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第6話 怪しい青年

 後で問題にならないよう念の為、救急車と警察を呼んだ。

 金髪おじは救急車に乗せられ、病院へ運ばれる。

 大変なことになったなと思いながら救急車を見送り、警察に事情を話す隼人とスーツおじを待つのだった。


 親友の榊隼人さかきはやとは全世界に病院を展開する榊医院の御曹司であり、ホーグリップ学園特殊技能科嫉妬クラスに所属する、世界政府日本支部グリッドアーマー部隊の隊員。


 正樹の父である正義と隼人の父である榊厳正さかきげんせいが幼なじみの仲良しということもあり、正樹と隼人、そして美音は15年間一緒に行動することが多かった。

 いわゆる幼馴染というやつである。


 楓家の行事に隼人が参加する度に美音は「邪魔!」とキレることが多かったが、それでも3人で仲良く遊んだ思い出の方が遥かに多い。

 正樹にとって唯一、自分の境遇をバカにしてこない、親友と呼べるのは隼人だけであった。


 隼人は厳正のことをこの上なく尊敬しており、父のようになりたいという思いがかなり強い。

 厳正は無知な正樹から見てもすごい人で、医療界隈でもその名を知らない人はいないほどの超有名人である。

 厳正は『欲望因子』を使用することによる治療を発案した第一人者。

 厳正が行った医療改革は日本、いや、世界の医療レベルを爆発的に上げたのだった。


 厳正のようになりたいと思う隼人の気持ちは当然納得出来た正樹。

 だが、グリッドアーマー部隊に所属することに関してはよく理解できなかった。

 軍でバイトすれば暇も潰せて治癒能力のグリッドを持つ人間も見つけることが出来る、一石二鳥と言って軍に入った隼人には正樹も難色を示していた。


 グリッド能力のない厳正を慕うのであれば、愚直に本を読んで知識を増やすこと、それが厳正に近づく努力だと思っていたのだった。


「もう帰っていいってさ。俺が軍人って話したらすぐ解放されたよ。お咎めなし、世界政府様様!!」

「調子に乗るな!」

「イテッ、なんだよ正樹」


 呑気に頭の後ろで手を組む隼人。

 正樹は静かに隼人の腹を小突く。


 30分も待たせてよく言うものだと思う。

 これだけ時間がかかったということは軍人である話を出すまでは問題になりかけたということだ。

 最初から軍人だと伝えればすぐ解放されただろうに。頭がいいのか悪いのか。

 隼人の思考は、付き合って15年たった今でも、たまに分からないことがある。


 とりあえず帰っていいということで、2人はその場を離れることにする。


「そういや正樹は一般職の学科に入ったんだよな。グリッド使えるって話、面接でしなかったのかよ?」

「言ってない」

「何でだよ?」


 家に向かう途中、隼人は特殊技能学科に入らなかった正樹に面接の話を聞く。


「だって誰にも聞かれ無かったし」

「普通自分から言うだろ」

「そうなの?」

「アピールポイントだろ、グリッド持ってるなんて」

「へぇ〜、そうなのか。グリッド持ってたら特殊技能科って入れるの?」

「お前は特にな。何にも知らなそうだから俺がちゃんと説明してやるよ」


 ホーグリップ学園について無知そうな正樹を見て、隼人はグリッドの話も含めて、特殊技能科について説明した。


 特殊技能学科は欲望値が特化し、グリッド能力が使える生徒で構成された学科。

 グリッドの能力を持つ人間は人口の約0.005パーセント。

 日本だけで言うなら1億人いて5千人しか使えないグリッドは、使えると言うだけでも重宝される存在である。

 またその5千人の中でも戦闘向きのグリッド持ちなのはごくわずかで、ヤクザやゴロツキでもないなら大抵のヤツが特殊技能学科に入り、高収入な軍人や警察などの防衛機関に入るのが普通なのだ。


