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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

精霊姫の秘密

作者: 氷桜 零


いつものように空腹で目を覚ます。

窓がない狭くて暗い部屋。

ここでずっと生活していたから、暗くても部屋の中はよく見える。

夏は暑くて、冬は凍えるほど寒い。

扉は外からたくさんの釘が打たれていて、開けられない。

もう五年近く、この扉は開けられていない。


ここにあるのは、ボロボロの麻布一枚だけ。

着る物も、今着ている一枚の灰色のワンピースだけ。

何年の着ているから、サイズが小さい。

でもこれしかないから、我慢するしかない。

服も部屋も、あれば嬉しいけど、なくても困らない。

ただ、この空腹だけは、いつまでも慣れない。

ご飯も水もここにはないし、持ってきてくれる人もいない。


多分みんな、私が死んだと思っているはず。

むしろ、覚えているのかさえ怪しい。

普通の人は、何年も飲まず食わずで、生きていられるはずがない。

けれど私は普通とは違うから、かろうじて生きている。


いつだったか、空腹と喉の渇きに意識が飛んだ時、身体から魂が抜けたことがある。

私はそれを霊体、若しくは霊体状態と呼んでいる。

あの時は本当に驚いた。

だって、自分の身体は床に倒れているのに、透けた身体で宙に浮いていたから。


霊体になっているときは、殆どの人は私が見えない。

この家の人は全員、私を見ることができなかった。

この家の外に出ると、たまに目が合う人がいたけど、話ができる人はいなかった。

それでもここにいるよりは楽しいので、霊体で過ごす時間が増えた。


霊体になると、空腹も渇きも感じなくなる。

けれど身体に戻ったら、空腹も渇きも感じる。

だから霊体になって、食べ物をとってくるようになった。

また、霊体になれるのと同じくして、不思議な力を使えるようになった。

その力で水を出すことができたから、喉が渇くことがなくなって嬉しかった。


もう4日は何も食べていない。

霊体でいると、時間の感覚がないので、よく食べ物を取りに行くことを忘れてしまう。

今日こそ忘れずに食べ物を取りに行かないと。


私は再び目を閉じ、霊体になって身体から離れた。


行き先は特に決まっていない。

ただ今日は、お城でお茶会があると、この家の女の子が言っていた。

その女の子は、私の姉だ。

霊体になると、普段よりも格段に強い力が使える。

その力で、血縁者のことがわかった。


霊体で家の中をウロウロした結果、色々と知ることができた。


ここはデレイニー伯爵家。

父である伯爵は、王城で役職を持っているくらい優秀。

母である伯爵夫人は、社交界でも中心に近い立ち位置いる。

上の兄は天才で、10歳〜15歳まで留学していた。

姉は、美人で社交的なのでたくさん友人がいる。

下の兄は剣術が得意。

そして私は、存在が消された第4子で次女。

貴族では珍しく家族仲が良い。

私の存在を無視すれば、完璧な家族だ。


今更悲しんだりしない。

その期間は、とっくに過ぎてしまったから。

今はただ、ここから離れたい。

自由になりたい。

ただそれだけ。


そんなことより、今は食べ物だ。

お茶会なら、美味しいお菓子がたくさんあるはず。

少しぐらい、もらっても良いだろう。

私のことが見える人も少ないから、バレることもない。


確かお城は、あの一番大きな建物だったはず。


私は、遠くに見える塔を目指して飛んだ。



お城には初めてきたけど、たくさんの人がいる。

綺麗な服を着た男の人や女の人。

私がすぐ隣を飛んでも、気づいた人はいない。

外よりも、私が見える人がいないのだろうか?

それならば安心して動ける。


色々な建物を潜り抜け、綺麗な庭園で着飾った人がお喋りしている場所に辿り着いた。

そこには姉もいた。

上の兄も出席している。


姉が言う通り、良い香りのするお茶とお菓子がたくさん。

隅にある焼き菓子を適当に数枚取って、人がいない庭園の奥に飛んだ。



そんな私の姿を、バッチリ見られていたとは思わずに、呑気に私は、お菓子に想いを馳せていた。



私はゆっくり飛びながら、庭園の花々を見て回った。

どの花も生き生きとしていて、丁寧に世話をされていることがわかる。

こんなにたくさんの花があるのに香りがキツくないのは、品種改良でもされているのだろうか。

今まで見てきた庭園の中で、一番美しいと思う。

さすが城は他と違うのだなと思った。


庭園を進んでいくと、噴水のある場所に辿り着いた。

ちょうど人もいないので、もらったお菓子を確認しようと思う。


噴水の淵に座り、紙に包んだお菓子を広げた。


美味しそうな焼き菓子が10枚。

見ていたら、すぐにでも食べたくなってきた。

霊体で飲み食いはできるが、それが本体に反映されるわけではない。

1枚でも多く持って帰るべきとわかっていたが、どうしても食べたくなった。

食事も久しぶりだが、お菓子はもっと久しぶりだったから。


…1枚くらい、良いかな?

