何を隠そうこんな伝手がありまして
私の元にサリーの使い魔がやって来たのは、ダンジョン滞在三週目の朝だった。のんびり朝のお茶を楽しんでいた私の所に、一羽のカラスが飛んでくる。くるくると私の上空を飛んでいたかと思うと、「見つけた!」と軽快な声を上げた。
「三日ぶりね! 元気だった? ちゃんと肌ケアしてる?」
「してるよ~。それなりに」
「それなり……。将来皺くちゃババアになっても知らないわよ?」
「ウッ……! それはやだなあ!」
半泣きになっている私を余所に、サリーの使い魔であるカラスは楽しげにカァと鳴いた。
使い魔と言っても、カラスはサリー同然だ。意識が繋がっているようで、視覚を共有もしているし、直接会話も出来るらしい。彼は、周囲を眺めて関心したように言った。
「秘密基地が完成したのね! すごいわね~。よくここまで整えられたものだわ」
「うん。ありがとう!」
実は今回のダンジョン滞在において、テントは使っていない。
自然物の中にある人工物って結構目立つからね。万が一にでも刺客が襲ってきた時に備え、ダンジョン内で手に入れた資材を使って住み処を作ったのだ。
ついでに、いわゆるブッシュクラフト的な遊び心をいっぱい込めちゃったりしてね。
ブッシュクラフトとは、最低限の道具を使って、隠れ家を作ったり道具を自作したりして楽しむアウトドアスタイルのこと。前世では、動画再生サイトなんかに、おじさんたちが楽しむ様がいっぱい投稿されてて、憧れたな~~~。
ナイフ一本から始まるサバイバルライフってイメージしてくれるとわかりやすいかな。
自然の中での快適な滞在を目指すキャンプとは方向性が違う。自然に親しみ、その場で手に入るものだけで暮らす。ある意味で原初の暮らしに近いと言えるかも知れない。
住み処作りは、ブッシュクラフトにおいて最も重要で最初の一歩だ。
今、私たちがいる場所は、崖下にある小さな洞窟を改造した家だった。
ダンジョン内は初夏くらいの気候で、夜になってもそれほど気温が下がらない。おかげで、素人が作った家でも快適に暮らせていると言える。
住み処作りで、役に立ってくれたのはグリードだった。
『任せとき。アサシンギルドに拾われるまでは、基本野宿やったから、よく廃材で家を造ったりしててん』
『うわあああああ! グリード! 私が幸せにしてあげるからね……っ!』
『ヴァイス兄さん、なんでこういう話すると、ご主人様いつも泣くんやろか?』
『グリードの過去話は、お嬢にとって重すぎるんですよ……』
――まあ、私が取り乱してしまった件はともかくとして。
たまたま見つけた洞窟は、私たちの住み処にするには打って付けだった。
三人で協力して改造したのだ。
ぽっかり空いた洞窟の入り口は、近くにあった石を積んで塞いだ。近くに粘土層の土壌があったので、採取した粘土を水で伸ばして石の隙間を埋めた。そのままだと、雨風が室内に入ってきてしまうので、森の中から木材を調達してきて、簡単な庇と扉を作ったよ。
もちろん釘を使う訳じゃないから、形を加工して組み合わせただけだけれどね。枝葉を落としただけの木材は、組み合わせても隙間ができる。そこは、近くに生えていたコケ類と粘土で隙間を埋めた。長期間暮らすには不安な出来だが、一時的に暮らすだけならじゅうぶんなはずだし、コケ類の緑色はカモフラージュにぴったりで、まさに隠れ家という様相だ。
中には簡単な暖炉も作ってある。洞窟の奥まった場所の天井部分に地上に繋がる隙間があったからね。そこに手作りの煙突を噛ませて、一酸化炭素中毒にならないようにしてある。
