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びっくりすることは一回でいいよね……

「「…………」」


 思わず言葉を失った。あんなに探し求めていたのに、歓喜の声すら出てこない。

 なぜならそこには――卵黄サイズの真珠が鎮座していたからである。


「……やっちゃった?」

「やっちゃったかもしれないわね」


 指先サイズの真珠がいくつかあればじゅうぶんなのに。

 ただ、当座の資金がほしかっただけなのに。

 

「これ、誰が買うの……?」


 まさかの換金困難レベル、国宝級を引き当ててしまった……!!


「すごいのに! お金にならない! なにこの徒労感!!」

「アハハハハハハハ……!! ひい。アイシャ、アンタって最高ね!!」

「笑わないでよう! これ、サリーが買い取って」

「無理よ。貯金を全部はたいたって買えないわ。ああ、おかしい!」


 なんでだあ! なんで人生ってこんなに上手くいかないの。


 残りのイケチョウガイも少ない。追加で貝を獲りにいかないといけないかなあ……。

 ひとりしょぼくれていると、出し抜けに誰かの声が響いた。


「それ、僕が買うよ」

「おじ様……!?」


 いつの間にか、背後におじ様が立っている。

 また国宝の転移装置を使いやがったな。自由すぎやしないか、うちの王様!


「どうしてここに……?」


 警戒心も露わに訊ねると、おじ様は懐から一通の手紙を取り出して言った。


「うちの息子を砂浜に埋めるなんて手紙をもらった後、アイシャちゃんたちが水辺に向かったって聞いたからさあ……」

「ハッ! あのオブラートに包みまくった手紙! まさか解読するだなんて」

「フッフッフ。文章の裏に隠された意味を読み取るなんてものはね、僕にとっては朝飯前なんだよ。舐めるなよ? おじ様を……!」


 自慢気に胸を張ったおじ様は「まあ、ユージーンが埋められてないようでよかったよ」と笑顔になった。


「ともかく、その真珠は僕が買うよ。元はと言えば、うちの息子のせいなんだしね」

「い、いいんです? コレ、ものすごい高いですよ……」

「大丈夫、大丈夫! そもそも、ハニー……ゴホン。王妃に贈る宝石を探してたんだ。こんな大きな真珠、滅多に見つからないから喜ぶよ。それに……」


 パチリとおじ様が片目を瞑る。


「君には散々苦労させてきたんだ。こういう時くらい大人の度量を見せないとね」

「お、おじ様ぁ……!!」


 くそう。イケオジめ……!

 隙あらばこういうことを言うんだから。

 負けない。私はぜったいにおじ様には絆されない!


「……あ、ありがとう、ございます……」

「なんで辛そうなの? 僕、なにかした?」


 ともかく当座の資金のあてはできた。これでようやく気を抜ける。


「はあ。よかった……。危うく、新しいキャンプギアをお預け食らうところだった」

「よかったねえ。アイシャちゃん」

「全部、お宅の第一王子のせいなんですからね! 製造責任とってくださいよ」

「歯に衣着せなくなってきたね! アイシャちゃんのそういうところ、僕好きだなあ~」


 楽しげに笑っていたおじ様は、意味ありげな視線を私に向けた。


「いやでも、本当に君には申し訳ないと思ってるんだ。まさか、蟄居すらできない愚か者だとは思わなかった。未来を見通す力どころか、視野が狭すぎて呆れるよ。アレをああいう風にしてしまったのは僕なんだよな……。なにが英雄だ。自分が情けなくなるね」

「……? おじ様?」

「ま、これも親の役目だね。ちゃんとけじめはつけさせる。だから安心して」


 なにをするつもりなんだろう。


「お嬢、みなさん。お疲れでしょう。少し休憩されたらどうですか」


 すると、ヴァイスが声をかけてくれた。

 気がつけば、辺りには得も言われぬいい匂いが立ちこめている。

 あっ! バーベキューだ! イケチョウガイのバター醤油焼きだ……!!


「ビールも冷えてますよ」

「ヴァイス大好き!」


 思わず万歳してしまったのは、言うまでもない。

 そうして、現金不足を解決した私たちは楽しい週末を過ごした。


 ――王城から長子相続制度の廃止が発表されたのは、それから数日後のことだ。

おじさまが動き出したぞ!


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