暴君ってこれだから
「僕も誘ってよね。将来、親子になる予定なんだから」
「陛下、婚約は辞退したはずですが」
「あっ。なんか言葉遣い硬くない~? 寂しいな。僕も歳を取ったもんだ。昔はおじ様おじ様って慕ってくれたのになあ」
「…………。お宅の初期不良なクソ王子は返品しましたよ。おじ様」
「アッハッハ! いいね~。僕、アイシャちゃんのそういうところ大好き!」
お腹を抱えて笑っていたおじ様だったが、ふいに表情を曇らせた。
「そんなに嫌だった? ごめんね。最善の組み合わせだと考えていたんだけどね」
実に気遣わしげだ。渋いお顔が曇るとそれだけで攻撃力が高い。
年長者……それも一国の王で伝説的な存在なのに、若輩者に寄り添う姿勢。ああ、なんとも自分の使い方を理解していらっしゃる。
――普通の人ならコロッと騙されてしまいそうだなあ。
だけど、何度も痛い目に遭っている私には効かない。
どうせ〝国にとって〟最善の組み合わせだったんでしょ。本音が透けて見えている。
「……王子の素行を知っていて、それを言うんですか。申し訳なく思うなら、二度とあの王子を私に関わらせないでください。しつこくポエムを贈ってきて困っています」
「うわあ! なんかごめんねえ。誰に似たんだか、夢見がちなんだよねえ。あの子」
「為政者の資質に欠けているんじゃないですか」
「それはそうかもね。なにも現実が見えていない」
ちらりと私を見やる。碧色の瞳をわずかに細め、どこか楽しげに言った。
「僕はね、シャルロッテ某なんかよりは、君の方がよほどいい女だと思うけどね」
「……!!」
くそう。イケオジの顔がいい。
「……今日はなにをしに? 婚約破棄の正式発表の件ですか。まさか、自分の子育ての失敗を懺悔でもしに来ましたか」
おじ様は「いいや?」と喉の奥で楽しげに笑っている。
「感謝を伝えにきたんだよ。サリマンの件でね」
「サリーの?」
「そうだよ。彼女の存在は、王国にとって長らく懸案事項だった。役目を終えたはずなのに、森に引きこもって出てこなかったでしょ。国に対してなにか不満でもあるのかと、ヒヤヒヤしていたんだ。特にこの頃は被害が増えていたからね。サリマンの事情を知れただけでも僥倖だ」
「……長命種のエルフは強大な魔力を持っていて、たとえ個人でも脅威となり得ますからね。エルフを怒らせてしまって、国ごと呪われてしまった話は有名です。今回の件、原因はお宅の馬鹿息子だったみたいですけど、報告書は読んでもらえましたか?」
「ああ! もちろんだ。迷惑をかけたようだね。アレは然るべき処分をするつもりだよ」
「処分……本当ですね?」
「嘘はつかないよ」
おじ様の冷徹な一面は有名だった。この人なら、たとえ身内が相手であろうとも容赦しないだろう。たぶん。そう、おそらく。
「…………。ならいいです。友人も喜びます」
「あ、サリマンと友だちになったの? さすがアイシャちゃん! 人たらしだねえ」
「やめてください。そろそろいいでしょうか。私、今日は休暇で来ているので」
さっさと帰れ~~~~。念を送りながら立ち上がると、
「え。嫌だ」
絶望的な言葉が聞こえた気がして、思わず固まってしまった。
「……ええと?」
歪な笑顔のまま首を傾げる。おじ様はひどく楽しげに目を細めていた。
「最初に言ったでしょ。君ばっかり楽しそうなことしてズルいって」
悪戯っぽく輝く碧色の瞳がやたら綺麗だった。誰にも尊敬され、時には恐れられる時代の寵児。やがて伝説になるであろうその人は――
「夕方まで時間があるんだ。君の遊びに僕もまぜてよ!」
どこかの暴君みたいに、死刑宣告を宣いやがったのだ。
おじさま!
いやだわ考え直して!
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