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第5話 正樹の親友

 正樹と美音は屋上のベンチに座り、美音が買ってきた飯を食べ始める。


「え、美味! なんだこれ? 激ウマ美味ーーー!!!」


 サンドイッチをほうばり、正樹はテンション爆上がりする。

 美音が売店で購入した『びちゃびちゃキムチサンド~キャビアを添えて~』は想像を絶する美味さ。

 牛乳でびちゃびちゃになった食パンにキムチを挟んでおり、食パンの上部中央には頑張れば数えれるぐらいのキャビアがひっそり乗っている。牛乳の甘さとキムチの酸味がマッチしており、中央まで食べ進めてキャビアと出会った時の甘み、酸味、塩味の融合はやばいの一言。


「キャビアが少ないと思うかもだけど、ちょっとの変化を楽しむってとこがすごくいい! これ作った人、分かってるわー!」

「食べ物ことになるとやたらうるさくなるわよね。良かったじゃない。暴食クラスに入学できて。はぁ〜」


 喜ぶ正樹とは裏腹に、美音は少しガッカリしてしまった。


 姉と楽しく登校して、姉と一緒にいるいれることに喜ぶ弟。

 そんなことを期待していた美音は、今日1番の喜びを見せる正樹を見て、自分の魅力はサンドイッチの美味しさにあっけなく敗北したと感じるのであった。


「そういえば暴食クラスっていうけど、何するクラスなの? 姉さんは確か色欲クラスで、お花いっぱい育てたり、人といっぱい話したりしてるんだっけ?」

「マナー講座と接客対応講座よ! 何その言い方。幼稚園の話してる!?」


 正樹の無知発言には流石の美音も怒りを見せる。


「本当に何も知らないで入学したのね。ホントしょうがない弟よね」

「ふもふも」

「今からお姉ちゃんが学園こと説明してあげるからちゃんと聞きなさい」

「もぐもぐ」

「せっかく受験勉強頑張って入ってるんだから、正樹には頑張って欲しいわね。どんだけ勉強教えるの大変だったか、って話してるんだから手を止めなさい!」

「うぅお!?」


 2個目のサンドイッチを手に取る正樹の腕を美音は掴み、振り下ろす。

 手を離れたサンドイッチが運良くビニール袋の上に落ちたことに安堵するが、これ以上サンドイッチに固執しているといつ蹴りが飛んでくるか分からないと思い、美音の話をしっかり聞いてから拾うことにする。

 食べるのを辞めた正樹を見て、美音は学園について詳しく話す。


『東京都立ホーグリップ学園』

 東京都千代田区に位置する高校であり、今年で創立20年になる。

 20年しか経たない高校であるが、現時点で日本国内に存在する高校の中で、ホーグリップ学園はトップに君臨している。


 学園の理念は『希望の中に欲望は不可欠』というもの。

 ちなみに学園の名前は希望のホープと欲のグリードを混ぜてできた名前である。


 欲望国の出現以来、世界では欲望の研究が大体的に行われている。

 欲望は人が生まれながらに持っているもので、人を構築するのはDNAや細胞だけでなく、欲望の種類にも関係しているというのが30年続けられる研究で分かってきたことなのだ。


