アサシンギルドから来た男
男はアサシンギルドから来たのだと語った。
名前はグリード。その道では名の知れた暗殺者なのだという。
「誰に頼まれて、私を殺そうとしたの?」
「依頼主は明かせへんな。拷問でもなんでもしたらええ。ま、無駄やろうけど。僕らアサシンは、絶対に秘密は漏らさへん」
氷漬けにされ、身動きが取れないというのに男は気丈だった。「殺せ」とまで平気で宣う。失敗イコール死が彼らの常識のようだった。
「なるべく早い処分をおすすめするわ。取引きなんて仕掛けても無駄や。僕を自由にするなんて考えなや。任務を終えるまで、僕の刃は常にアンタを狙ぉとる」
どこか窶れたような顔でそう語る姿は凄絶だった。誰かの命を奪うという仕事。それは同時に、自らの命を賭ける覚悟を伴うものなのだろう。
「お嬢、どうしますこれ? 処分しましょうか」
「ヴァイスってば怖いこと言うね……? 殺さないよ?」
「どうしてですか。お嬢を泣かしたんですよ、コイツ。極刑でもおかしくない」
「えっ。私の涙にそんな価値が……!?」
「当然でしょう。俺はお嬢を泣かせたりしないって誓ったんだ。なのにコイツのせいで」
「いや、むしろ私を泣かせたのはクソ王子の方っていうか」
「よし。奴を殺しましょう。すぐに終わらせてきます」
「待って待って待って。早まらないで、相手はいちおう国の重要人物だから!」
いまにも飛び出して行きそうなヴァイスを必死に止める。
「あらあら。仲良しなんだから」
そんな私たちを、サリーは微笑ましく眺めていた。
だが、グリードへ向ける視線はどこまでも冷め切っている。
「でも、アタシも殺すべきだと思うわよ? 百害あって一利なしだもの。そもそも、アタシに気づかれずに魔の森に入り込むなんて。なにその技術。アサシンだから? 気に食わないわ。この世から抹消しましょう……?」
「うわああああっ! 友だちと執事が殺意満々過ぎて引く!!」
どうやら、ふたりともグリードを処分することに躊躇がないようだ。なんなんだ。メンタル一般人の私にはまるで理解できない。これが世界間ギャップというものなのか。
「……そんなに殺されたいの?」
覚悟を決めた様子のグリードに声をかけると、彼はそっぽを向いてしまった。
「生きて返されても困る。ヘタこいたと知られたら、どのみち消されるんやから」
「ええ……? 名の知れた暗殺者なんでしょ。そんな使い捨てみたいにされるの?」
「暗殺者なんて、そないなもんや」
「へえ~。大変だあ。あっ、その代わりめちゃくちゃお給料がいいとか?」
「いや……?」
グリードはまるで当然のような顔でこう続けた。
「給料なんてもろてへん。孤児やった自分を育ててもろた。恩に報いるために働いとる」
それは、私にとってあまりにも衝撃的だった。
「や、やりがい搾取じゃない……!? それってあまりにもやりがい搾取よ!!」
やりがい搾取は害悪だなって
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