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温泉がないなんてきいてない

「……温泉なんて湧いてないわ」

「で、でも! 白い煙に木々が立ち枯れるような異臭って」

「それは侵入者を防ぐ為にアタシが設置した罠よ」

「あああああああああ」


 絶望的な言葉に、私はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。


 魔の森の一角、美しい湖のほとりでのやり取りである。私の目的「温泉探し」を聞いた魔女は、どこか脱力したようだった。なんだか苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「残念でしたね、お嬢」

「ウッウッウッ! 湯上がりにビールが……」

「半身浴で我慢しましょ」

「仕方ないね。ねえねえ、ヴィンダーじいって自動給湯器を開発できると思う?」

「また仕事を増やすつもりですか」

「ちょっと」


 いつものようにヴァイスとやり取りしていると、ふいに魔女サリマンが声をかけてきた。物言いたげな顔で私を見つめている。


「アンタなんなのよ。なにがしたいの?」

「え? ですから温泉を――」

「そういうことじゃなくて!! 普通は魔女を見たら恐れるものなの。逃げ出すものなの。菓子折を差し出すってどういう了見よ!?」

「ええ……。住み処を訪れる訳ですから、道理を通すべきかなって思って。ほら、魔女さんってこの森に不法侵入してきた冒険者には厳しいですけど、普段はそんなことないじゃないですか。姿を変えて、近くの村で買い物をしたり、薬草を卸したりしてますよね?」

「……アンタ、なんでそれを」

「情報収集したんです! 立場上、いろんな伝手があって……。村人さんからの評判、けっこうよかったですよ。あ、ごめんなさい。勝手に探られて嫌でしたよね……?」

「急に謙虚になるんじゃないわよ」


 深々と嘆息している魔女に、私は続けた。


「そういう方だと知っていたので、特に怖いということもなくって。そもそも、不法侵入しているのはこちらなので、お怒りをどう鎮めるかが肝要といいますか。こりゃ賄賂を渡すしかないと」

「それで菓子折」

「もらって悪い気はしないでしょ?」

「そ、そりゃそうだけど。なんでお菓子……?」

「ふっふっふ。前世では山吹色のお菓子っていう、金銭を隠して渡す技がございまして」

「えっ。まさか」

「いや、今回は入れてませんけど」

「思わせぶりなこと言うんじゃないわよ!?」

 

 脱力してしまったサリマンに、私は笑顔を向けた。


「とにかく害意がないことを伝えたくて。それだけです」


 はっきり断言した私に、サリマンはなんだか複雑そうな顔をしている。

越後屋、おぬしも悪よのう……

とらやのミニ羊羹詰め合わせセットをくれるとは

実に趣味がいい


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