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ドワーフじいちゃんと浮かれ公爵令嬢

 その日、私は浮かれきっていた。


 いつもよりスムーズに仕事が進んだのだ。昼過ぎにはもう仕事机の上が綺麗になっていて、優雅にお茶を飲む余裕すらあった。


 少しずつ他に仕事を割り振った甲斐があったというものである。ああ、この調子でいけば、自由の身になれる日も近いはずだ……!


 その上、親しい友人が訪ねて来てくれた。これではしゃがない理由がない。


「どじゃった! ワシの作った焚き火台、どじゃった!!」

「最高だった~!! ヴィンダーじいのビール腹の仕上がり具合くらい最高だった!!」

「そうじゃろう、そうじゃろう。日々の飲酒で鍛えておるからな……!」


 私よりも頭ひとつぶんくらい背の低い友人と、手と手を取り合って小躍りをする。彼はヴィンダールヴル。ドワーフだ。親しみを込めてヴィンダーじいと呼んでいる。気のいいおじいちゃんで、キャンプギアの開発を一手に頼んでいた。

 

鍛冶王ブラックスミス・マスターとまで言われ、気難しくて有名な御方が、お嬢といるとまるで別人ですね」

「なんじゃ小僧。おおん? 嬢ちゃんと仲がいいワシに嫉妬しとるのか~?」

「うわあ。ヴァイスがフレーメン反応起こした猫みたいな顔に」

「わはははは! そんなに受け入れがたいのか……!?」


 ヴァイスの反応があんまりにも面白くて、ヴィンダーじいとお腹を抱えて笑う。

 なんだかんだ言って、ヴィンダーじいとも十年以上の付き合いだ。気心が知れていた。


「まあそれはともかく。焚き火台開発の報酬は酒で頼むぞ」

「もちろんですとも!! へっへっへ。実はですね、そろそろモルトウイスキーがいい感じに熟成してきておりまして」

「なんだと。それは事件じゃな……! いつ頃だ、いつ頃になる……!!」

「出来上がったらすぐに連絡しますとも。あっ、ちなみにこれ、新しいキャンプギアのアイディア案なんですが」

「任せておけ。ワシに作れぬものはない!」


 彼とは酒飲み仲間だった。

 公爵令嬢という立場を最大限利用して、さまざまな醸造所を所有している私と、酒が死ぬほど好きでなんでも作れるドワーフ。これが運命の出会いと言わずになんと言おう。


 あ、ちなみにキャンプで飲んでいるビールは、私の所有している醸造所産だ。


 実は、日本酒もワインもウイスキーなんかも手がけている。ついでにお味噌や醤油なんかも作っていましてね! それらは、うちの領地の特産になっているよ。


 他領に技術提供もしているんだ! すべては美味しいお酒を飲むため。ぶっちゃけ、そこまでやるかってヴァイスに呆れられたよね。ハッハッハ! 


 ……だから仕事が減らないんだよね。知ってる。


「嬢ちゃんといると美味い酒に困らないから助かる。この国の未来は安泰じゃなあ」


 ヴィンダーじいの発言に思わず固まってしまった。


 もしかして、まだユージーンの婚約者だと思われている? 


 考えてみれば、王城からは婚約破棄に関する発表はまだなかった。父にもなんの連絡もないそうだ。何度か王子から手紙が来ていたが、意味のわからない自画自賛ポエムばかりだったし、森でキャンプをしていても押しかけてくる様子はないし……。


 なんだか不穏である。私との婚姻をまだ諦めていないのだろうか。


 微妙な顔をした私に「どうした?」とヴィンダーじいは怪訝そうだった。

 軽く事情を説明すると、「あちゃあ」と髭もじゃの顔を曇らせている。


「あの馬鹿のことだ。いつかはやらかすとは思っておったが。嬢ちゃんに見限られても当然じゃな。しかし、これは困ったのう」

「どうしたの。なにかあった?」

「いや、今日ここに来たのは、次期王妃な嬢ちゃんに相談がしたかったからでな」

「私に……?」

「国の一大事にも繋がるじゃろうから対処してもらおうと思ったんじゃ。ううむ、次期王妃じゃなくなったってんなら、別の人間に話を持っていった方がええかのう」

「いちおう聞いてもいいかな」


 神妙な顔で訊ねると、ヴィンダーじいは髭を扱きながら言った。


「北にある水の神殿。わかるか?」

「ああ、山の麓にある?」

「そうじゃ。水の女神アクアを祀っておるんじゃが、神殿の周囲に点在している池が泥沼のようになってしまったらしいんじゃよ。女神の怒りだ、穢れだって大変な騒ぎになっとる」

