経理課のお姉さん
「あのぉ・・・佐藤さん?」
経理課の鈴木さんが、恐る恐る、といった感じで声を掛けてきた。
「はい、なんでしょう?」
「この出張の交通費なんですが」
「ああ、先週のやつですね」
「はい。それが、いつもより少ない様なのですが、・・あの・・もしかしてお間違えでは?」
鈴木さんは、確か三十台半ばのはず。清楚な感じだが、ちょっと地味目。ブラウスのボタンを第一ボタンまできっちり留めて、色気もあまりないのだけれど、何故か気になっている。胸はソコソコあるけど(笑)この会社の先輩だし、26歳の俺相手に、そんなにオドオドしなくてもいいのに、とちょっと思った。
「ああ、それですか。その日は祝日の次の日でしたでしょ?」
「あ・・はい」
「それで、前の日、夕方まで寝ていたのですよ」
「はあ・・夕方ですか」
何を言ってんだ、この男は?と思っているかな?
「はい。そうしたら、今度は夜眠れなくなっちゃって。それで、その出張の日は、寝ないで始発電車で移動したんですよ。どうせ、電車の中で眠れるからって」
「そうなんですね・・・朝早くからお疲れ様です」
「いえいえ・・・それで、いつもは、特急電車の始発駅から乗っているのですが、その日は、特急の途中駅から乗ったんですよ。それで、特急料金が少し安くなったんです」
「まあ、そうだったんですね、それで・・・。なるほど、判りました。お忙しいところ、お手数おかけしてすいませんでした」
「いえいえ、なんでもありません。それより、鈴木さん、すごいですね」
「何がですか?」
「交通費の清算なんて、沢山あるでしょう?一つ一つチェックなさっている、ということですよね?」
「そんな・・チェックするのは当たり前ですよ」
「そうだとしても、多いならともかく、少ないのまでチェックするなんて。鈴木さん、お仕事が丁寧ですね」
「そんなことありません」
ちょっと俯いて、照れたようにはにかむ鈴木さん。
「丁寧な仕事。俺も、見習わなくっちゃ、いけないですね。頑張ります」
「いえいえ、佐藤さんは十分頑張っていますよ。偉い人達がよく褒めていますよ」
「そうですか?でも、もっと頑張ります」
「はい・・頑張ってください。それじゃ、お忙しいところ、ありがとうございました」
「鈴木さんこそ、お忙しいところ、お手数お掛けしました。次からは、清算伝票にメモ書きする様にしますね」
「いえいえ、そこまでして頂かなくでも結構です」
「いえ、間違いがあってはいけませんから。気を付けます」
「そうですか?・・それでは、お手数をお掛けしますがお願いします」
「はい。ご心配をお掛けしてすいませんでした」
「とんでもありません。こちらこそ、お手数をお掛けしました。ありがとうございました」
深々と頭を下げて、自席に戻る鈴木さん。後ろ姿も清楚で、素敵な人だな、と思った。心惹かれた。
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とある金曜日。この日は、仕事が順調に片付き、定時で上がることになった。
「お先に失礼します」
周りの人達に挨拶して、オフィスを出ると、エレベーターホールに鈴木さんがいた。
「鈴木さん、お疲れ様です」
声を掛けるとちょっと驚いた様にこちらを振り返る。
「ああ・・佐藤さんもお疲れ様です。今日はもう上がりですか?」
「はい、今日は仕事が順調にいきました」
「それは・・良かったですね」
「はい、良い気分で楽しい三連休です。たっぷり寝ます」
鈴木さん、俺の冗談でちょっと笑った。
「そうですね、佐藤さん、普段、頑張り過ぎのところがあるから、ゆっくり休んでくださいね」
「はぁい、ゆっくりします」
楽しく話ながら、オフィスビルを出て駅まで歩く。
「そういえば、俺は、○○線の□□ですが、鈴木さんは、どちら方面ですか?」
「私も同じ方向です」
ちょっといたずらっぽく笑う鈴木さん。なんだろうね。
「佐藤さん、交通費の清算伝票に書いてありますよね」
鈴木さんが種明かし。
「ああ!そうですね。鈴木さんは、社員皆の最寄り駅を知っているのですね?」
「はい・・でも、佐藤さんは・・・気にしているから・・・」
「ん?なんですか?」
最後の方が聞き取れなくて聞き返した。
「何でもありません」
「そうですか・・・」
鈴木さん、何か気になる事を言った様だけど・・・
電車に乗ってからも、色々な話をした。鈴木さん、訥々と話すけれど、普段、接することが少ない人達の話とか、中々、楽しい時間が過ごせた。あまり楽しかったので、もっと鈴木さんと一緒の時間を過ごしたい、と思い、思い切って食事に誘ってみた。
「あの、鈴木さん、俺、途中駅の△△で一旦降りて、駅ナカのレストランで晩御飯食べて帰る予定なんです」
「まあ、そうなんですね」
「はい、なかなか美味しいお店があるので。休みの前の夜ご飯は、いつもそうしているのですよ」
「そうですか」
「はい。宜しかったら御一緒しませんか?奢りますよ」
「まあ、嬉しい。男性と食事なんて久しぶり」
パッと笑顔がはじけた。ドキンとした。誘って良かった。
食事の間も色々話して楽しかった。話の端々から、今現在、付き合っている人はいないらしい。それなら、俺が彼氏になろう。このまま、一緒に朝を迎えたい。素直にそう思った。
「鈴木さん、うちに来ませんか?」
そろそろ会計、といったタイミングで、ダメ元で声を掛ける。
「えっ!・・・・佐藤さんのおうち・・・・・でも・・・うーん・・・・はい、良いですよ」
「ありがとうございます。では、そろそろ行きましょうか?」
「あ、はぃ」
赤くなって小さな声で応えてくれる鈴木さん。
レストランを出た後、そっと鈴木さんの手を取る。
「ずっと前から素敵な人だなって、思っていて。このまま、別れたくないなって、思いました」
「嬉しい・・・・あの・・・実は私も佐藤さんのこと、ずっと気になっていて」
「そうなんですか?」
「ええ、偉い人達がいつも褒めているし、どんな人かなぁ、って気にしていて・・・・」
「俺も嬉しいです。俺達、両想いだったんですね」
「はい。でも、私、佐藤さんより年上だし、かなわぬ夢かな、って思っていました。今日は誘ってくれて、本当に嬉しかったです」
「恋愛に年齢は関係無いと思います。俺も、素敵な鈴木さんだから、彼氏さんがいるのかな?と半分あきらめていましたから」
「嬉しい・・・佐藤さんて、私のタイプなんです」
「俺も、鈴木さんがタイプです」
「もう・・こんなに嬉しくさせて」
俺の腕をギュッと抱く鈴木さん。柔らかいものが腕に当たって気持ちいい。
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・・・・・・
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目覚めれば、俺の胸でスヤスヤ眠る鈴木さん。寝顔が可愛い。大事にしよう、と心から思った。




