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くらえ! 社会の波に揉まれた社畜の必殺技を!

 翌日。魔の森に到着した私とヴァイスは、森の中で立ち尽くしていた。


「わあ……!」

「圧巻ですね」


 その光景に目を奪われてしまったからだ。


 そこはまさしく原始の森。屋久杉も顔負けの巨木が並んでいた。枝葉が空を隠してしまっている。昼間だというのに森の中は薄暗く、ところどころ薄日が差し込む程度だった。太い根が地面を覆い隠していて、苔の緑が目に眩しい。


 噎せ返るほどの土と緑の匂い! 辺りに漂っている燐光はなんだろう。姿は見えないのに、数え切れない生命の息づかいを感じる。


 森の外とはまるで別世界。魔の森が魔の森たる所以を、まざまざと見せつけられたようだった。

 

「映画の世界みたい。お前は森で、私はタタラ場で暮らそうって言ってくれるイケメンはどこにいますか……!」

「この光景を見て、第一声がそれですか」

「転生前に好きだったの。友だちはヒーローにガチ恋してたな~!」

「俺、元ネタがさっぱりわからないですからねえ」

 

 まあ、おふざけはここまでとして。


「神様がいそうなくらい、すごい場所だね」


 壮観である。魔女の伝承も相まって、ほとんど人が踏み込んでいないのだろう。


 感動だ。こんな場所に足を踏み入れること自体、前世でだって滅多に経験できない。


「テンション上がってきた! 行くわよ、ヴァイス。隠された温泉の謎を解明すべく、我々探検隊はアマゾンの奥地へ向かった……!」

「ちょっと地球ネタがクドくないですか?」


 ちょっと落ち着こうかお嬢、なんて言われながらズンズン進む。


 清浄な空気を胸いっぱい吸い込むと、心が洗われるようだった。


 だってスケール感が異常なんだもの。疲れた心に効きすぎる。そのせいか、はしゃぎ過ぎたのかもしれない。こんな静かな森の中、大騒ぎしていたらそりゃあ……。


 魔女にも見つかるってもんだよね。


「お嬢!!」

「…………!?」


 気がつけば、真っ黒な何かがものすごい勢いで近づいて来ていた。


 うわあ。思ったよりもすごくおっきい……! 顔も怖い。いやでも美人? そのあふれんばかりの殺意、仕舞ってもらっていいですか~!? 

 やばい、やばい、やばい。なんか魔法を発動しかけてる!


 ――このままじゃ凍らされてしまう。


「ひゃーーー!?」


 ぶっちゃけ私は動揺しまくっていた。せっかく対策してきたのに、これじゃ台無しだ。


「ああもう。お嬢は下がっていて!」


 見かねたヴァイスが戦闘態勢に入っている。獣化した彼の爪と牙は鋭い。魔女に襲われても、きっとなんとかしてくれるんだろうけど……。


 ――それじゃ駄目だ。


 暴力じゃ私の目的は達成できない!

 確かに私たちは不法侵入をしている。魔女には排除する権利もあるのだろう。

 けれどもそれは、これから状況を変えていけばいい話……!!


「ヴァイス、私が行く……!!」

「お嬢!?」


 勇気を出して前に出る。

 みるみる近づいてくる魔女に向けて、勢いよく隠し持っていたものを突き出した。


 ――そう、それは社会人にとっての必殺技……!!


「初めまして魔女さん!! お会いできて光栄です。私、アイシャ・ヴァレンティノと申します。あ、これつまらないものですが――!!」


 礼儀正しい挨拶。町で買い求めた高級菓子折。

 社会人二点セットである。


 ――どうだ!!


 人付き合いの第一歩は、なにより挨拶! 第一印象って大事だよね。

 

 それに――少なくとも、事前に調べた限りでは(・・・・・・・・・・)魔女は無差別に人を襲っているという訳ではないようだった。


 ならば、まずはご挨拶である。

 温泉が見つかったら、もろもろ利用させてもらいたいし! 

 まあ、ぶっちゃけ賭けではあったけれど――

 

「……は?」


 効果はあったらしい。魔女は止まった。止まってくれたのだ! 私を見下ろす魔女の顔からは、すっかり殺意が消え失せている。


「アンタ、お馬鹿なの……?」


 その代わり、痛い子を見るような目をされたけれど!

 体は震えているし、ちょっと腰も抜けてしまっていたけれど!


 少なくとも、目の前の魔女に襲われることだけは、回避できたようだった。

真面目なターンなんて一話も持たないんやで


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