いやあ。粘土が手に入ってよかったな。室内に火を持ち込めるかどうかは、快適さに関わってくるから。ちなみに、室内の調度品――ベッドなんかは、携帯していたキャンプ用のものを使用している。キャンプギアがあれば灯りにも困らないし、けっこう居心地はいい。
「……なんだかんだ楽しんでるんじゃない?」
サリーの使い魔の言葉に、私は「そう見える?」と苦く笑った。
確かに、滞在時間が多く取れるからこそやれる遊びだ。一泊や二泊じゃここまで凝れない。前世で見た動画じゃ、半年くらいかけて作ってたな。
――いつもどおりの自分だったら、もっとワクワクしてたんだろうけれど。
「まあでも、必要に駆られて作る秘密基地はあんまし楽しくないかな……。こういうのはさ、遊びだからいいんだよ。ちゃんと暮らせるかって考えながらやるもんじゃない」
眉根を寄せて遠くを見る。
そんな私の様子を、サリーの使い魔はじっと見つめていた。
「――失礼いたします」
すると、ヴァイスがお茶を淹れて来てくれた。「お、サリーの姉さんとこの!」どこからかグリードもやってきて、自然と席に着く。四人揃ったところで、私たちは情報共有を始めた。
「サリー、おじさまとの繋ぎ役を買って出てくれてありがとう」
「いいのよ。こうやって遠隔で話が出来るのはアタシくらいだもの。役に立ててよかったわ」
「本当に助かりました。俺がお嬢の側を離れる訳にはいかなかったので」
「えー! 僕も連絡役として頑張りましたぁ」
「なんで張り合うのよ……。まあでも、そういうところ嫌いじゃないわ」
コロコロ笑っていたサリーは、使い魔の脚に括りつけていた手紙を取るように促した。
「情報屋からの報告書よ」
やや角張った几帳面な文字で、今回の件に関する調査結果が書かれている。例の情報通な友だちが手を貸してくれたのだ。うん、すごい。知りたかった以上の情報が書かれている。
「――刺客を送ってきたのは、馬鹿王子のお母さんか」
「そうみたい。依頼者が誰かは巧妙に隠されていたみたいだけど、ようやく尻尾を掴めたみたいよ。すごいわね。アンタの知り合いの情報屋」
「ふふふ。友だち思いのいい子なんだよね」
「……やっぱりアンタの情報網は侮れないわ……」
呆れ交じりのサリーに苦く笑って、再び報告書に視線を落とす。
「ディアーヌだっけ。彼女、どうあってもユージーンを王位に据えたいんだね。どうしてそこまで? 王太后ポジションに収まって権勢を振るうつもりなのかな。それって常識的にどうなの?」
「離婚して隣国に帰ったんだから、普通はあり得ないわよ。でも、呪いで城内の人間を皆殺しにするつもりだったんでしょう? タイミングを見計らって侵攻するつもりだったのかもね。属領としたうちの国を、自分の息子に与えて好き放題やる。贅沢することしか考えない女がしそうなことだわ」
「……そのために、ディアボロ教を使って画策してる訳か。というか、そもそもどういう経緯でディアボロ教の人と知り合ったんだろうね」
「お互いに利益があるからじゃない?」
「王族という立場が布教するために都合がいいから……? いやでも、命を代償にして呪いをかけてる訳じゃない? その時点で、彼らが祀っている神様を信じている人が減っているよね。信者を増やすことが目的だったら変じゃない?」
「……確かにね。なら、邪教徒の方にも布教以外の目的がある? それを達成するためには、協力者はディアーヌではなければならない理由があるのかな」
「たぶん。そしてそれは、ユージーンを王にしないといけないことと繋がってる。だから馬鹿王子のお母さんと協力してるんだ」
「…………。アイシャ、報告書のここ。見て」
「彼らの信じている神について……?」
