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RPGの悪役って何でダンジョンの奥にいるんだろね

 刺客に襲われてから二週間ほど経った。いやあ、時が過ぎるのは早いものだね。


 正直、私は怒っていた。激おこだ。激おこプンプン丸である。うん、死語だね。今の若い子にはどれくらい通じるんだろうね……。


 まあ、それはさておき。

 命からがらダンジョンに逃げ込んだ後の話をしようと思う。


『う、嘘ぉ……!?』


 目の前でダンジョンの入り口が崩れるという絶望を体験したあの日。

 私とヴァイス、グリードは、しばらくダンジョン内を探索することにした。


 崩れた入り口から出ようなんて考えはなかったね。なにせ、ダンジョン内まで刺客が追ってこないとは限らないから。ひとつ救いだったのは、ダンジョン内が緑いっぱいだったということだ。


 そこは、神代に造られたダンジョンだった。疑似太陽が燦々とダンジョン内を照らし、アマゾンかってくらいに木々が生い茂っている。風も吹くし、川も流れていて、魚や動物、更には凶悪な魔物まで住み着いている。ダンジョン内で生態系を形成しているんだね。ちなみに原理や仕組みは不明。古代の遺跡の上に作られたという我が国には、こういうダンジョンが結構あるんだ。


 内部の構造は極めて複雑。おそらく複数の入り口があるだろうことは想像できた。なにせ古いからね。岩盤が崩れてダンジョンに繋がっていた、みたいな話はよく聞く。


 確か淡水湖の近くでも、未知のダンジョンの入り口発見報告が上がっていたはずだ。立地的にも同一のダンジョンの疑いがある。ここから出られないということはないだろう。


 ……ひとまずは安心かな。いや、刺客が追ってくる可能性を考えると逆に不安ではある。

 とりあえず、追っ手が放たれているかわからないので、しばらくダンジョン内に滞在して様子を見ることにした。


 ヴァイスがマジックバッグを携帯していたから、キャンプ道具もあったし、食料に不安もなかった。いざとなったら、ダンジョン内で狩りをすればいいしね。飢えや寝床の心配がないことは救いだった。


 ダンジョン内キャンプか~。それはそれでありかも。

 なんてのほほんと考えていたんだけれどね。


 正直、甘い考えだったなあ。

 三日ほどダンジョン内で過ごした頃。私は限界に達したのだ。


「なんで。どうして。キャンプなのに楽しくない……!!」


 なにをしていても、刺客が来るんじゃないかって落ち着かないのだ。


 ヴァイスやグリードがいるんだから、それほど警戒する必要がないと言ったって限界がある。葉擦れの音が怖い。気配を感じると心臓が跳ねる。ああああああああ、なにこれ。前世でキャンプをしていた時、テントの周りをイノシシが徘徊してた時くらいに――恐ろしい。


「ふざけんなーーーーーーーーーー!!」


 私はブチ切れた。

 キャンプは私にとっていわば聖域だ。絶対に侵してはならない神聖なもの。人生で最も大切にしているなによりの宝物――それなのに。


 ――よくわからん奴らの企みに巻き込まれて、この先、キャンプが楽しめなくなったらどうしてくれるの……!?


 そんなのやだ。ぜっっっったいにやだ。

 うん。ぜんぶ片付けちゃおう。私がこれからもキャンプを楽しめるように。

 そのためなら、金も人脈も惜しまない!


 そう結論づけるまで、時間はかからなかった。


 幸いなことに、この三日間で追っ手の姿は見かけていない。

 行動を躊躇う理由はなくなった。


「……ヴァイス。グリード」

「「はい」」

「私の安全を確保しながら、地上の情報収集はできる? あと、知り合いに繋いでほしいの。協力してもらいたくて。――悪巧みしている奴らをぜんぶ片付けよう」


 正直、ここ数日間はずいぶんとヴァイスとグリードに気を遣わせていた。イライラしている様子なのに、まったく動こうとしない私にやきもきしていたようだ。一転してやる気を見せた私に、ヴァイスとグリードは安堵したようだった。


「おっ、やっとか。ご主人様らしくなってきたやん。やるやる!」

「もちろんお任せください。すべては――お嬢がお気に召すままに」


 そして私たちは動き出した。

 ――私をこんな目に遭わせた奴らを叩きのめす為に。





 それからは忙しかったな。

 この時点の私たちは黒幕が誰かわかっていなかったから、とりあえずディアボロ教の拠点を潰そうということになった。ちょっかい出してきたのはあっちだしね。やり返されても仕方がないよね!


