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第3話 欲望国の王

 3月10日、アメリカ軍基地演習場では世界政府と欲望国の共同軍事演習が行われていた。


 横並びの陣形をとる戦車小隊は嫉妬国の王、チェン=チーリンに対して集中砲火を浴びせる。

 神機を装備したチェンは飛んでくる砲弾を蚊でも飛んできたかのように、触れることもなく、軽々と叩き落としていく。

 何かに守られてるのか。

 そう錯覚するほど、チェンの体には弾が届かない。


「弱い、弱すぎるよ! そんなんで自分の国守るとか言ってるなら甘いね! 私と対等にやりたいなら、核でも持ってくるといい!」


 チェンは砲弾の雨の中、高らかと笑っている。


 世界政府アメリカ支部軍部技術主任であるエマ=アルコーンは、戦車とチェンが戦うのを軍施設内のモニターで確認していた。

 すると一緒にモニターを見ていた傲慢の王、アーサー=ルシリエッタから声をかけられる。


「俺は戦車とかじゃなく、そちらの最新兵器、グリッドアーマーでしたか? それと手合わせしたいんですけど」


 急な提案をしてくるアーサー。


「無理言わないでください。今日は旧世代兵器と神機がどれだけ戦えるのかを見る訓練なのです。やりたいのであれば、後で大統領にでも言ってください」

「そうですか、それは残念」


 エマはアーサーの提案を跳ね除ける。

 アーサーは残念そうな顔をしていたが、また別の提案を出す。


「あぁ、そうだ。今晩一緒に食事でもどうでしょう。あなたのような知的な女性とはゆっくり話をしてみたい。それに神機について話が出来る機会はそうそう無い……」

「お言葉ですがアーサー様。軍事演習が終わり次第すぐに首脳陣との会談です。会談後は首脳陣との食事になると思います。ですからまたの機会に」


 ウェーブのかかった金色の髪に赤い瞳。

 スタイルも良く、整った顔立ちのアーサー。


 未婚女性ならホイホイついて行きそうな提案を、エマは食い気味に断る。


 傲慢国の王であるアーサーの機嫌を取るのは、世界政府に身を置く者として大切な職務であると、エマも頭では分かっている。

 ただ、アーサーの傲慢な話し方がかなり気に入らなかったのだ。

 何かあれば神機はすごい、戦車じゃ自分の実力が出せない、グリッドだけでも十分と言うアーサーが、鼻についてしかたなかった。


 欲望に特化した人の中でも、選ばれた人間のみが使える特異な能力『グリッド』

 その能力を向上させる、エマを中心に開発された兵器が『グリッドアーマー』


 アーサーのグリッドがどれ程のものかはまだ分からないが、グリッドアーマーなら何とかなるかもと信じたくなる。


「私が作ったグリッドアーマーでタコ殴りにしてやろうか」

「何か言いました?」

「いえ、何も。アーサー様、そろそろ準備を」

「はいはい、じゃあ行ってきますよ〜」


 アーサーを嫌うエマは、聞こえない音量でぼやく。

 それが聞こえてないアーサーは弱いものいじめは好きじゃないんだけどと呟きながら、次の訓練のため、部屋を出ていくのであった。


「……隼人、あんたの意見が聞きたい。どうだい、チェンの神機は?」


 エマは壁に寄りかかっていた少年、榊隼人さかきはやとに声をかける。

 隼人は壁から離れ、エマに近づき、思った感想を述べる。


「化け物ですよ、あのフェニクスとかいう神機。攻撃無効とかの能力だったらどうしましょ?」

「それをどうするか考えるのが私の仕事よ」


 戦車小隊と楽しげに戦っていたチェン。

 黒い神機を全身に装備したチェンが腕を振るだけで、触れることなく、砲弾はあらぬ方向に飛んでいく。

