おじ様、はしゃぐ。
「あり得ないあり得ないあり得ない」
「お嬢、殺意が漏れてますよ。深呼吸しましょ」
「あえて漏らしてんのよ! あの賢王(笑)が帰りたくなるように!!」
苛立ちを露わに歩く私とは対照的に、後ろを歩くおじ様はいやにご機嫌だった。
「アイシャちゃん! これからなにをするの~?」
暢気な声が腹立たしい。かといって無下に追い返す訳にもいかないのだ。
相手は国王。それも伝説候補。対して私は、公爵家とはいえ一介の令嬢……。
権力! 権力が私の反抗心を妨げる……!!
――こうなったら、なんとかして早めにお帰りいただくしかない。
貴重な休日を台無しにしやがったおじ様に、私はしかめっ面のまま告げた。
「……いつもは、持ってきた食材を調理しながらお酒を飲んでダラダラするんですが」
「えっ! なにそれ最高じゃない」
「二泊予定で時間に余裕があるので、ちょっと趣向を変えようと思いまして――」
「へえ」
「ここです」
到着したのは、テントからほど近い場所にある小川だった。
森の木々の合間を縫うように清水が流れている。驚いた顔をしているおじ様に、私はあえて清々しさすら感じさせる笑顔で言った。
「今日の夕食の食材は、ここで調達しようかと!」
ぶっちゃけ嫌がらせだ。
おじ様は生まれた瞬間から王道を歩んできた。
比喩なんかではない。文字通り、王となるべく人生を歩んできたはずだ。
つまり生粋の貴族。自分で着替えをしたことも、食事の準備なんかをしたこともないであろうおじ様が、自分で食材を獲るだなんて――絶対に無理に決まってる!
「いやあ、すみませんね。碌なおもてなしもできなくて。無理なさらないで下さいね」
ほうら。小川だよ。自然がいっぱいだよ。虫や細菌だってウヨウヨさ。
下手をしたら蚊に刺されるどころか、蛭に血を吸われちゃうかもしれないねえ。へっへっへ。すでにマダニ(っぽい虫)にはロックオンされているはずだ。
腹立たしいことに、こっちの世界にもそういうのがいっぱいいるのさ。都会育ちの坊ちゃんは耐えられないだろうねえ! さあさ、とっとと帰りな――!
気がつけば、脳内がチンピラみたいになっている。仕方ないよね。だって、どう考えても無理だもの。悪いね。せっかく来てくれたのにね! お気の毒~!
――それなのに。
「うわあ! すっごい楽しそうだねえ!!」
まさか、当の王様がノリノリで川に入り始めるなんて……!
いったい誰が予想できただろうか。
どっちかというと、私は川を見かけたら水と戯れたくなる衝動と必死に戦うタイプです。
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