 ホーグリップ学園は人の成り立ちが欲望に関係するということに着目してできた高校で、欲望の偏りによって人の得意分野は違うというのが学園の教育方針なのだ。


 ホーグリップ学園には3つの学科が存在し、それぞれ7つの欲望にちなんだクラスがある。


 学科は一般職専門学科、特殊技能学科、そして特別措置待遇学科の3つに分けられている。


 一般職専門学科は名前の通り、一般的な職業に進むことを目的とした学科である。

 ただ他の高校と違うのはクラスが欲望値によって編成され、各々のクラスが違う授業を受けていることである。


 先にも言ったがホーグリップ学園は欲望の偏りで得意分野が違うことにいち早く気づいた高校である。

 得意分野を伸ばすことで優れた社会人になれるという教育方針。


 美音の通う一般職専門学科色欲クラスは、主に性を武器にして社会貢献できる人間の育成をするクラスである。

 美音が主に選択している講義は接客業と花嫁修行。

 他にも種類はあるらしいが、過激なものだとキャバクラや風俗などの就職に力を入れた授業もあるらしい。


 正樹の通う一般職専門学科暴食クラスは主に食関係。

 名前に食が入るだけあって生徒達の大半が飲食と関わりのある職業に着くため、授業も肉、魚、野菜と料理の種類で分けた授業がほとんどである。


「てことはだ。俺は授業でいっぱいご飯食べれるってこと?」

「……そうかもね。よかったわね、正樹!」

「いてててて、何だよ、姉さん」

「はぁ〜」


 説明を終えた後、正樹の一言目を聞いた美音は、なんてバカな弟なのかと思いながら正樹の耳をつねる。


 そして昼休み終了を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。

 美音は慌てて教室に戻っていく。

 美音と別れた正樹は少年との約束通り、嫉妬クラスに足を運ぶことにした。


 嫉妬クラスに着き、教室内を覗く。

 そこには部活見学などに行かなかったであろうクラスメイト数人と喋る、知人の少年がいた。


 少年は仲良さそうにクラスメイトと談笑。

 話の内容はどこの塾に通うかというもの。

 嫉妬クラスだけあり、勉学で他に劣ることがタバコ嫌いなのだろう。


 しばらく覗いていると、少年は正樹に気づく。


「おっ、来たな正樹! 行けそうか?」

「うん、大丈夫。じゃ、一緒にシュークリーム食べ行くか!」

「いや、全然目的違うから」


 おとぼけ正樹のシュークリーム発言には未だついていけない少年だったが、とりあえず行けるということで、学校周りの探索に出かけるのであった。


◇◇◇◇◇



「でな、こないだから股間めっちゃ痛いんよ。あの人マジで許せん!」

「はは、姉さんでもお前にそんなことしないよな」

「されたことないな。美音さんならマジでウェルカム! 握りしめられたい!」


 実の弟を前にこいつは何を言ってるんだと思いながら、正樹は少年と喫茶店に向かっている。


「俺はいじめたい方かな、どちらかと言えば」

「いや、お前にいじめられたくねーよ」

「姉さんをいじめるか、いじめられるかの話だろ」

「あっ、そっちか。あはは……いや、その発言も十分ヤバいわ」


 正樹と少年は笑いとドン引きを繰り返しながらも楽しく会話していた。

 そうしてる内に目的の喫茶店に到着する。


 店に入り、正樹は嫉妬クラスの生徒が教えてくれた『飛び出るイチゴ、カスタードマシマシシュー』を大量に購入して席につく。


 側面からはカスタードが溢れ出し、生地の頭からいちごのヘタがこんにちはしているシュークリームを目の前にする。

 少年がまだ注文しているにも関わらず、うずうずを抑えられない正樹はシュークリームに手を伸ばすのであった。


 うんうん、甘くて美味しい。いちごのヘタ取らなきゃか。うーん、普通に美味しいぐらいだな。

 この勝負、びちゃびちゃキムチサンドの圧倒的勝利ー! カンカンカーン!


 正樹は頭の中で今日食べた物を戦わせ、リング上で勝ち誇るサンドイッチとクリームを撒き散らしてしなしなになるシュークリームを想像する。


「そんなに食って夕飯食えるか? まあ、正樹なら食えるか。俺にも1個くれよ」


 コーヒー片手に少年は正樹の向かい側につく。


 1個? 1口じゃなく? おこがましい!