 神の機体と言うだけある。その強さは予想の遥か上をいくものであった。

 コンピューター解析はずっとしているが、今の所どういう原理で攻撃が届かないのかは分からないまま。


「お前でも勝てないのか?」

「勝てないんじゃないですか? 俺って医者になりたいだけの勤勉学生だし」


 15歳にして世界政府日本支部所属のグリッドアーマー部隊に選ばれた隼人。

 そのエリートから出るとは思えない弱気発言に、エマは怒りを見せる。


「若いうちからそんな弱々しいこと言ってどうする! 勝ちますよぐらい言えよ! 玉ついてんのか、お前は!!」


 エマは隼人の股間を鷲掴みにし、ツバが顔にかかるほど距離を詰めて怒鳴っていた。

 隼人は30歳の女性から股間を握りしめられながらの説教という行為を、若干15歳にして体験するのであった。


 隼人の欲は父親のような立派な医者になり、苦しんでる患者を救える人になること。


 グリッドアーマー部隊でどうなりたいなどとは一切考えていない。

 中学3年生の隼人にとって、グリッドアーマー部隊は学校の部活みたいなもの。

 言うなれば暇つぶしに近い感覚で入ったものであった。


 また暇つぶしと並行して、未だ公に確認されていない癒しに属するグリッド能力を探すという目的もあった。

 今日神機使いを見に来たのもその一環である。


 グリッドアーマー部隊にいれば、癒しのグリッド持ちと出くわすチャンスは必ずあるはず。

 きしむ股間の痛みに耐えるのも、自分の目的のためなら仕方ないと思い、上司であるエマの理不尽な攻撃にも、隼人は屈しないのであった。


◇◇◇◇◇


 軍事演習を終えたアーサーとチェンは、世界政府が用意した大使館に1度戻ることにした。


 国を代表するものとして、汗臭いまま対談するのは国の品位を損ねると言っていたアーサー。

 チェンは品位なんてくだらないと思ったものの、汗をかいたままなのは嫌なので、風呂に入ることにする。


「……それで、何故私たち一緒の風呂に入ってるね」


 チェンは一緒の温泉に浸かるアーサーを睨みつける。


 世界政府が用意したのは、元々日本の外交官が訪れていた大使館。

 個室に風呂が無く、温泉しかないため、アーサーとチェンは一緒になって風呂に入ることになってしまったのだ。


「サービスなってない。用意した世界政府は私達を舐めてるよ。会談で集まるのは各国の首脳陣。全員消してしまうか?」

「チェンさんは短気だね〜。気持ちいじゃないか、温泉」

「そういう問題じゃない」

「そうかい? 俺はチェンさんと一緒に風呂入るのもいいと思ってるよ。2人っきりで話したいこともあるし」


 アーサーは殺気立つチェンをなだめ、会談で話す内容の口裏を合わせようと提案する。

 それを聞き、チェンは怒りを沈め、アーサーの話を聞くことにする。


 アーサーとチェンが世界政府と接触した主な目的。それは今ある世界の戦力を一時的に均衡きんこうにするためであった。


 今日の軍事演習を見ても分かるが、旧世代兵器である戦車や戦闘機などでは神機には到底勝てる訳が無い。

 なんなら戦闘向きのグリッド能力を持つ者にさえ劣ってしまうだろう。

 正直相手が旧世代兵器だけなら、アーサーとチェンの2人がグリッドを使うだけでも戦えてしまうぐらいなのである。


 だが、それでは困るのだ。

 今強欲国と憤怒国は大規模戦争を起こす準備をしており、今のままの世界政府では歯が立たず、世界政府壊滅という最悪な結末を迎える可能性が非常に高いのだ。


 今日は見せてもらえなかったグリッドアーマー部隊というのがどれほどのものかは分からないが、強欲と憤怒の神機には到底太刀打ちできないであろうというのが、アーサーとチェンの共通見解であった。


