普通にピンチなので
「ところでお嬢。余裕ぶっこいているようですけど、大丈夫なんですか?」
「え? なにが?」
「ギルドに預けていた資産が凍結された件です」
「いやでも、他にも資産はあるし……」
「まあ、普通に暮らしているぶんには問題ないでしょうが」
私の前にカップを置いたヴァイスは、気遣わしげに眉根を寄せた。
「大口の支払いは、いつも冒険者ギルドにプールしている資産から払っていたでしょう。他にも資産はありますが、すぐに動かせる現金はそれほどないはずです」
「あっ……」
「そろそろ、ドワーフたちへの制作費の支払いがあるはずですよ。ハンモックテントでしたっけ? すごく楽しみにされていましたよね」
「あああああああああああああああああああっ!!」
すっかり忘れていた……!
このままじゃ、アイツのせいで人生の楽しみが奪われてしまう!!
「――いますぐおじ様のところに殴り込みに行こう。クソ王子を断罪するわよ……!!」
「待って。待ちなさいアイシャ……! アタシ、友人が捕まるところ見たくないわ!」
「そうですよ、お嬢! 王に手を出したら、さすがのお嬢でも無事じゃすまないです!」
「止 め な い で」
「「止めますよ(るわよ)!!」」
えええええ。なんで。ひどい。
「そもそも、あんな王子を私に押しつけようとしたおじ様が悪いのに!」
正直、おじ様がどれだけ優秀で伝説的な人でも、私の中でかなりのヘイトが貯まっていた。
その能力の一片でも使って、王子を立派に育て上げてほしかった。いや、たぶんいろんな事情があるんだろうけど。王城内の派閥とか、私にはちっともわからんけれども。王様業をしながら子育てなんて、難しいんだろうけど!!
それにしたってひどすぎる。私に対する被害が尋常じゃない。
「うう。うううう。まともな親ってすごいな……」
「お嬢、しっかりして。なんか思考が逸れてます」
「人ひとりを立派に育て上げるって、こんなにも難しいことなんだね。母に感謝を。父にも感謝を! 全知全能の神よ、ろくな子育てができなかったおじ様に天罰を!」
「こりゃ駄目ですね。サリマン、そこの棚にハーブティーが入っているので取ってもらえませんか」
「わ、わかったわ!」
メソメソしていると、ヴァイスはジャスミンのハーブティーを淹れてくれた。お茶を飲むとようやく落ち着いてくる。
「ともかく、なんとかしなくちゃ」
おじ様を脅しつけるのが駄目なら、別の手立てを考えるしかない。
「すぐに多額の現金が手に入る方法ね……」
「お父様に頼れないの?」
「できれば避けたいかな。うちの父、私に頼られるとそれはもう気持ち悪いくらいにはしゃいじゃって、他の仕事に支障が出ちゃうの。領民の迷惑になる」
「あらあ……。愛されるのも大変ね」
ひとり考え込んでいると、ふいにヴァイスが言った。
「そういえば。お嬢、けっこう前の話になりますが、どこからか資金を調達してきたことがありますよね」
「…………。え、そんなことあったっけ?」
「お嬢が十二才くらいの頃でしたね。お城での王子妃レッスンの過密さにキレたお嬢が、いきなり可愛いテント開発するんだって言い出して……」
「あ」
そうだ。そうだった。あの時は、本当に鬱憤が溜まっていて、完全デザイン重視のテントを開発しなけりゃやってられねえ!と、やさぐれていた。
だけど、まだあんまり自由に動かせるお金がなかったのだ。だから、とあるアイディアを活用して資金を工面した。
「そっか! 今回もそうすればいいんだ!」
笑顔で立ち上がった私を、ふたりがポカンと見つめている。
一転して上機嫌になった私は、彼らに向かって元気いっぱいに言った。
「よっし! みんな、今週末は水辺で遊ぶよ……!」
次回、水辺でキャッキャするの巻!
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