次の標的
「お前達か、余計な事をしてくれたのは」
ルフラムは、その声に怒気がこもっている事にいち早く気がついた。
周りを囲む衛兵達の多さが、目の前の人物がどれだけ偉大なのかをまざまざと見せつけてくる。
横にいる人物でさえ、ルフラムには威圧感で背中がのけぞりそうだった。
「俺達のおかげと言って欲しいね」
「……こざかしい、用はなんだ」
そんな、人物達を相手に物怖じするどころか、うわてに立って交渉をしようと言うのだから、このローレンという男、どこまでも恐ろしい。
フューデンのリーダー、トゥランジス・アルマと、総参謀エイル・エルガンテ。
紛う事なき、フューデンのトップだ。
何故、そんな大物とルフラム、ローレンが介しているかと言うと、ローレンのこんな一言から始まった。
「俺達には、もう次のターゲットが決まっている」
まだ、皆兵装を整えるのに手一杯なのに対し、一人何もせずにこう一言だけ呟いたのだ。
「次の相手というのは? 誰なんだ」
「まぁ、待て、そう急ぐな。まずやるべき事がある。特にルフラム、お前にな」
「僕に?」
そう言って、連れてこられたのがフューデンの王宮だとは誰が思うだろうか。
カルエ地区の話をするとすぐに通せと、みるみるうちに王宮の内部まで連れて行かれたのだ。
みんな、どこか緊張感に溢れていてルフラムもよりガチガチになってしまう。
「今、あなた方が奪ったカルエ地区すごい事になってますなぁー。おまけにどこかの地区をチャレンに奪われたなんて話を聞いてますが?」
「お前達がやったんだろうが。だからラオバンとチャレンの両睨みの状態が続いているのだ」
「こうなったら戦争待ったなしですよねぇ。でも、おたくの信念はなんでしたっけ? 専守防衛? 国を守り統べる事が第一義であると存じておりますーがぁ?」
「我の気はそこまで長くないのでな。結論から話せ。話の通じないものは斬る」
「おー、怖い怖い」
肩をすくめながら、冗談めいた顔でローレンは茶化した。
「俺達が、ラオバンの相手をする、それと、チャレンに取られた地区を取り返してやってもいい。その代わり、チャレンからくる火の粉を今後払ってもらいたい。それと不可侵条約も結んでちょ」
この人やばい。ルフラムは思った。
今までのトリッキーな攻め方で、難所を攻落、その場を捨て新しい地をものにしたが、その難所がどうやら他の陣営にとっての重要拠点で、それをフューデンがとったという噂を流し、チャレンの戦闘行為を促しつつ、そのチャレンとの戦闘を買って出る事により、フューデンと仲良くする口実まで作っている。
ここまで考えて城を捨てていたとなると、ルフラムはローレンの事を一つ二つ甘く見ていたのだと実感した。
「お前達にチャレンが相手どれるのか?」
「潰れるなら潰れるで勝手にするからあんた達にとっては得だろ? それと……あれ、取り返してやるよ。シュのフーガ」
「……何故お前がその事を知っている!」
「おい、エルガンテ!」
「やはり、取られてたんだな」
「はっ……! 申し訳ございません!」
「……良い」
「ははは、別にいいだろ話したって。読み通りだぜ。最近、ホワイトロックの守り方を変えたんだろ? 今時、フーガに任せるのが常識なのに、急にしょぼそうな機械に頼るからもしやと思ったら、ビンゴ」
「……本当にリンは帰ってくるのだな?」
「あぁ、約束しよう」
「……とりあえずは、その約束に乗ってやろう」
今、とんでもない話を聞いているのだと、ルフラムは感じた。
歴史が変わる音が聞こえた様な気がした。
「んじゃ、後はうちのトップのこいつがやるから、書類やらなんやらの調印よろしくー」
そう言ってルフラムの肩をポンポンと叩くと、ローレンは一足先に王宮から出て行ってしまった。
ただの雑用係として連れてこられたというのが、容易に想像がついてしまった。
「……後を任されました、ルフラムです。一応フレッセンの代表として参りました」
「アルマだ。では、早速手続きを行おう」
不可侵条約の締結、フレッセンはチャレンを相手取り、フューデンは、ラオバンを相手取る。お互いを守り、フレッセンはシュのルーンを持つフーガと、チャレンが奪った領土を取り返す契約を結び、両者はがっちりと手を握った。
調印の儀から終始、憮然としていたエルガンテが、突如としてルフラムに話しかけてきた。
「お前達、何故この様な事をした、お前達がこの様な事をしなければ、世界は一時の平和を享受できていたものを」
ルフラムは考えた。
確かに、三国の均衡を崩し、戦争を巻き起こす様な事をした理由というのは絶対に説明しないといけない事だった。
しかし、自分の理由は語れども、他のメンバーの理由は知らなかった。
「世界の……出口を見つける事です」
「は? 世界の出口だと……? もしや、ホワイトロックを全て開けるつもりなのか? そんな事は許さぬぞ!」
「もし、必要とあらば、僕は……僕達は手段を選ばないつもりでいます」
「本気なんだな? 例え我らと戦争になったとしても」
「そうはならない事を願っていますが、お互いに敵同士になってしまったら致し方ありません」
エルガンテが、拳を握り締め、腰にかけた剣の柄に手をかけた時、アルマが遮る様に口を開いた。
「フレッセンは、お前達の様なものばかりが集まっているのか?」
「確かに、変わったメンバーは多いかと思います」
「ふふっ、それにしても面白いな、ホワイトロックか、確かに、これは外に出る為の鍵だとされている」
「……! やはり外の世界は存在するのですね!」
「傾国風が吹く地に全てを集めねばならないがな。ローレンは知っていると思うが、鍵は三つ、ラオバンとチャレンそして、我々が一つずつ持ち守護している。宝の中でも特に厳重に管理されているぞ。何故なら、それぞれの信仰と関わりが深いからな」
「信仰……ですか」
「あぁ、そうだ。人の心の支え、精神的な支柱だ。つまりただのものではない。その国に住む人の思いそのものだ」
ルフラムは、今この場ではそんな大きなものを奪ってしまえる自信など一欠片でさえ持ち合わせていなかった。
しかし、ローレンならそんなこと構わずに、俺が全部集めるぜ。などと言うのだろうと容易に想像がついた。
「おい、まだかよルフラムー、早く飯でも食いに行こうぜー」
「はい、ただ今終わりましたので、僕も行きます」
「ちょっと待て、ルフラム」
突如としてアルマに呼び止められた。
振り向くと、涼しい顔をした爽やかなマスクが小さく微笑んでいた。
「はい、なんでしょう?」
「死ぬなよ」
「はい、ありがとうございます」
いずれ敵になるかもしれない人物にそんな事が言える徳の高さにルフラムは、国のトップの片鱗を垣間見た気がした。
もう片方のトップが、飯が食べたくて仕方がなさそうだったので、今日はこれでお暇をすることとなった。
トップに会えた事の驚きや、迫力がいつまでもルフラムの心の中に残り続けていた。