邪教徒たちが信じている神は「ディアボロ」という。創世神から生まれた子で、『死』と『怠惰』、『色欲』を司っていて、邪悪なる者たちが信奉していたそうだ。とはいえ、邪悪だからと言って排除されるような存在ではない。長い間、創世神に連なる神として存在を容認されていたようだが、ある時を境に創世神と袂を分かち――戦争を仕掛けたのだという。
「……神々との戦争に負けたディアボロは、創世神に天界を追い出されちゃったみたい」
「だから彼らは創世神を疎んでいるんだね」
「そういえば、この国には古代の遺跡がぎょうさんあるよな。それも神代の」
「もしかして関係あるんでしょうか」
「どこかに、ディアボロ教にとって重要なものがあったりするのかなあ。だから呪ったり奪おうとしたりする」
――私たちの知らない場所で何かが起こっていることは間違いないようだ。
「まだ情報が足りないね……。けど、のんびりもしてられない。ディアボロ教の信徒を排除しても、大本が手つかずじゃイタチごっこだもの。なんとかしてディアーヌを止められないのかな」
「その件に関しては、ヨハン王が動いているわよ」
驚きを浮かべた私に、サリーの使い魔は楽しげに羽を広げた。
「実はね、いま隣国にいるの。使者としてね」
「そうなんだ……!」
「ヨハン王がね、隣国に正式に抗議文を出したのよ。王位継承権持ちに刺客を送った件でね。アタシってばエルフでしょ。エルフは怒らせると怖いと思われているから立候補したのよ」
かつてエルフの怒りを買った国が呪われてしまった話は有名だ。その点で言うと、サリーは適役のように思えた。
「それでそれで? 隣国の王様はどう反応したの?」
「それがね……。抗議文を受け取ってはくれたけど、あまり反応がよくなくて。ずうっと客室に留め置かれてるのよ。もう五日も経ってるってのに……」
「――嘘でしょ。王位継承権を持つ人間を害したんだよ。内政干渉だよね。一触即発の状態になってもおかしくないよね!? ダラダラしてる場合じゃないでしょ」
「アイシャの言い分はもっともだわね。正直、首脳陣も頭を抱えてるんじゃないかしら。娘を溺愛する王と板挟みになっているのかも。とはいえ、さすがに遅すぎるわ。ヨハン王が黙っている訳がない。このままじゃ戦争になるわよ」
しん、と私たちの間に沈黙が落ちる。なにやら大事になってきた。放って置いたらとんでもないことになるだろう。
「……なんとかしないと」
とはいえ、ディアーヌが隣国の王の庇護下にいるうちは、手出しができない。
なんとかして、父娘を引き剥がせないだろうか……。
「――そうだ。あの手を使えばいけるかも知れない」
むふふふふ。含み笑いを浮かべた私に、サリーの使い魔は、「何か考えがあるの?」と首を傾げた。
「もちろん! ちょっとした伝手があるんだよね。しかも超強力な!」
「……アンタ、またアタシたちが知らないうちに変な相手と繋がって!」
「お嬢。アンタはいつもいつもいつもいつも……。何かあった時は、かならず俺に報告して下さいと言っているでしょうが!!」
「ちょっ!? ふたりとも落ち着こうか!」
「わはは。ご主人様愛されてんなあ」
グリード! 笑ってる場合じゃないっての!
小さく咳払いをした私は「でも、会えるかわからないから」と前置きしてから言った。
「――実は、女神様にお願いしてみようかと思って」
三人(うちひとりは一羽だけど)は顔を見合わせる。
「女神と……」「お嬢が知り合いに?」
「んなアホな――」
困惑気味にウロウロと視線を彷徨わせていたかと思うと、いっせいに天を仰いだ。
「「「お嬢なら(ご主人様なら)(アイシャなら)やりかねないか……」」」
なんか腹立つ。ちょっと失礼じゃないかな……?
七話 女神様と晩酌を!
