おじ様、襲来。
ソイツは、なんの前触れもなく突然やって来た。
新しい友だちをゲットしたものの、やっぱり仕事が減らなくて遊ぶ暇もなく、若干キレ散らかしながら積み上がった書類を片付けた週末。
父の「たまにはパパと一緒に別荘にでも」なんて誘いをぶっちぎって、癒やしを求めて森で二泊するぞと気合いを入れていたのにだ。
ストレスが溜まっていたのもあって、キャンプに行けるのが心から楽しみだった。しかも、奴が現れるその瞬間まで絶好調だったのだ。
テントを張るのに最高の場所を見つけていたし、設営だってどこまでも順調で、お天気も快晴。ヴァイスのお小言も絶好調。二泊もするから時間は有り余っている。だから、今日はいつもより凝った遊び方をしようなんて目論んでいたのに。
――ソイツが来たせいで、すべてが台無しになった。
「来ちゃった♡」
「なんで、あなたがここにいるんですか!!」
正直なところ、私の発言は失礼極まりないものだった。危険さえ伴っている。
おそらく、ここが城だったら大問題になっていただろう。
なぜなら――相手は〝賢王〟と名高い、この国のトップ。
ヨハン・ゲオルク二世その人だったからだ。
*
私はこの国の王が苦手だった。
できれば顔を見たくない。関わらないでいいのなら、一生そうしていたい。
だからこそ、ユージーンに三下り半を突きつけた時だって執事に任せた。
ヨハン王……いや、ヨハンおじ様は父の従兄弟だ。
私の祖父が先代の王弟で、この実に厄介極まりない存在と私は血が繋がっている。
そのせいか、幼い頃からずいぶんと交流があった。父とおじ様の関係性が悪くなかったせいもあるのだろうが、イベント毎になにかにつけて顔を合わせていたのだ。
――最初は、ただすごい人なのかなと思っていた。
見た目はまごうことなきイケオジだ。当然のように金髪碧眼だし、端正な顔で若い頃はさぞかしモテただろう気配を漂わせている。
基本的に柔和な口調で、人当たりもいい。いざという時の決断力には目を見張るものがあり、人々を率いるだけのカリスマ性を兼ね備えていた。
即位時に、王族派と貴族派間で起きていたいざこざを解消したのは有名な話。先代王のせいで一時は存続が危ぶまれた我が国も、おじ様のおかげで持ち直した。
他国からの侵攻を、みずから陣頭指揮を執って華麗に撃退したという話はすでに伝説になりつつある。
その有能さは多くの人間を魅了しており、たぶん表だっておじ様を悪く言う人間はどこにもいない。おじ様に救われた人間は数え切れないほどいるから、迂闊な発言は命の危険を招くだろう。城内にはかなり過激なシンパもいると聞くからね。
いやあ。簡単におじ様の偉業を羅列してみたけど、本当にすごい。
伝説になるだろう存在が同じ時代に息づいている。それって本当、すごいことだよね。前世の記憶を保持しているからか、庶民的な感覚が抜けない私からすれば、生き物としての段階が違うんじゃないかと疑いたくなるレベル。
――そう。彼と私とでは、なにもかもが違いすぎた。私は、公爵令嬢だけどたまたま知識を多く持って転生しただけの一般人。向こうは偉人候補。経験上、そういう人間とは距離を置いた方がいい。親しくすると、劣っている方が痛い目をみる。
そう断言する理由はもちろんあった。
以前、前世の記憶を使って、幼かった私がさまざまな活躍をしてしまったと述べたと思う。
それを扇動したのが――ヨハン・ゲオルク二世その人だったからだ。
ででん、でんででん
ででん、でんででん
ちゃらりーん
イケオジがきました!