 正樹は少年の発言に怒りを覚えたが、コーヒーしか購入してないのを見て、少し考えを改めた。


 バイトしているとはいえ所詮は学生。

 シュークリームを買う金もないのだろうと思い可哀想な物を見る目で正樹は少年にシュークリームを分け与える。


 2人はお茶をしながら、受験から入学までに起きた出来事を面白おかしく話した。

 正樹は家の事、受験勉強の時期、合格通知についての話。

 少年はバイトで起こった出来事について話す。

 普段他人の前では仏頂面の正樹でも、少年の前では笑いをこらえることが出来なかった。


 楽しく会話を弾ませる2人であったが、店内は逆に重たい空気がたちこめていた。

 正樹と少年の座る席から3つ分離れた席でスーツ姿の真面目そうなおじさんとアロハシャツを着たガラの悪い金髪おじさんが口論し始めたのだ。


 話の内容が聞こえるぐらい大声で怒鳴る金髪おじさん。それに対して深々と頭を下げるスーツのおじさん。

 話の内容と2人の行動から推察するに、借金の取り立てであろうことはすぐに分かった。

 金を出せ、臓器の1個や2個なら大丈夫、嫁と娘を売れ。

 金髪おじの脅しは酷いもので、聞いてるのも不快であった。


「気分悪いわ。ちょっと注意してくる」


 少年が席を立ち、金髪おじのところに行く素振りを見せる。

 それに対して正樹はすかさず少年の制服を掴む。


「やめとけって。学校入った初日で問題になるようなことするなよ」

「心配すんな、すぐ終わるって。静かにしてって頼むだけだ」


 少年は正樹の手を剥がし、金髪おじの所へ行く。

 正樹は仕方なく3人の動きを観察しながらシュークリームをほうばる。


 少年が2人に話しかけ、スーツおじは大丈夫です、すいませんといった手を前にやるジェスチャーをしていた。その後少年が金髪おじに話しかける。すると


「ガキが調子こいたこと言ってんなよ。怖い思いしたいんか!? 表出ろ! オラ、ついて来いや!」


 金髪おじは大声で怒鳴り散らかした後、少年を引っ張って店の外へ連れていく。

 やばい事になったと店内にいた人達は皆ひきつった顔になる。


 やっぱりそうなるじゃん。

 静かにしてで終わるわけないよな。

 正樹は首の力が抜け、ガックリ頭を落とす。


 店の店員やスーツおじが正樹に駆け寄り、お友達は大丈夫ですか? 本当にすいませんと心配してくれる。

 それに対して正樹は、シュークリームを食べる手を止めず、無言で苦笑いを返す。


 ガシャンパリンパリンパリンガシャンパリンドタン!!!

 しばらくして店の裏で大きな音がする。

 店員達はヤバいヤバいと言いながら2人の様子を見に行く。


「ああ、私のせいでお友達が! 本当にすいません。ああ、どうしよう……」


 スーツおじが涙目で謝ってくる。

 それを見てシュークリームを一旦置き、そして返答する。


「いえ、多分謝るのはこっちです。お父さんのこと考えたらアイツは止めるべきだったんですけど。いや、申し訳ない」


 謝るスーツおじに謝り返す。

 なぜ謝られたか分からないスーツおじだが、友達が心配だと言って、正樹と店を出ることにした。

 スーツおじは外に出て喫茶店と隣の店の間にあるゴミ置き場を見る。


 そこら中に散らばるジュース瓶が入っていたであろう箱。

 まばらに割れて飛び散ったジュース瓶の破片。

 その破片の上に寝転がる金髪おじ。

 そしてポケットに手を突っ込んで、ヘラヘラ顔で仁王立ちする少年。


「どういうことですか、これは? あれ、いや逆、え、え?」

 

 少年が酷い目に合うイメージを膨らませていたスーツおじは状況が理解出来ず、頭を抱える。


「やっぱりこうなるか。俺の友達が本当にすいません!」


 正樹はスーツおじに再び謝り。警察に事情を説明しとく方が身のためになるかもと提案する。

 正直なところ、この状況になることが最初から最後まで分かっていた。


 喧嘩をふっかけたのは少年の方で、店の裏に連れ出されたことで自己防衛という名目を作り、金髪おじをボコボコにするってのが少年の描いてたシナリオのはず。


「おっ、ごめん正樹。やっちったわ!」

「いや、ホント勘弁しろよ」


 周りが顔をひきつらせる中、少年は正樹に気づき、笑顔を向ける。


 普段は元気で無邪気な明るい少年。

 美音と顔を合わせる度に何故か怒られる。

 実は正義感があるが手が出やすい。

 でも父親を尊敬し、自分も医者になりたいと願い、目的があるからと言って世界政府直属の軍隊でバイトをする。

 ざっくばらんな短い赤髪の長身イケメン、正樹の親友、『榊隼人さかきはやと』は暗闇の中、1人だけ笑っていた。




はじめましてゴシといいます。

読んでいただきありがとうございます!

この話を読んで面白そうって少しでも思ってくださる方がいてくれると嬉しいです。

まだまだ話は続いて行きます。これからも更新して行きますのでブックマークの方もよろしくお願いします!


下の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

応援されてると思うとやる気めちゃ出てスラスラ書いちゃいます。

これからも愛読と応援のほどよろしくお願いします。

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