犯人は奴だ
片付けを終えた私たちは、サリマンに別れの挨拶をしていた。
「気をつけて帰るのよ」
「今日はありがとうございました。いきなり押しかけてすみませんでした」
「別にいいわよ。久しぶりにお茶ができて嬉しかったし。冒険者を蹴散らすくらいしか、やることがなかったし」
どうやら、今日も何人かが犠牲になっていたらしい。
「えっ。森の中に死体が……!?」
思わず険しい顔になると、サリマンはケラケラと楽しげに笑った。
「別に殺しちゃいないわよ。凍らせて、森の外に放置しておくの。そうしたら、勝手に誰かが回収していくのよ。治癒士だったら解ける程度の呪いなの」
「わあ……。いやでも、なんか申し訳ない気持ちになりますね……」
この時には、ずいぶんとサリマンを親しく思っていた。だって失礼なことをした私にも、こんなに優しいんだよ。確かに怒られはしたけれど、むしろ無謀な私を心配すらしてくれた。なんていい人なの。もう好き。大好きかもしれない。
だからこそ、魔女さんを煩わすなんてあり得ないと思った。
冒険者め。いや、羽虫共め……!
公爵令嬢が持てるすべてを使って、駆逐してやろうか。
「魔女さん。私にすべて任せておいてください……」
「えっ。どうしたのよ。なにを決意しちゃったのよ。ちょっと、執事!?」
「こうなったお嬢は止められませんよ」
「諦めないで!? 達観した顔はやめて!?」
なぜだかビクビクしているサリマンに、私は訊ねた。
「冒険者たちが集まってくる理由って、心当たりありますか?」
「え? ええ……? ええっと、よくわからないわ。あの子たちがいた頃ならともかく」
「彼らは誰かに狙われていたんですか」
「そうね。とっても愛らしかったもの。愛玩動物として欲しがる人間が尽きなかったのよ。まあ、容赦なく追い払ってやったけど」
「じゃあ、冒険者たちはまだ彼らが生き残っているかもしれないと考えている?」
「わからないわ。でも何か依頼を受けて探している素振りはあった。不思議よね。あの子たちの存在なんて、みんな忘れてしまっているはずなのに。王城の書物庫あたりには、姿絵くらい残っていそうなものだけど――」
「王城?」
なんだか嫌な予感がする。すると、サリマンがポンと手を叩いた。
「そうだ! 少し前――と言っても、二年くらい経つかしら? やけに態度がでかい小僧がね、アタシの住み処に忍び込んだことがあったのよ。もう、すごかったわ。なぜかふんぞり返って『シャルロッテにやるから、毛むくじゃらの珍獣を出せ!』とかなんとか騒いで。腹が立ったから、あらゆる虫と植物に嫌われる呪いをかけた上で、凍りづけにして放り出したんだけど。それからね、森に侵入してくる冒険者が増えたのは」
碌な事しねえな王子……
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