの評価だけど、逸聞の内容もてつだって、宇宙人、異界人、神仙の光来説まで出てたりする。でも今は、呂の末裔が、ちゃっかり観光の具にしちゃってるんだから、やはり、シーラカンスばりに尾ヒレ背ビレに、まみれてるんだろう。ま、極めて貴重な文物には変わりないんだけども。
そして、その冒頭には、呂の述懐が警告をともなって、以下のように刻印されている。
「私は時代の風、神国より渡りくる秋の風に逆らった。だから深刻な罰を受けた、人生のなにもかもをメチャメチャにする苛罰を。平静を得たいま、夏の時代の懐旧がいかに厳酷な仕打ちをなすか、秋の時代に平和を望む心理がいかに仇となるか、その委細を縷述し、もって後世の資としたい。そしてこの偉大なる知恵を与えてくれた占術師、大壬に百万の感謝を」
みんなも興趣ある奇譚などみつけたら、想像の羽、じゆうに伸ばしてみてね。おわり。




