おじ様は自由である
「お嬢、ヨハン王。ノビルの天ぷらが揚がりましたよ」
サワガニにうっとりしているうちに、ヴァイスが手早く天ぷらを揚げてくれていた。
さすが執事である。隙がない。
「ありがとう!」
「すまないね」
執事の献身に感謝しつつ、ハイボールとサワガニで食欲にスイッチが入ってしまった私たちは、慌てて箸を延ばした。
あ、ちなみにおじ様はお箸が使えるよ。なんでかって? ははは。私が日本食や中華を布教したからさ……!
「くうっ……!!」
「うわ。なんなんだいこれ。そこらに生えていた奴だろ……!?」
球根の部分を揚げたノビルは、実にいい感じに仕上がっていた。端的に言うとほっくほく。香ばしい衣の下がほっくほくなのだ。
ニンニク揚げに近い食感だろうか。けれども、臭みは多少大人しい。だけど、想像してごらんよ。そんなほっくほくなものを口に含んだらさあ!
「ハイボールおかわり!」
こうなるよねえ。
「飲み過ぎないでくださいよ」
「わかってるって」
ヴァイスの視線を受け流しながら、ニコニコでウィスキーを注ぐ。
「あ」
……うっかり八分目まで注いでしまった。
うん。事故。これは事故だ。
ひとり固まっていると、おじ様が「アイシャちゃんったら」と呆れた声を上げた。
「もう酔っ払っちゃったの? 駄目だなあ~。あっ」
手酌していたおじ様も、気づけば限界近くまで注いでいるではないか。
「「…………」」
互いに無言になって、グラスに残ったわずかなスペースに炭酸を流し込む。
「ちょっと啜って、ウィスキーの割合を減らせばいいんですよ」
「だよねえ。臨機応変。為政者に求められる素質だよね」
言い訳しながら乾杯した。
ああ、今日も酒が美味い。
「……ふふ」
すると、なにやらおじ様が笑っている。
「なんだか嬉しいな」
「……なにがです?」
「いやあ。忙しさにかまけて、実の息子たちともこういう時間を過ごしてはこなかったからさ。とても貴重な経験をしている気がする」
「…………」
思わず黙り込んだ私に、おじ様はどこかしみじみと言った。
「今日は楽しくて仕方がないよ。アイシャちゃんのことも、本当の娘のように思っているからね」
クッソ。このイケオジめ……!!
こうやって、すぐ人をたらしこもうとする!!
なんだかむしゃくしゃして、一気にハイボールを呷った。
「次のサワガニを揚げますよ!」
「おお。楽しみだ」
それからは、熱々の揚げ物に舌鼓を打ちながら過ごした。
おつまみが足りなくなって、秘蔵のビーフジャーキーも出しちゃったよね。
おじ様も始終リラックスした様子で楽しかった。……楽しかったのだ。大いに酔っ払ってしまった私が、翌朝、テントの中で目覚める瞬間までは。
朝日が眩しかった。テントの中におじ様の姿はない。すでに帰った後のようだ。
その代わり、テーブルの上に手紙が残されていた。
『今日はありがとうね。また遊びに来るね』
「また……? またってなに?」
もしや、定期的にキャンプに乱入してくるってことじゃ――!?
私の嫌な予感は的中した。
国の英雄。伝説候補。私の苦手としている、ヨハン・ゲオルク二世その人は……
「また来ちゃった♡」
いつの間にやら、私の森遊びに度々現れるようになったのである。
甘い。私ってば甘すぎる。
楽しく接待したら、そりゃあこうなるに決まってるでしょ!
「おもてなしし過ぎた!!」
「お嬢、自己責任ですからね」
「わかってるわよ~!」
思わず大声で泣いてしまったのは、言うまでもない。
こうなったら、城秘蔵のワインを持ってこさせてやる。
そう思わなければやっていられない気分だった。
ハイボール作ってると、ついつい入れ過ぎちゃいますよね。
あるある……(目を逸らしつつ
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