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【書籍化決定】社畜令嬢だって異世界でキャンプがしたい!~馬鹿王子を婚約破棄してやった私の飯テロスローライフ~  作者: 忍丸
第一部 馬鹿王子騒乱編

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馬鹿王子を救出せよ!

 カイトの救援要請を受けて、私たちは貯水湖に向かった。

 ユージーン王子の詳しい現状を聞いたのは、猛スピードで走る馬車の中だ。


 簡単な手当を施されたカイトは、どこか苦しげにあらましを語った。


「あの人、王様から最後通牒を突きつけられて自棄になってて。たぶん、手柄がほしいと考えたんでしょうね。魔物の大量発生を聞いたとたん、手勢をかき集めて城を飛び出していっちゃったんス」

「手勢? 意外やね。ユージーン王子に付き従う勢力がおるんやな」

「いちおう王子様ッスからね。第二騎士団の団長を兼任してたッス。……ふんぞり返ってるだけで、あんまし訓練にも参加してなかったッスけど。団員からも嫌われてるっぽかったッスけど! 団長なことに間違いないもんで、ついてきてくれたみたいッス」

「ひどい言われようだわね……。王子なのにいいの?」

「まあ、井の中の蛙を地で行く系王子ッスからねえ」

「アンタ、さすがに毒舌が過ぎない?」

「いやあ。照れるッス」

「褒めてないわよ!?」


 カイトとサリーがやり合っているのを横目で見ながら、私はしくしく胃が痛んでいるのに気がついていた。


 ――ユージーン王子が自棄になってるの。ほぼほぼ、私のせいじゃない……?


 もしかして、私の資産を差し押さえた件をめちゃくちゃ怒られたんだろうか。

 それとも、暗殺者を差し向けた件だろうか。


 ん? どう考えても自業自得だな? いやいやいや。それでも自分が関わっていると思うと凹む。小市民メンタルが憎いッ……!


 そっと胃を摩っていると、ヴァイスがカイトに問いを投げた。


「それで、どうして貴方がボロボロになっているんです? カイト様は騎士団には所属していなかったと記憶しておりますが」

「あ、ああ。それは、自分と――ガンダルフって護衛騎士が、王子の後を追ったからッスね。止めなくちゃって思って。やっとのことで追いついたッスけど、すごい乱戦になっていて……。助けようとしたんスけど、手に負えなくて。このままじゃ王子が殺されちゃうから、ガンダルフさんを残して、自分が助けを呼びに――」

「不可解ですね」

「え?」

「どうして、無能だと誹る主人を助けようと? むしろ死んだ方がよさそうなものですが。無能の側に居続けるのは苦痛でしょうに」


 うちの執事が辛口すぎる……!!

 端で聞いているこちらの心臓がバクバクである。

 

 まあ、理屈はわからないでもないけど! それにしたって容赦がない。


 ドキドキしながらカイトの様子を窺うと、彼が涙ぐんでいるのに気がついた。

 あ~ああ! 泣~かした! ヴァイスくんったらどうすんのこれ!?


 ひとりアワアワしていると、カイトはスンと鼻を啜って曖昧に微笑んだ。


「それはそうなんッスけどね。正直、どうしようもない人ッスよ。努力しない癖に、プライドと野望だけは一丁前で。人を見下すし。贅沢が好きだし。すぐに逃げ出すし」

「じゃあ……」

「でもね」


 カイトの口許が緩む。呆れと困惑と、優しさが混じったような顔で続けた。


「少なくとも魔物に食われて死ぬのは違う。しょうもない人ですけど、それだけじゃないんス。自分らは……自分とガンダルフさんだけは、そこんところわかってるんで」


 きっと彼らなりの絆というものがあるのだろう。

 それを感じさせてくれるような言葉だった。


 ――クソ王子だけど。本当に駄目な奴だけど。

 そうだよね。誰だって無残な死に方をしてもいいって訳じゃない。


「助けるよ」


 ハッと顔を上げたカイトに微笑む。


「大丈夫。私たちが助けるから」

「……ッ! は、はいっ!!」


 顔をくしゃくしゃにして頷いたカイトの背中を叩く。

 そうしていると、馬車の外を眺めていたグリードが声を上げた。


「なんやあれ。なんで騎士団がこんなところにおるんかな」

「えっ……?」


 不思議に思って外を見る。貯水湖からそう離れていない街道沿いに、騎士たちが駐留しているのが見えた。怪我をしている者も多いようだが……。


「第二騎士団じゃないッスかね、アレ。王子の姿は見えないッスけど」


 なんだか嫌な予感がする。

 慌てて馬車を止めた。下りてきた私たちを、騎士たちは驚いた様子で見つめている。


「私はアイシャ・ヴァレンティノよ。責任者はどこ。団長はユージーン王子のはずよね。どこにいるの!?」


 手近にいた騎士に尋ねるも、彼らは口を閉ざしたままだ。嫌な予感。どうしようかと迷っていると、頬を冷たい風が撫でていった。


「……アンタたち」


 前に進み出たのはサリーだ。

 いつの間にかほとんどの騎士たちが、首だけ残して凍り付いてしまっている。


「魔の森の魔女ッ……!?」


 驚愕で青くなっている彼らに、サリーは女王然とした風格を漂わせて言った。


「王子がどうなったのか教えなさい。嘘を言ったら……わかるわね?」

「ひいいいいっ!?」


 サリーの登場に怯えた彼らは、思いのほか素直に状況を話してくれた。

 なんと彼らは、負傷したガンダルフと王子を置いて、勝手に撤退してきたらしい。


「あのままでは全滅だった。みなの命を守るためには必要な措置で――」

「うるさい。指揮官を置いて逃げるいい訳にしては、下の下ね。王子の居場所を教えなさい。許しを請うのはそれからよ」


 顔色をなくした騎士たちは、すぐに王子の居場所を教えてくれた。


「こ、これでわかってくれただろ!? しょうがなかったんだ! 俺らも必死だった!」


 再び冷気が吹き抜けていく。今度こそ、騎士たちは完全に凍りづけになった。

 彼らを見下ろしたサリーは、ハイヒールで強く踏みつけている。


「チッ。下郎が……。愚かしいわね」


 あまりにもサリーがかっこよかった。痺れる。

 ちょっと惚れてしまうやもしれない。


「王子……!! このままじゃ王子が!」


 カイトの悲痛な叫び声が辺りに響いた。

 そうだった。のんびりしている場合じゃない!


「ヴァイス」

「承知しております」


 私たちは貯水湖のある方向に視線をやると、互いにうなずき合って駆け始めた。




王子の評価が最底辺ですなあ


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