良いよね、きっと。


サクッ


『〜〜美味しい〜!』


サクサクした食感に、口に広がる甘み。

笑顔が溢れ、思わず、足がバタバタと動いてしまう。


もう1枚食べたかったけど、我慢我慢。


私は美味しさの余韻に浸っていた。


「とても可愛らしいお客さんだね。」


「ちょっ…殿下…」


目の前の生垣から現れたのは、2人の男の子。

全く予期していなかったことに、固まってしまう。


「こんにちは、小さな精霊姫。初めまして、私はエルネスト。こっちはカルヴァート。君の名前は何て言うの?」


名前、聞かれたのは初めてだ。

話しかけてくれたのも。

どうしようか迷いつつ、結局話がしたいと言う気持ちが抑えられなかった。


『…ネーヴェ』


私は生まれた時から二つの名前を持っていた。

何故かはわからないけど、心に刻まれていた名前。

その1つ目の名前を、彼に教えることにした。


初めて名前を聞かれて、初めて名前を教えた。

その事実が、なんだか心を温かくした。

嬉しくて、少し恥ずかしくて、はにかんで答えた。


「「っ…!」」


私の笑顔と共に、光の花が咲いた。

私の喜びに反応して、足元にも小さな花が咲く。


「精霊姫…」


「き、今日はどうしたの?お茶会に興味があるなら、一緒に行かないかい?」


『お菓子が欲しくて。食べ物がなくて、お腹空いて…』


彼らは表情を曇らせる。


「ご飯、食べていないのかい?」


エルネストが心配の声をかけた。


『地下に閉じ込められて、食べ物ないの。ここでお茶会があるって聞いて、お菓子を貰いたくて。』


エルネストは信じられない事実に、絶句してしまう。


「今は何歳?いつから閉じ込められているんだ?」


今度はカルヴァートが問いかけた。


『多分、7歳くらい。生まれた時から。』


「「…………」」


正確な年も、期間もわからない。

霊体になって、拾い集めた情報から推測したのだ。


エルネストたちは、何も言えずに黙り込んでしまう。

だって、何と声をかけたら良いのかわからない。

きっと想像もできないくらい、悲しくて苦しくて辛かっただろう。

閉じ込めた相手に、その関係者に、無性に腹が立って仕方がない。

助けるためには、もっと情報が必要だ。


「何かわかることはないかい?君を助けたいんだ。」


「何でもいい。覚えていることはあるか?」


『助けてくれるの?本当に?』


「「ああ、当然だ。」」


目を逸らさず、キッパリという彼らを信じてみようと思った。

理由はわからないが、大丈夫という気持ちがある。


『……デレイニー伯爵。』


「デレイニー…あそこか。」


『知っているの?』


「ああ、貴族の家は全て頭に入っているからね。」


「あそこは確か、数年前から不況が続いていたな。原因は不明とのことだったが、そう言うことか。」


「待っていて。必ず助けるから。」


『うん、待ってる。』




ーーーーー


初めて人と話した日から、どれくらいの時間が経っただろうか。

あの日から、外に出られる日のことを今か今かと待っている。

時間が過ぎる毎に、やっぱり嘘だったのかも、無理だったのかもと不安が積み重なっていく。

来る日も来る日も、期待と失望を繰り返す日々。



その日の目覚めはいつもと違った。

上の階が騒がしのだ。

こんなに騒がしいのは、生まれて初めてではないだろうか。

それでも、私には関係がないことと思っていた。

扉の向こうから、聞き覚えのある声を聞くまでは。


「……!」


もう一度寝ようと目を閉じた時、扉の向こうが騒がしくなった。

ここまで来る人なんて、ここ数年はいなかったのに。


「…なんだここは?」


「使わない場所なので、閉じているのですよ。ええ。」


「開けろ。」


「はっ!」


ガンッ ガンッ


聞き覚えのある声。

でもあの時よりも冷たい。

夢かもしれない。

でも、現実なら…。


私は霊体になって、扉の外に出た。


「ネーヴェ!やっぱりここだったか!」


出てきた私を、エルネストがすぐに見つけてくれた。

すぐ側にはカルヴァートも一緒にいた。

他にも見覚えのある人、ない人、たくさんの人が、この狭い空間にいた。

その中でも私が見えている人は、エルネスト、カルヴァート、上の兄、一人の騎士だけだった。


その騎士が、扉を開けてくれようとしているみたい。

3度、4度、鞘に入った剣を振りかぶると、扉は耐えきれずに壊れた。


光が刺さなかった真っ暗な部屋に、私の本体はあった。


エルネストが、私に駆け寄って抱き上げる。


「すまない、遅くなってしまって。」


『でも、約束を守ってくれた。ありがとう。』


私はエルネストに近寄り、礼を述べた。


今まで誰も助けてくれなかった。

声が届かなかった。

けれど、エルネストが、カルヴァートが気づいてくれた。

約束通り、助けに来てくれた。


「ご飯を食べて、たくさん、やりたいことをしよう。」


『うん!!』


私の喜びに反応して、光の花が舞った。




保護されたネーヴェは、別の家に引き取られて、何やかんやと、色々な事件に巻き込まれつつ、解決していきます。


まだまだ書ききれていないこともあるので、できれば連載したい!余裕があれば!

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