宝探しをはじめよう!
「それで、今日って資金を調達するために来たのよね? なんで湖なのよ?」
胡乱げなサリーに、私は笑顔で告げた。
「えっとね。この湖にはお宝が眠っているの」
「そんな話、聞いたことないけど?」
「そりゃそうだよ。誰も気づいてないもん」
ザブザブと水の中に入りながら、私は説明を始めた。
「地球から様々なものが転移してきているって知っているよね?」
「ええ、そうね」
「じゃあ、地球から転移してくるものに一定の法則があるっていう話は?」
「……それは初耳だわ。どういうこと?」
「つまりね、地球にあるものなら、なんでもかんでも転移してくるわけじゃないの。たぶん、こっちの世界とあっちの世界はほとんど重なっていて、座標が同じ場所にあるものが転移して来てるんじゃないかって仮説があるんだよね」
王城の研究者たちが唱えている説だ。
何十年かおきに転移してくる動植物や無機物を調査していくうちに、それらに関連性があることに気づいたらしい。ゴミや道具類に記載されている文字列から類推するに、ここら一帯に転移してくるものは、おそらく日本という国からやって来ている。
私も前世が日本人だからね。おそらく的外れな考えではないのだろう。
しかも、転移物の出現場所にも法則性がある。
ゴミが大量に転移してくる場所は、おそらく日本でもゴミ捨て場だったのだろう。野菜や果樹が転移してくる場所は農地だったのかもしれない。
水辺でもない場所に大量の魚が死んでいたこともあった。水族館か魚類の研究施設、もしくは養殖場があったのかもしれないね。国会の議事録っぽいものが落ちていたこともあったなあ。じゃあここは永田町……? なんてね。
そう考えると、なかなか楽しいことになってくる。
だったら、日本の地理を理解していれば、どこになにが転移してくるか、あらかじめ予測できるのではないか? そんな結論に至るまで時間はかからなかった。
当時、現金を必要としていた私は嬉々として調べ始めた。金槐でも見つけられたらいいなあ、なんて思っていたんだよね。結果として見つけたのは、思いも寄らぬものだった。
「多分ね、ここら辺は日本で真珠の養殖をしていたはずなの」
「……真珠ですって!?」
「そう! 淡水パール!」
確信はないけれど、この辺りは霞ヶ浦に相当する場所のはずだ。
彼の地では、明治時代の末頃から真珠の養殖がさかんに行われてきた。
養殖場で飼われていた貝そのものが、こちらの世界に転移してきていてもおかしくないと考えたのである。
まあ、そんなに上手くいくとは思ってなかったけど。それでも多少は自信があった。転生前に、養殖所から逃げ出した貝が野生化したなんていう話題を耳にしていたから。転移してきた貝が生き残っている可能性がある。
「じゃあ、貝を獲っていこうか!」
「その手袋アタシにも貸してくれるかしら……!?」
「おっ。サリーさん、やる気ですねえ」
「そりゃそうよ。真珠よ!? めちゃくちゃ貴重じゃないのよ!! アタシもほしい!」
「そう言えば、こっちでは養殖方法が確立されてないもんねえ」
地球でも、養殖方法が確立される前まで真珠は珍重されていたはずだ。
のほほんと構えていると、血走った目をしたサリーが鼻息も荒く近寄ってきた。
「真珠の養殖産業は始めなかったの? アンタならできそうなのに」
「あ~……」
正直、それを考えなかった訳ではない。でもなあ……。
「あの頃、忙しさが極まっていて。真珠の養殖にまで手を出していたら、たぶん死んでいたんじゃないかと。儲けよりも自分の命を優先したの。ごめんね」
「アイシャはなにも悪くないわ!! 悪いのは若人を酷使してきた大人。大人なの……!」
なぜかすごく慰められてしまった。
やっぱりサリーは優しいな。大好きだ。
「じゃあ、がんばって獲っていこっか!」
「おお~!」
江ノ島水族館で養殖パールの採取体験ができるらしくって
とてもとても行きたいね…… ついでに水族館横の浜辺でキャッキャしたいんですが、
帰りの電車の中で濡れたズボンでしょんぼりしそうな予感がする
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