表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

第4話 アホな少年

 2030年4月7日、今日は高校の入学式。

 正樹は鏡の前で自分を見つめる。


「後ろ寝癖ついてる。直さないと……あ、かわいい」


 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で1番美しいのはだあれ? そう美音!

 正樹は美音を見ながらクネクネする。


「何やってるの正樹? 早くしないと学校遅れるわよ」


 背後に立つ美音は鏡越しに見つめてくる。

 

「寝癖とかは電車の中で私が直してあげるから、ほら行くよ」


 何をしてるのやらと呆れる美音は、正樹の首根っこをつかみ、玄関まで引きずっていく。

 そして玄関につく美音と正樹は、外から聞こえてくる叫び声に気づく。

 美音は玄関扉を少し開け、その隙間から遠くにある楓の樹正門を見つめる。

 すろとそこには、両手を上でバタバタさせながら叫ぶ1人の少年の姿があった。


 美音は少年を見るや、すぐさま正樹から手を離し、全速力で少年の元へ向かう。


「まーさーきー! みーおんさーん! 一緒に学校、あ、美音さ……ってぐへえぇぇ!?」


 少年を射程に捉え、美音必殺の全速力ジャンピングライダーキックが少年の腹に炸裂。

 少年はギャグ漫画でしか見れないような、綺麗なくの字で飛んでいく。


「いててっ、酷いッスよ美音さん」


 蹴られてもヘラヘラしている少年。

 美音は少年の胸ぐらをつかみかかる。


「今日は私と正樹の高校初登校っていう記念すべき日なの! 分かってたでしょ? 邪魔すんじゃ無いわよ!! 邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔……」

「そんな邪魔邪魔言わなくても。相変わらず正樹のこと好きッスよね、美音さん」


 美音の怒りは最高潮に達していた。


 それもそのはず。

 実は美音も正樹のことが大好きなのである。


 今日は正樹との初めての登校日。美音にとっては記念すべき日であり、誰にも邪魔されたくないのだ。


「お前な、空気読めよ! ほら帰れ……帰れ帰れー!!」


 美音は少年の胸ぐらを掴んだまま正門の外に放り投げた。

 放り出された少年は3人で行くのは駄目なのかと聞きたかったが、美音の顔は口を開くのも許さないぐらい怒り狂っていた。

 その様子を見て仕方ないと思い、少年はすいませんすいませんと連呼しながら、美音の前から立ち去るのであった。


「急にどうしたの姉さん? 靴ぐらい履いて行きなよ。ほら靴。誰かいたみたいだけど、姉さんの知り合い?」


 少し遅れて正門に到着。

 靴下のまま玄関を出た美音に、正樹は靴を差し出す。


「ありがとう正樹。あー、さっきいたの? アホよアホ。空気読めないアホアホマンよ!」


 何で怒ってるのかは分からないが、美音がかなりご立腹なのは理解出来た。


 空気読めないアホアホマン。

 楓の樹に来る者で、美音にそこまで言わせる人物に、1人だけ思い当たるヤツがいた。


 なんで怒られたのかは知らないけど、たぶんお前が悪いんだろう。反省してくれ。

 正樹は思い当たる人物を想像しながら、美音を怒らせないでくれと思うのであった。


 とりあえず怒る美音を落ち着かせ、急いで2人は駅に向かった。


 駅に到着し、改札を抜け、正樹と美音は出発の合図がジリジリとなる電車に駆け込む。

 ギリギリで電車に飛び乗る正樹はドアに挟まれそうになる美音の肩を持ち、自分に引き寄せる。


「公共の場で何すんのよ正樹。恥ずかしいじゃないの、もう、大胆ね」

「茶化すなよ。助けてやったのに」

「てへ。ごめんごめん」


 正樹は美音がドアに挟まれないよう引っ張っただけ。

 悪ふざけが好きな美音はそれを抱かれたみたいに言って、正樹のほっぺたをつねる。

 するとその光景を見ていた同じ高校の制服を着た男子生徒達はざわつき始めた。


 電車の中で良くないな。

 姉であっても公共の場で女性を抱きしめるのは変かと思い、美音と1度距離をとる。

 しかし周りのざわつき方は、正樹が想像してたざわつきとは全く違うものであった。


「美音様、誰ですかその男は?」

「もしかして美音様の彼氏ですか?」

「美音様、ああ、美音様ー。何故男とー!!」


 美音と正樹は7、8人の男子生徒達に囲まれた。

 美音側にいる男子生徒達は美音にうるうると涙目を向け、逆に正樹側にいる男子生徒達は正樹に殺意剥き出しで睨みをきかせる。


 この状況が理解出来ず、正樹はオドオドしていると、美音は男子生徒達に言い放つのであった。


「この子は弟の正樹よ。今日から一緒の学校に通うことになるから、邪魔しないでくれるかしら。ほら散った散った。しっ、しっ!」


 男子生徒達への扱いも雑な美音。

 そんな言い方したら怒られるぞと思って見ていたが、男子生徒達は「なんだ弟か、びっくりさせないで下さいよ」と言いながら正樹と美音から離れていく。


「……え、何? 知ってる人達?」


 正樹は急展開に頭が追いつかなかった。

 美音に男の知り合いがいたなんて、一緒にいて聞いた事がない。

 それに呼ばれ方が美音様。


「もしかして外でも宗教やってるのか?」

「馬鹿言わないでよ。知らないわ。同じ制服着てるから同じ学校の生徒なんじゃない?」

「知らないって、美音様って言ってたぞ」

「その辺の男子はみんなその呼び方してくるから気にしなくていいわよ。そんなことより今日の昼休みね……」


 美音は先の出来事などなかったかのように、昼休みの集合場所と何を食べるかの相談をはじめる。


 だが正樹の心境は穏やかではない。

 外で美音様と言われるのが当たり前。

 美音様って言われて知らない人で済ます。

 普通に生活してたら様付けで呼ばれない。

 自分のことを彼氏か心配で聞いてきた段階でアイツら確実に狙ってるよね?