「私たちが本気で戦うでもいいけど、それはそれで困るかもなのよね。どの神機であろうと今失うのは都合悪いのよね」

「チェンさん、それ以上は言わなくていい。俺も神機から聞いている」


 アーサーは会談でも話を伏せようと思っていた神機の必要性について話すチェンを止める。


「今はまだ神機も世界も存在しててもらわないと困る。その認識をチェンさんが持ってることが確認出来ただけでいい。後で行う対談でその話はしない方向で行きましょう」

「そうね。私が世界政府の立場なら、本当の話を聞いた段階で神機の争奪戦やりたくなるね」


 7つ神機も世界政府も今は必要なものだ。

 それを理解してるはずの強欲国と憤怒国の王はなぜ戦争を起こすのか。

 アーサーは理解に苦しむ。


「まあ、強欲と憤怒って戦争大好きみたいな欲なんでしょ。感情で動く人のことなんて考えてもしょうがないね」


 呆れ顔で、軽蔑するように言い放つチェン。

 その言葉をアーサーは渋々受け入れる。


 同じ神機持ちでありながら、欲が違うだけでこんなに考え方が違うものか。

 また事情を知った上で会談の参加を拒否した色欲国に対しても、何を考えているのか分からないでいた。


「色欲国のこと考えてて、ふと思った事なんだけど……」


 アーサーは少し顔を赤くしながら、チェンをまじまじと見る。


「チェンさんって男の人だよね? なんて言えばいいのか……めちゃくちゃ美人さんだよね。一緒の風呂に入ってると、こう……」


 アーサーは湯船に浸かるチェンを見ながら、モジモジしだす。


 嫉妬国の王で神機フェニクスの保持者であるチェン=チーリン。

 普段は三つ編みで黒装束に黒いマスクの不気味な感じ。

 でも今アーサーの目の前には、サラサラの青い長髪をなびかせる、華奢で美人なチェンがいた。


 モジモジするアーサーを見て、チェンは眉間にシワを寄せる。


「私のどこに胸があるね? チンチンもちゃんとついてるよ。舐めたこと言うなら、アナタから先に殺ろうか!」


 アーサーが何を言いたいのかを察知し、再び怒りが込み上げてきた。

 チェンは湯船から急にクナイのような形状の武器を取り出し、アーサーの首元に当てる。

 しかし、それと同時にチェンは背後に神々しい気配を感じる。


「すごいすごい、温泉から武器が出てきた! でも今は辞めましょうよ。でないと俺も、チェンさんを攻撃しちゃうよ〜」


 アーサーは顎で後ろを見てみろと合図を送る。

 それを見てチェンが後ろを振り向くと、そこには金色の槍が1本、矛先をチェンに向け、空中で待機状態になっていた。


 アーサーとチェンは一度目を合わせ、互いのグリッド能力を考察し始めるが、自分の手の内がバレないように、すぐさまグリッドを引っ込める。


「私達が争うのは良くないね。ごめんなさい、感情的になったわ。でも私を美人と言うのは良くないことよ。また言うなら次は寸止めしないかもよ」


 チェンは湯船から上がり、じっと見つめてくるアーサーを睨みつけ、大浴場を去って行った。


「褒めたつもりだったんだけど。もしかして禁句だったかな」


 アーサーに悪気はなかった。

 ただ思ったことを言っただけであったが、チェンにはそれが怒りの引き金であったのだ。

 去っていくチェンの姿を湯気越しに見つめながら、やっぱり他人の感情とは分からないものだなと、つくづく思うのであった。


「あのグリッドがどんな能力なのかまだ分からないけど、チェンさんの動き……あれはヤバいね。ジャパニーズ忍者かと思ったよ」


 チェンが怒り、自分に襲いかかって来るのを目視出来ていた。

 だがチェンの懐に飛び込む速さは、アーサーが距離を取るために下がったスピードよりも格段に速かったのだ。

 それにチェンのグリッドもどういう能力なのか、よく確認出来なかった。

 一時的に協定を結んだチェンだが、敵になったら厄介だなと認識する。

 とりあえず今は仲良くしておくのが正解だと思うのであった。


「そういえば今日演習中にいたあの子も強そうだったな。たしか、隼人って言ったかな? はぁ〜、いつかは戦うんだろうけど、早くやってみたいな〜」


 アーサーは隼人のグリッドも早く見てみたいと思いながら、温泉を満喫するのであった。


はじめましてゴシといいます。

読んでいただきありがとうございます!

この話を読んで面白そうって少しでも思ってくださる方がいてくれると嬉しいです。

まだまだ話は続いて行きます。これからも更新して行きますのでブックマークの方もよろしくお願いします!


下の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

応援されてると思うとやる気めちゃ出てスラスラ書いちゃいます。

これからも愛読と応援のほどよろしくお願いします。

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