これだから社畜は
「自己責任でお願いします」
きっぱり断言すると、おじ様は虚を突かれたような顔をしていた。
我ながらいい言葉選びだったと思う。誰よりも重い責任を背負うおじ様からすれば、看過できない発言だ。ふふふ。お腹を壊して困るのはおじ様だけじゃないのよ。国民のために、さあ帰れ。侍従長が待ってるぞ、早く帰れ。いいから帰るんだ、おじ様……!
だが、そんな私の願いは虚しく。
「うん。いいね、そういうの!! 自己責任。いい言葉だ」
おじ様はどこまでもおじ様だった。めちゃくちゃ偉い癖に自由である。
くそう。このイケオジ無敵か? スーパーマ○オのスターでも常備してるってのか。ちっともダメージを喰らいやがらねえ……!!
「おじ様ひとり追い返せないなんて。自分の無力さに腹が立つ」
「お嬢、サワガニ握りつぶしちゃう前にバケツに入れましょうか~」
ひとり臍を噛んでいると、いい年したイケオジがキャッキャはしゃぐ声が聞こえた。
「アイシャちゃん! 見て~! 獲れちゃった。簡単だね。え、こんなんで大丈夫なの、このカニ。自然界でよく生き残っているよね……って、痛い!! メチャクチャ挟んでくる~! アイシャちゃあん! おじ様の大事な指が~!」
「はいはいはいはい! いま行きますよ!」
慌ててバケツを差し出す。
サワガニのハサミから解放されたおじ様は、お腹を抱えて笑い出した。
「アハハハハハ! この僕の指を挟むなんて。不敬な奴もいたもんだなあ」
「処刑でもします?」
「ふふふ。後で僕の胃の中に収まってもらおうかな。よっし、アイシャちゃん! どっちが多く獲れるか競争しよう!」
「ええ……」
おじ様、大はしゃぎである。そんなに大きくない川を縦横無尽に移動して、服が濡れるのも構わずサワガニ獲りに興じている。
「ああ、楽しい! こんなに笑ったの久しぶりだ」
いつもは威厳しかないおじ様の無邪気な姿に、私は呆気に取られていた。
――そういえば、私以上に働きづめなのよね。この人……。
そしてこのはしゃぎよう。普段からいろいろと貯め込んでいるのかもしれない。
激務から逃げ出した身としては、なんだか身につまされる話だ。
――追い返すのが忍びなくなってきた。
この人のおかげで国が栄えているのは事実だ。
こうしてキャンプを楽しめるのも、元をたどればおじ様のおかげである。
「ま、まあ。今日くらいはいっか……」
うん。私はいつだってキャンプに来られるしね。仕方ない付き合ってやるか。
気を取り直しておじ様の元へ向かった。「勝負するにしても、フライングはひどくないですか?」軽口を叩きながら沢遊びに興じる。
「はっはっは! すぐに動かなかったアイシャちゃんが悪い。申し訳ないね、勝負は僕の勝ちだ……!」
「大人げない……! それが一国の王の言葉ですか!」
「どうとでも言え!」
それから、それなりに楽しい時間を過ごせたと思う。
――そう。自分の甘さをまるで自覚しないままに。
次回からはキャンプ飯のターンだ!
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