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slag  作者: 雨後の筍
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国の名

「ちったぁ、楽しませてくれよ」

「戦いを楽しむなど、やはり最強の考えは読めぬ!」


 刹那、タリムはローレンの背後に移動し、斬撃を見舞った。

 が、目に見えぬ何かに防がれ、ローレンにまで刃が届くことはなかった。


「くっ! 意味のわからぬルーンを使いよって!」


 その後も斬撃を繰り返すが、全く攻撃が通る気配がない。


「そんなもんか?」


 ローレンが手をかざすと、タリムはことごとく吹き飛んでいった。

 ルフラムは、タリムの事を相当の実力者だと踏んでいただけに、今回の戦闘は圧巻という他なかった。


 これが最強。


 赤子の手をひねる様に、時を止める能力者を弄んでいる。


「くっ……」

「何をやっているタリム!」


 呆れと怒りのこもった眼差しでタビンがタリムに向かって声を荒げた。


「申し訳ございません。今にやつを倒し、再び彼の地をタビン様の元へ取り戻します」


 そういうと、タリムはフラフラと立ち上がりながら、再びローレンに切り掛かりにいった。

 しかし、刃は通らない。


「なぁ、お前さ、なんであんな奴の下で動いているんだ? あいつ、どう見たってクズだろ。お前の能力があれば瞬殺のはずだ。何してる」

「あの方は、私を拾ってくださった。全てを奪われて、絶望に暮れていた私を! 絶望の淵から奪う側へと変えてくださった! 奪う事こそが正義! 奪われるやつが悪いのだ!」


 タリムは、ルーンを何度も使い、斬撃を繰り返すが結果は同じだった。


「はぁ、はぁ……」


 ルーンも無限に使えるわけじゃない。

 特に、能力の強いものほど体力の消耗が激しくて当然なのだ。

 その点、タリムの能力はかなり強力だ。

 連発できていることがまずおかしいのだ。

 ルフラムは、タリムの意地と忠義に驚かされるばかりだった。


「もういいだろ」

「まだだ!」


 フラフラとよろめきながらも攻撃を続ける様は、ルフラムから見ていてとても痛々しかった。


「けっ、使い物にならぬ」

「申し訳……ございません……今すぐに……こやつを斬り伏せます故……」


 そういうと、タリムはばたりと倒れ込んだ。


「勝負ありましたな」

「タビン、もうお前に勝ち目はねぇ、命まではとらねぇからとっととこの城から出ていけ」

「お前達、覚えておけよ。このタビン様が奪われるだけで終わると思うなよ」

「待て!」


 奥歯を噛み締めながら城を後にしようとするタビンに対し、ルフラムが制止をかけた。


「なんだ小僧」

「お前は、民達を酷い目に合わせておいて反省はないのか!? 今もお前の為に戦った仲間達を見捨てて自分だけ逃げようとしている事におかしいとは思わないのか!? タリムが命をかけてクタクタになるまで戦ったのを見てなんとも思わないのか!?」

「ふん、奪う側は奪われる側の事を考えてやる必要はない。手駒はいくらでもいる、こいつらは用済みだ」

「ふざけるな! お前みたいなやつは私が許さない、再び来た時は……私の弓でお前を射抜く!」

「ぶはは! お前にできるものか。さっきから見ていたぞ。お前は戦う勇気がない。人を殺める勇気がないんだ。そんなやつは奪われる側にすらなれやしないクズ以下だ。そんなやつに私は殺せない!」


 タビンは、笑いながら城を後にしていった。

 ルフラムは自然と握り拳に力が入った。


「ルフラム、あんまり気にすんなよな! あいつの言う事なんて虫の羽音くらいに思っておけばいいさ!」

「……あぁ、ありがとうホルミ」

「さてさて、これでこの悪趣味な城は俺たちのもんになったわけだ」

「まさか、ここも手放すとはいうまいな?」

「あぁ、ここは俺達の本拠地になる。いよいよ、国の立ち上げだ。細かいことはキンジが帰ってきてからだな」


 一同は、ようやく任務が終わりほっと一息つくことが出来た。

 ルフラムは、一息つく間もなく倒れた兵士達一人一人に肩を貸してやり、そばの壁へとそっと寝かしつけた。

 そして、最後の一人、タリムの元へとそっと近寄った。


「タリム、大丈夫か?」

「敵の施しは受けない」

「敵ではなく、味方としての施しならどうだろうか?」


 タリムは怪訝そうな顔を浮かべている。


「タビン様を裏切れというのか? 私はタビン様のものだ!」

「いや、裏切ったのは向こうだ。今君は誰のものでもない。そもそも君は誰のものでもないんだ。君は君で自由なんだ。だから、僕達の元へ来ないか?」

「……何故私にそこまでするのだ」


 ルフラムは、一つ考えてからポツポツと話し出した。


「僕には姉がいた。しかし、この世の出口とやらから出ていってしまったらしい。だから、幼き頃は一人で生きてきた。ホルミとフレロがいたから寂しくはなかった。しかし、だからこそ一人が辛い事も良くわかる。それに……」


 ルフラムは言葉を切った。そして唇をガッと噛み締めた。


「信じた人から裏切られた事がどれほど辛いかも良くわかる」

「……」

「だから、僕達の元へ来ないか? 僕達は何があっても裏切ることはないし、君に裏切られたとしてもそれで構わないから」


 ルフラムがそっと手を伸ばす。

 タリムはしばらく考えた。

 じっと俯き何もしない時間が過ぎていく。

 タリムが顔を上げたのは五分も経った後だった。


「分かった。お前達と一緒に行動する」

「ははっ! ありがとう、タリム!」

「ほらみろ、うちのルフラムは、すごいだろ」

「ホルミ、何でお前が自慢げなのだ」


 フレロは笑いながら蓄えた髭をそっと撫でた。


「さぁ、そろそろやるべき事をやろうぜ」


 ローレンが堰を切った。

 皆の視線がローレンに集まる。


「国の名前を決めないといけねぇ。俺達がこの世界に一つの派閥である事を示す大事な名だ」


 そういうと、ローレンはニヤニヤしながらルフラムを見た。


「国のトップであるお前が決めろ」

「国のトップ……」


 言葉の重みだけがルフラムにのしかかってくる。

 今だに実感が湧かないが、恐らくとんでもない事が起きているのだろう。

 一国の主になるという事は、全ての人々が自分の下で暮らし、自分を慕い、もしくは恨みながら日々を過ごしていくという事だ。

 何をするにも自分次第。

 もし、万が一、悪気なくタビンの様な悪政を敷いてしまった日には、ルフラムは、自分自身が正気でいられるのか分からなかった。

 それでもやらない選択肢はなかった。

 いつかこの世界を出ていくその日まで、ルフラムは、慕ってくれる人の為に動こうと決めていた。


「フレッセン、我々の国の名はフレッセンだ」

「フレッセン、なるほど、くくく、いい名前だ」

「あぁ、良き名前だな」

「小僧にしては中々なセンスよな」

「うちも気に入ったぜ!」


 口々に褒め称えてくれる皆を見て、ルフラムは自然と笑みが溢れた。


「では、行こう、フレッセンの旅立ちの日だ!」

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