「正樹は殺傷能力ゴリゴリのグリッド持ちなのに一般職でいいのか?」

「んー、どうだろ」

「戦闘向きじゃないグリッド持ちのヤツでも特殊技能学科に入りたい基本なのに」


 隼人は勿体無いと言ってくる。

 でも正樹からすれば軍人になる必要も特に無い。

 なんなら軍人になるというのは、最悪の選択肢かもしれない。

 正樹の欲は美味しい物を食べて平穏に家族と暮らすことだけ。

 軍の美味しいかも分からない飯を食い、美音と長期的に離れる可能性があるなどもってのほかであった。


 それに加えて正樹のグリッドは殺傷能力が半端なく高い。

 一歩間違えば、簡単に人を殺しかねないほどの力。

 そんな能力を望んでも無いのに持ってしまったことは、正樹にとって懸念材料でしかなかったのである。


「殺傷能力バリバリのグリッドなんて使わないに越したことないでしょ」

「そうか? 悪いヤツなんて殺っちまえばいいと思うけどな」

「怖いこと言うなよ」


 医療に携わりたい人間から出る言葉じゃないなと思う正樹。

 隼人の言葉で余計軍に入りたく無くなってしまう。


「勿体ないと思うけどな。俺は『嫉妬剣』よりも、お前の『人形』の方が欲しかったかな」

「『人形』って言うなよ。なんか恥ずかしいから。でもいいよな、お前のは『嫉妬剣』って名前でカッコいいじゃん」

「カッコよくねーだろ! ……なぁ、俺ってそんなに嫉妬深いかな?」


 正樹と隼人はお互いのグリッドを羨ましいと話しながら歩いていた。すると


「俺はどっちも羨ましいけどな、ガハハハハ」

「「!?」」


 すぐ後ろから唐突に声をかけられる。

 2人は驚き、振り返ると、そこにはホーグリップ学園の制服を来た青年がいた。


 青いツンツン髪で左耳には輪っかのピアスが1つ。

 身長は180cmぐらいあるだろうか。正樹の4、5cm上ぐらいの高さ。

 ホーグリップ学園の制服を着崩しており、首元には二の数字。


「えっと、どちら様ですかね?」


 正樹は青年に尋ねる。

 すると青年はすぐに正体を明かす。


「あっ、俺? 俺は西園寺凪さいおんじなぎ。みーちゃんとは仲良いんだけど、知らない?」

「知らないです」

「即答かよ!? そっか、聞いてないか」


 凪は正樹に知らないと言われ、しょんぼりしてしまう。


「みーちゃん、2年生……もしかして美音さんの知り合い?」

「おっ、正解!」

「何だ、美音さんの友達か。いきなり話しかけてくるからビックリしたぞ」


 隼人の問いに凪は答える。それにより、みーちゃんの正体が美音のことを言っていたと判明する。


 そうか姉さんの友達……ん、男の友達? 

 正樹は電車での一件を思い出した。

 美音に男の友達はいないはず。

 コイツ……もしかして美音を狙ってた電車のヤツらみたいなカンジか?


 正樹は凪を怪しいと思い、ズルズルと後退りしていく。

 距離を取られていると感じた凪は


「俺のこと怪しいとか思ってる?」


 正樹が思っていたことをズバリ言い当てる。

 それに対して正樹はコクリ。


「うへー、マジか。俺ってそんな怪しく見えるのか? 普通だと思うんだけどな〜」


 凪は自分の姿を確認していた。


 凪はちょっとヤンチャにも見えるが、見た目がどうというのではない。

 電車で会った男達のように、凪も美音を狙ってると思ったら、警戒心が働いてしまったのだ。

 腰を落とし、重心を下げる。


「おっ、何だ正樹。もしかしてやる気か? だったら俺も……」

「ん? 違う、そうじゃ……」

「『嫉妬剣ジェラス』!!」


 正樹の警戒する様子を見た隼人は勘違いして先走り、グリッドを解放する。

 まだ人通りが多い中、堂々と漆黒の大剣を解放し、肩に担ぐ。

 周りの人達は騒ぎ出す。


「何考えてるんだ、隼人!」


 正樹は隼人を睨みつける。


 隼人も正樹が静かに怒っているのを見て、自分がやったことは間違いだと気づいた。

 すぐに解放した『嫉妬剣ジェラス』を消そうとするが、それを見た凪は高笑いしながら話しかけてくる。

 