「もう! ちゃんと話を聞いてよ。別に女神と知り合いって訳じゃないの。実はね、水の神殿のルチルさんに色々と問い合わせをしててね」
お茶を啜りながら言うと、ヴァイスは不思議そうだった。
「そう言えば、何度か手紙をやり取りしていましたね。てっきり、ディアボロ教の拠点潰しの件と思っていましたが……違ったんですね」
「それもあったけどね。ひとつだけ気になる件があって……。カレー粉の件で精霊とお菓子を食べたことあったでしょ?」
「ああ。ご主人様が暴走したやつ!」
「それは忘れてくれない? こらヴァイス。胃を押さえるんじゃない」
「申し訳ございません。多少、トラウマになってまして……」
ヴァイスったら意外と繊細だなあ。
まあ、それはさておき。その時に気になる発言があったこと、覚えているだろうか。
「精霊がね、別れ際に言ってたの。『こんどは、ねえねもつれてくるから!』って」
「ねえね……ですか?」
「うん。精霊って、いずれ神に至る存在って言われているじゃない? なら、彼らにとっての〝ねえね〟って女神様のことじゃないかなあ」
「……アタシ、エルフだから人間が信じてる神に詳しくないんだけど。女神ってどんなのがいたかしら?」
「うーんとね。灯の女神ホーリー、恋愛の女神エステル、狩猟の女神アイリス――あとは水の女神アクア」
「ああ、そうか。水の神殿が祀っているのも女神だったわね!」
「ブラックバス駆除の時、お姿を拝見したような気がします」
「そうそう! 湖の水を抜く時ね! 普段からお世話になってるんだ。お酒造りの水は、ルシルさんのところから分けてもらってるからね。ルシルさんって、女神と意思疎通ができる巫なんだけど、女神アクアが私のお酒をずいぶん気に入ってくれているらしくて……。一度、会ってみたいとまで言ってくれてたらしいの。――つまりこれってさ」
にこりと微笑む。
「水の女神アクアに伝手があるってことじゃない?」
一瞬、呆気に取られていた様子の彼らだったが、同時に息を吐いた。
「――つまり、精霊を通じて水の女神アクアを呼び出してもらうと?」
「そう。それで、なんとか私自身も気に入ってもらう」
「……気に入られてどうするのよ」
「知らない? 女神って気に入った相手の願いを叶えてくれるんだって」
こちらの世界のお伽噺ではよくある話だ。美しい女神から祝福を賜った人間のサクセスストーリーが腐るほどある。前世の時でも似たような物語があったな。金の斧、銀の斧とかね。欲に躍らされず、正直に答えた木こりに女神は褒美を与えている。前世と今世の決定的な違いは、女神が実在するかどうかだ。
「これはいわば――愛し子チャレンジよ! 女神様にお願いして、隣国にいるディアーヌを父王の庇護下から出してやるの!」
声高らかに宣言する。けれども、皆の反応はあまり芳しくなかった。
「相手は女神なのよ。なにかあったらどうするのよ!」
「そやそや。精霊にやってあんな苦労したのに」
「大丈夫。だから、ルシルに問い合わせしたんじゃない。水の女神アクアが好む供物とか、性格はどうなのかとか、いろいろ教えてもらったんだよね」
「――お嬢。待って、待ってください」
ヴァイスが青白い顔で制止する。
獣耳がぺしょりと折れていた。尻尾は力なく垂れ、ひどく苦しげな表情だ。
「勝算はあるんですか! ……俺は反対ですよ。女神に気に入られるっていう確証がない限りは、絶対に許せません。それでなくともお嬢を危険な状況に晒してしまっているんです。これ以上、失態を重ねる訳には参りません」
「どうしてよ。大丈夫だって言ってるのに」
「どうしてもです! お嬢に何かあったら公爵様に顔向けできませんから」
真剣な眼差しで私を見やる。碧色の瞳には、悲しげな色が滲んでいた。
「俺は、城の人間よりもなによりも。お嬢が大事なんです」
――ああ……。本当にうちの執事は過保護だなあ。
嬉しかった。じんわりと胸の辺りが温かくなる。ヴァイスがいてくれてよかったな。彼がいてくれなかったら、確実に今の私はなかった。ヴァイスの言葉はまっとうで、いつだって私への気遣いに溢れている。それに従えば間違いはないのだろう。
でも、だけど! 私にだって譲れないことがある。
「心配してくれてありがとう。ごめんね。こればっかりは譲れないの」
ヴァイスはくしゃりと顔を歪めた。
「……どうしてです。なんでこんなこと。いつも言っているでしょう。お嬢は公爵家に生まれはしましたが、一介の令嬢なんです。無理に責任を負う必要はない!」
「それもそうなんだけどね……」
どう言えばいいかな。私が口を開くのを、みんながじっと待っていた。ダンジョン内は嘘みたいに平和で、穏やかな時間が流れている。だけど、それだけだ。今も城のみんなには危険が迫っていた。そんな中、私だけがのうのうとダンジョンで遊んでいられない。
「お城にはね、大切な人がたくさんいるんだよ」
――私は怒っている。
それは、純粋にキャンプが楽しめなくなるからだけではない。ユージーンのお母さんが――ディアーヌが、私の家族にまで危害を及ぼす可能性があるからだ。
父は公爵だ。普段は城に出仕している。次期公爵の兄だってそう。
それに、王城は私にとって親しみ深い場所だ。知り合いだってたくさんいる。おじさまも、サムソンも、馬鹿王子と婚約していた時に一緒に書類地獄を戦った文官だっていた。
なのに――
皆殺しだって? ふざけんな!!!!!!!!!!!