 狙われてるよ美音、気づけー!


 雑な性格なのは知っていたが、ここまで興味の無いものに対してそっぽを向けるとは。

 美音大好き正樹でもドン引きしてしまった。


 全く興味が無いから今まで話題にも上がってこなかったのであろう。

 自分が先の男子生徒の内の1人だったらと思うと……。

 想像するだけで胸がキュッとなる正樹であった。


◇◇◇◇◇


 高校初日、入学式とホームルームが終わり昼休みを迎える。

 今日行われる行事は全て終わり、大抵の生徒が部活動の見学や自分の所属する欲望を専門に取り扱う研究室の訪問などをしている中、正樹は学園の屋上で美音を待っていた。


「あっ、シュークリーム。美味しそうだな〜。売店とかに売ってないかな」


 空に浮かぶ雲の塊を見つめながら1人で呟く。

 昼飯は自分が買ってくるという美音の言葉を鵜呑みにして売店に行かず、そのまま屋上に来たことを少し後悔していた。


 ぼーっと浮かぶ雲を見ながらシュークリームのことだけ考えていた。

 すると1人しかいないはずの屋上で、誰かが歌っているのに気づく。

 耳をすませてみると、その歌ってる人間が屋上入口の扉の奥にいると分かり、近づいてみると


「まーさきまーさーき。みおんをまってるまーさーきー。いーついーつきーづーくー」

「……隠れて何やってんの?」


 扉の奥でかごめかごめの歌を歌詞変して、アホみたいに歌う、正樹と知り合いの少年がいた。


「おっ、やっと気づいた。おせーよ正樹。どんだけ歌わせるんだよ!」

「……なんか用か?」


 勝手に歌ってたのに何を言ってるんだと思うが、つっこめばつっこむほど話が長くなりそうなので、少年の発言はスルーすることにした。

 正樹は用件だけを、聞くことにする。


 少年の用件は、美音と昼飯を食い終わってから時間があるなら一緒に出かけようということ。

 隠れていたのは美音が屋上に来たらまた蹴飛ばされると思い、入口付近でいつでも逃げ出せるように待っていたらしい。


「やっぱり朝家に来てたのはお前か。何して怒られたんだよ」


 美音を怒らせたアホとはやはりコイツだったか。

 少年との間を隔てている扉を薄目でじっと見つめる。


「一緒に学校行こうと思って迎えに行っただけだって。怒ってたのは美音さんがその、お前との……あー、えー」


 少年は正樹に真実を話すかどうか迷い、言葉が行き詰まる。


 相思相愛の正樹と美音。

 だがそれを知っているのは少年ただ1人で、まだ正樹と美音がお互いに好き同士であることは鈍感だからなのか、知らない事実だったのだ。

 教えるべきか黙っておくべきかは出会った当初からずっと迷っていた。


 正樹と美音の関係は仲のいい兄弟で止めておくべきというのが少年の考えである。

 2人が互いに恋愛感情レベルで好きだと気づけば、ドロドロ恋愛劇のはじまりはじまり。

 そんなドラマのようなものを目の前で見せられたら自分の精神がもたないと思い、少年は誤魔化すこととした。


「俺が美音さんに怒られるのはいつものことすぎてわかんないや。それより午後は時間空いてんの?」

「いつものことってお前な〜」

「美音さん達ってまだ授業とかあるから一緒に帰るとかないだろ? 学校の周り結構娯楽施設揃ってるから見に行かね? 喫茶店とかゲーセンとか」

「喫茶店か。シュークリームとかあるかな? ないならケーキ屋とかでもいいけど」

「シュークリーム? 何で急に?」


 正樹から出てきたシュークリーム発言に、少年は困惑。

 理由を聞こうとしたが、事態は急変する。


「うわぁやべ、一旦教室戻ってるわ。昼休み終わったら行くか行かないか言ってくれ。暴食棟じゃなくて嫉妬棟の教室だからな。間違えんなよー」


 少年は正樹に教室で待つと言い残し、すかさず階段を駆け下りていった。

 その数秒後、コツコツコツと近づいてくる足音がし、扉が開く。


「ん、どうしたの? 扉の前でぼーっとつっ立って? ベンチあるんだから座って待ってたら良かったのに。もしかしてお姉ちゃん来るの待ち遠しくて入口で待っててくれたの? このこのー!」


 ビニール袋を片手に現れた美音。

 美音はすかさず正樹のほっぺたをつまむ。


「やめてよ姉さん。……あれ痛い、いたたたた!?」


 最初は今朝のようなじゃれるつまみだったのに、急に力の入ったつねりに変化していく。

 眉間にシワを寄せ、鼻をピクピク動かす美音。


「アホのつけてた香水の匂いがする。アイツまた来たの? あー、本当邪魔するの好きね!」


 入口付近の匂いを嗅ぎながら美音はイライラし始めた。


 美音が来るをすぐ察知して逃げていったのもすごいし、その場にいたのを匂いで気づくのもすごいなと思う。

 喧嘩するほど仲がいいというが、実は気が合う2人なのではと少し心配になる正樹であった。

はじめましてゴシといいます。

読んでいただきありがとうございます!

この話を読んで面白そうって少しでも思ってくださる方がいてくれると嬉しいです。

まだまだ話は続いて行きます。これからも更新して行きますのでブックマークの方もよろしくお願いします!


下の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

応援されてると思うとやる気めちゃ出てスラスラ書いちゃいます。

これからも愛読と応援のほどよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