「原因は? 本当に女神様が怒っているの?」

「ワシにもよくわからん。とにかく異変が起きていることは確かじゃ。神殿で保護されとる孤児たちがな、池で採れた魚を町に卸しにくるんじゃが、ちっとも獲れなくなってしまったと嘆いていた」

「生物にまで影響が……。それは一大事だわ」

「じゃろ?」


 ヴィンダーじいと視線を交わす。私たちは同時にうなずき合った。


「うちの醸造所、あそこらへんで採れる天然水で酒の仕込みをしているのよ。このままじゃ立ちゆかなくなる。美味しいお酒が造れなくなっちゃうじゃない……!!」

「酒が高騰したら、酒好き共による戦争が起きるぞ!! この世の終わりじゃあ!!」

「本当、アンタらって歪みねえですよね」


 呆れているヴァイスをよそに、私の心中は穏やかではなかった。


 醸造所の件もそうだが、水の神殿の周辺は水源地ともなっていた。豊かな自然に培われたミネラルたっぷりな水が、国内の土壌を支えていると言っても過言ではないのだ。


 いまは池だけに問題が止まっているが、川にも影響がでてきたらと思うと恐ろしい。このままでは、国内の一次産業に影響が出るのは目に見えている。


 とはいえ――

 ユージーンとの婚約を拒否した私が関わってもいいものだろうか。


 下手に動くと、婚約者の座を放棄した癖にと追求されかねない。

 場合によってはやっと手に入れた自由を奪われてしまうかも。なら、信頼の置ける誰かに任せた方が――?


 頭を悩ませていると、ヴィンダーじいがため息をこぼした。


「すまんな。見当違いの話を持ってきてしまったようじゃ」

「ううん、すぐに答えを出せなくてごめんね。なんにせよ、いったん私が預かるわ」

「いいのか?」

「まったく無関係でもないし。話を聞いた以上は、放っておけないもの。私が関与しないにしても、然るべき部署への橋渡しくらいはできるはずだから」

「お嬢……」


 また仕事を増やしてという幼馴染みの視線を避けつつ、ヴィンダーじいに重ねて訊ねた。


「でも、もう少し情報がほしいな。神殿の子たち、なにか言っていなかった?」

「そうじゃのう。そういえば、見慣れない生き物を捕まえていたな。魚がいなくなった後に、大量発生しとるとか。ちょっと紙とペンを貸してくれるか」


 筆記用具を手にサラサラと絵を描き出す。


「こんな感じの奴じゃ」


 のぞき込むと、そこには手のひらサイズの生き物が描かれていた。さすがは鍛冶王。デザインも手がけているからか、絵も上手……ええい、ちょっと待て。


 見覚えがある。私、コレにめっちゃ見覚えがあるんですけど……!?


「ヴィンダーじい、ヴァイス。この生き物に見覚えは……?」

「ない。あったらこんな回りくどいことはせん」

「俺も初めて見ます。……お嬢、もしかしてこれ」

「そうね。たぶん、地球から転移して来ちゃった生き物だわ」


 おさらいしよう。この世界にやって来るのは、なにも人間だけではないのだ。動植物、虫や魚介類、無機物が転移したりもする。


 地球からやってきたものは、いわば〝外来種〟。

 それらは、時にこちらの世界の生態系に多大なる悪影響を及ぼす場合があった――


「ごめん。これは放っておけない。私が対処すべき案件だと思う」


 真剣な表情を見せた私に、ヴァイスとヴィンダーじいは顔を見合わせた。



おや……? アイシャの様子が……?

(進化はしません)


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