私は日和見主義だ。自分から問題に頭を突っ込んだりはしてな――してない、はず? まあ、あんまり自信はないけれども、それはそれである。元日本人だけあって、メンタルが小市民なので納得感はあるんじゃないだろうか。
――でも。だからこそ!
家族や大切な人を害する人間は許せない。
私が馬車馬の如く働いて取り返せることだったら、そんなに怒ったりはしない。
だけどさ。呪いで一方的に殺そうとするのは違うでしょ。そんなの間違ってる。
それに、刺客を送ってきた件もそうだ。お兄様が無事だったと聞いて心底安心した。でも、心のモヤモヤは晴れない。無事じゃなかった王位継承権持ちの人間もいるはずだ。
都合の悪い人間を消すなんて、貴族社会じゃよくある話なのかも知れない。それでも、それでもだ。私の身近にいる人間が被害に遭うのなら――見過ごす訳にはいかない。
「私はね。家族を、大切な人を、笑顔を交わした人たちが大事なの。ヴァイスが私を想ってくれているのと同じように」
「お嬢……」
「だから、今回ばっかりは譲れない。これから、楽しくキャンプをするためにもね。それに、成功する根拠だってあるんだから」
不思議そうな顔をした彼らに、私はどこか不敵に言った。
「ルシルさんに聞いたんだけどさ。女神アクア様ね。お酒がとっても好きらしくて。お付き合いしているうちに、ルシルさんまで酒好きになっちゃうレベルなんだって。本当に飲むらしいの。お酒があるなしじゃ、与えてくれる加護の量が変わっちゃうくらい」
「……それはどれくらい……?」
「三度の飯よりもお酒が好きらしいよ。好物は塩気の強い酒の肴で、月見酒が至上の喜びで、最近はまってるのは焚き火を眺めながら飲むこと。今いちばんほしいものは、私が使ってる断熱性のスチールカップ」
にっこり笑んで言葉を重ねる。
「どうしてこんなにお酒が好きなんだと思う? うちの酒造のお酒が気に入っちゃったから、だって」
「「「…………」」」
私以外のみんなは、再び困惑気味に顔を見合わせた。「うーん」それぞれひどく悩ましげな表情になって、それから諦めたように息を吐く。
「「「仲良くなれる気しかしない……」」」
「でしょう~?」
ケラケラ笑うと、ヴァイスもようやく表情を和らげてくれた。
「……わかりました。わかりましたよ。無茶はしないでくださいよ。俺の胃が死ぬので」
「ラビンにお願いして、最強の胃薬を作ってもらっておくよ」
「俺の胃を痛めつける前提はやめてください」
――こうして私たちは、水の女神アクアにアプローチしてみることになった。
城のみんなを救うため。家族を守るためだ。
ふふふ。おいしいお酒で女神をメロメロにしてやんよ……!