「急にこんなとこでグリッド出すとか。馬鹿で面白いな! 君、名前は?」

「ば、馬鹿!? 俺は榊隼人だけど」

「榊? ……ふーん、君がグリッドアーマー部隊の」

「!?」

「あっ、ヤベッ!」


 グリッドアーマー部隊に配属されていることを知るのは軍の人間と親しい正樹だけ。

 ただの学生が知ってるわけが無い。

 それに西園寺凪なんてのも軍人として知らない。

 凪の一言は隼人の警戒心も一気に引き上げる。


 口を滑らせたことを後悔する凪。

 隼人は再びやる気になってしまったが、凪には戦う気などサラサラ無い。

 グリッドを向けられてもどうしたもんかと思い、凪はグリッドで肉体を強化。

 その場を去ることにした。


「なんかヤバそうだから逃げるわ。あっ、みーちゃんによろしく言っといてくれよ、正樹。じゃあなー」


 グリッドで強化した肉体で地面を蹴り、4、5メートルはある街灯に飛び乗る。

 そこからまた跳躍して、凪は一瞬で2人の前から消えるのであった。


「逃げたぞ。何者だよアイツ?」

「分からない。とりあえず姉さんに聞いてみるよ。それより隼人、早くグリッド消しなよ」

「おっと、やばいやばい」


 隼人はすぐに『嫉妬剣ジェラス』を解除。

 こんなところで暴れたなんて通報されたら、すぐに警察が来る。

 1日で2回も警察の面倒になるのは御免。

 2人して一目散にその場からエスケープする。


 特殊技能学科2年の西園寺凪。

 素性をよく知らないその男が、今後正樹達と深い関わりになっていくことを、その時2人は予想もしていなかった。


◇◇◇◇◇


 2030年4月8日、正樹は昨日と同じように鏡の前に立って寝癖を直していた。

 入学式の日、1日だけでいろんなことがあったと思い出す。

 電車で男子生徒たちにに囲まれ、隼人は金髪おじを撃退、最後は知らない先輩と出会った。


 昨日は西園寺凪について美音に聞きたいことがあったが、1日で色々あったから疲れていた。

 部活があって帰るのが遅い美音を待てず、聞く前に寝てしまったのだ。


「姉さん、そういえば聞きたいことあるんだけど」

「ああ、凪のことでしょ? 聞いてるよー。メールで正樹と会ったって来てた。でも後にしてくれない? ちょっと今忙しいの」


 浴室の鏡前に立つ正樹は寝癖を直しながら凪について美音に聞こえるよう大声で質問すると、美音は自室から大声で返事を返した。

 今は忙しいようなので、学園に向かっている最中にいろいろと聞くことにした。


 西園寺凪サイオンジナギはホーグリップ学園特殊技能学科強欲クラスの2年生。

 現在特殊技能学科の強欲クラスにいる凪であるが、1年の後期が始まるまで一般職専門学科の色欲クラスに所属しており、美音とは元々クラスメイトだっだのだ。

 なんでも学園在学中にグリッドが使えることに気づいたらしく、途中から学科を転属したらしい。


 後天的にグリッドに目覚めることは少なからずあること。

 現に欲望国出現前からいた人、つまりは30歳を超えてグリッドが使える人というのは、後天的にグリッドが使えるようになってるのだ。


 それを踏まえて凪が一般職専門学科から特殊技能学科に変わるのは分かる。

 けど色欲クラスから強欲クラスに変わるなど有り得るのか?

 人間を構成する欲望には、変化があるということだろうか。


「変わってるヤツだからね凪って。凪ってば私に生徒会長目指せとか言ってくるの。センスあるからとか言って。私グリッドも無いのに、何のセンスよ」


 美音が凪について話す様子はとても楽しそうに見えた。


 美音が凪と下の名前で呼ぶのは苗字が長くてめんどくさいかららしい。

 だが恋愛無知の正樹からすると、男女が下の名前で呼び合うなんてのは、もはやカップルの所業。

 2人の仲が気になってしょうがなかったが、美音に凪のことを聞いて恋人として好きなどと言われた日には……。

 ダメだ、壊れるかも。


「仲良いんだね凪って人と。俺も機会があったら話してみたいな」


 美音ではなく、凪の方を問い詰めることに決めた。


はじめましてゴシといいます。

読んでいただきありがとうございます!

この話を読んで面白そうって少しでも思ってくださる方がいてくれると嬉しいです。

まだまだ話は続いて行きます。これからも更新して行きますのでブックマークの方もよろしくお願いします!


下の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

応援されてると思うとやる気めちゃ出てスラスラ書いちゃいます。

これからも愛読と応援のほどよろしくお願いします。

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