 残念なことに、私は善人でも聖人でもない。容赦する気はなかった。

 最初に立ち上がってくれたのは、ヴィンダー爺率いるドワーフたち。そして、水の神殿の神官、ルシルたちである。


『ワシらの酒蔵がピンチじゃ!! お前ら、容赦するんじゃないぞおおおおおおお!』

『もう貧乏暮らしは嫌です! 寄付金。寄付金のためにやりますわよおおおおおおおお!!』


 というか本音がダダ漏れ過ぎでは? 私は酒蔵でも財布でもないんですけど!?


 荒ぶる肝臓に脳を支配されたドワーフたちと、金に目が眩みまくってる神官たちは、あらゆる伝手を使って、市井に潜む邪教徒たちをあぶり出したらしい。

 孤児たちも一役買ってくれたみたいだ。ディアボロ教の拠点は、スラムやうらぶれた路地の先の空き家なんかにあったみたいだからね。そういう場所は孤児たちにとって庭のようなものだ。大活躍したみたい。今度会った時は、いろいろと買ってあげたいなあ。


 それに加え、ヴァイスが監督している互助会に属している獣人たちも手伝ってくれた。互助会には、過去に貴族たちに奴隷も当然の扱いをされた獣人が多数所属している。基本、獣人を購入する貴族は低位であることが多い。普通の下女や下男を雇う金を惜しんで、怪我や病で価値が低い獣人を安値で奴隷商人から買い求めて、使い捨てにしてたみたいだからね。

 そして、ディアボロ教に染まっていたのは、だいたいが低位貴族だ。


 ……うん。こりゃあ、復讐が捗るってもんですよね~。

 ウキウキでディアボロ教にかぶれている貴族を見つけてくれたみたいだ。獣人ネットワークが大いに活躍したらしい。見つかってしまった貴族たちは、そのまま拘束されて王城の牢獄に捕らえられている。殺される直前だった屋敷の使用人たちに、獣人たちはずいぶんと感謝されているらしいよ。うん、また獣人の地位が上がったね。本当によかった!


 薬聖であるラビンも協力者のひとりだ。彼が作る化粧品は、貴族女性たちから大人気で、豪商たちにも重宝されている。その伝手を使って隣国の王城に間者を忍び込ませることに成功した。馬鹿王子の母――ディアーヌとディアボロ教の司祭がねっっっとり密談している内容を教えてくれたよ。すごいよね、どうやったんだろうね。私の友人で情報通なあの子、見た目は可愛い男の子でハニートラップ上等なタイプだからなあ。裏技でも使ったんだろうか。


 ――結果、我が国の王城全体に呪いを掛けていることがわかった。


 王位継承権を持つ人たちに刺客を放っていたことも。私に刺客を放ったのは、ディアーヌだったのだ。兄であるクリスの前にも刺客が現れたらしいが、幸いなことに無事だったようだ。さすがS級冒険者なだけはある。


「……お兄様にまで」

「お嬢?」


 報告書を読みながら考え込んでいる私を、ヴァイスが怪訝そうに見つめている。


「どうかしましたか。お疲れなのでは」

「……そう見えた?」

「はい。お嬢にしては険しい表情をしていたので」


 小さく息を吐く。ああ、駄目だ。顔に出ちゃっていたみたい。


「大丈夫。心配してくれてありがとう、ヴァイス」

「お茶を淹れましょうか」

「うん。お願い」


 笑顔で返して、再び報告書に視線を落とす。

 胸中では様々な感情が入り交じっていた。欲深いディアーヌへの憤り。得体が知れないディアボロ教への恐れ。そして、奴らに好き勝手にさせていることへの迸るような――怒り。


「そっちがその気なら……ぶっ潰してやる。私のやり方で」


 そう口にすると、荒ぶっていた感情が徐々に落ち着いてきた。

 ……問題ない。手札は揃っている。ああ、やっぱり私は幸運なのかも知れない。いや、違うかな。たくさんの出会いが私の選択肢を増やしてくれている。感謝の気持ちを忘れないようにしなくちゃ。


「グリード。カレー粉の検査報告書が荷物に入っているから、おじさまに届けてくれる? 急いでほしいの。手遅れになる前に。使い方はおじさまならわかるだろうから」

「任せとき!」


 ――と、まあ。こういう風に、私はダンジョンにいながら様々な策を講じていた。


 ディアボロ教の人たちからすると悪夢だったろうなあ。私が魔王みたいに思えたかも。だっていきなりやってきた厄災だものね。しかも、本人はダンジョンの奥から指示出ししているだけ。……うん。魔王だな? いやだ! 私はただの公爵令嬢ですけど!?



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