本当の目的
「これが城か……」
ルフラムをはじめとした、ホルミとフレロは城の内部を全く知らない。
内部を舐めるように観察しては、ホルミは子供の様に無邪気にはしゃいだり、フレロは感心したりと様々に城を楽しんでいた。
「んで、早速入城して楽しそうなところ悪いが、ここは明け渡す」
「……え?」
「今……なんて?」
「だから、この城を手放すって言ってんだ」
「主の話は一回で聞け愚か者が」
「んだとてめぇ!」
「ホルミ! やめんか!」
「して、手放して僕らはどこへ行くのだ、ローレン」
「タビンの所に決まってるだろ。あいつを玉座から引き摺り下ろすんだよ。キンジ、仕事任せるぞ」
「了解です。行ってきます」
キンジは、書き物をやめ、どこかへと消えていった。
「して、ローレン殿、どうしてこの城を手放す? せっかくシンシャが体を張って取った城をそんな簡単に明け渡す理由を聞かせてくれないか」
ローレンは、困った様に「やれやれ」というと、説明を始めた。
「ここは、チャレン、ラオバン、フューデンにとって言わば要所だ。ここを取っていた陣営が、この近辺の覇者と言っても過言ではない立地をしている。つまり、ここはどの陣営も喉から手が出る程欲しい場所なわけだ」
「そんな場所をこんなにあっさりと手に入れる事が出来てしまっていいのだろうか?」
「第三者には問題ない。次再び取り返せばな。特に俺たちみたいな小規模の奴らは一度入城させてからの方が手っ取り早く済むと考えたんだろう。だからそのうちここは攻められる。そうなる前にタビンから領地を根こそぎ奪い取る」
「して、ここを手放す理由は攻められるからというだけか? あまりにも渋い一手に思えるが」
ローレンは、もう少し考えろと言った呆れ顔でルフラム達三人を見ていた。
「まぁ、ひとまず時間がねぇ。ここはキンジに任せて、俺達はタビンの後を追うぞ」
ルフラム達は、その日の夜に休む事なくそのまま進軍を開始した。
多少の疲れはあったが、シンシャやテツゾウ達の様に、ルーンを使っているわけではないので、消耗はまだ少なかった。
夜の街道は静かで暗く、獣道とほぼ変わりは無かった。
「タビン達がどこに行ったのか、目星はついているのか?」
「あぁ、あいつらが行った先はナルコ城だ」
「ナルコ城、聞かぬ城だな」
「無理もない。最近あいつらが建てた豪勢な城だからな。民達の税金の使い道は全てそれよ」
ルフラムは、静かに憤慨した。
民達を虐げた挙句に、作ったものが豪華な城とは、とてもじゃないがやりきれない。
一刻も早く、タビンを引きずり下さねばならない。
「おい、ルフラム。お前今良からぬ事考えてんだろ」
「よ、良からぬ事など考えてはいない! 僕はただ、民達の為に、タビンを早く玉座から引き摺り下ろさねばと――」
「それが良からぬ事だって言ってんだ。俺達は民の為にこんな事をしているんじゃねぇんだよ。これは俺達の為の戦争だ。お前にもやるべき事があるんだろ? 忘れるな」
そうだった、ルフラムは気がついた。
ルフラムは姉を探す為に世界の出口を探している。
民達の為にというのは、今は違う。
しかし、それとこれを分けて考える事はルフラムにはできなかった。
「それでも、僕は民達を放っておく事はできない」
「ふっ、なら勝手にしろ。国を作った後はお前が領主にでもなって統治すればいいさ。俺は口出ししねぇからな」
「ルフラムが領主だと! そりゃあ良い! それ最高! ローレン、たまには良い事言うじゃねぇか!」
「たまにじゃねぇよ! 俺は一言一句良い事しか言わねーの!」
「ルフラムの国! 楽しみー! シンシャも加えて!」
「僕の国……」
フーガでもない自分が国の主になるなんて、想像もした事がなかった。
しかし、うまくいけばたくさんの民達が幸せに暮らせるかもしれない。
それに、自分の様に孤独で頬を濡らす様な子が一人でも減る様ならそれはすごく良い事だ。
「わかった、僕がやろう」
「ただし、作戦は全て俺が立てる。そこは履き違えるな。お前はあくまで統治するだけ、軍事は全て俺だ」
「分かった」
話をしながら20分ほど歩いていると、豪華絢爛な城壁が見えてきた。
城の四方に謎の金色の建物があり、至る所に装飾が施してある無駄に豪勢な外観だった。
しかし、近くで見ると見た目の割には意外にも防御力は高く、堀はしっかりと掘られ、城壁は高い。
「中々にこれは苦労しそうだな」
「真っ当に攻めればな。」
「真っ当に攻めぬやり方があると?」
「あぁ、当然」
そういうと、ローレンは全員に当たりをくまなく調べる様に指示した。
ルフラムは、指示に従い当たりを見回したが、雑木林の中に小さなため池を見つけた意外にこれといって特別なものは見当たらなかった。
「ローレン、こっちは何も見つからなかった。ため池が一つあったくらいだ」
「こっちも、ため池があった。ほらほら」
シンシャが水をぷかぷかと浮かべている。
「ため池ならこっちにもあったぞ」
「こっちにもあった。この辺りはため池まみれだな」
「そういうものには裏があるんだよ。ルフラム、お前のとこのため池見せてみろ」
「分かった」
ローレンに言われるがままルフラムは、雑木林の中にある小さなため池のところまで案内した。
「ため池はそこら中にあるのに、何故ルフラムのところなんだ?」
「さぁ、我らには見えない何かが見えているのだろう」
「ふん、貴様らの頭で測れる様な主ではないわ」
「けっ、いちいちムカつく言い方しやがるぜ」
ため池に着くと、ローレンはニヤリと笑った。
「ビンゴだな、シンシャ、水持ち上げろ」
「あいあい」
水を持ち上げると、底に扉の様な鉄がハマっているのが見えた。
「あれは……隠し扉か!」
「あぁ、タビンの野郎が城から逃げた時もこういうのを使ったんだろうな。タリムの能力を使えば水の中だろうと関係なく通れるからな」
「なんでルフラムのところにあるって分かったんだ?」
「雑木林の中にため池があるのは不自然だろ。なんで木に囲まれてるところに水が溜まるんだ」
「た、確かに言われてみればそうか」
「さすが、主。細かい洞察力にも長けており、このテツゾウ感服いたしました」
「ローレンすごーい」
シンシャが水を持ち上げている間に、一同は隠し扉の中へと歩みを進めた。
中は暗く、城の豪華さとはかけ離れた一本道で、緊急用である事が伝わってくる様だった。
一本道を歩いているその時、「うぉぉ!」 という声と共にホルミに剣が振り下ろされた。
「うぉ! 敵襲だぞ!」
間一髪のところで免れたホルミは、全員に敵がいることを伝えると、皆一斉に戦闘態勢に移行した。
「こんなところに兵を忍ばせておくたぁ、これはタリムの仕業か。中々やりやがる」
「ローレン、そんな事言っている場合か!」
「主には、そんな事言っている余裕しかないのだ馬鹿が」
「おい! ルフラムをバカにするな! バカはウチだろうが!」
「そんなこと言っている場合ではない! 集中しろ!」
一本の狭い道を相手は慣れた様にするすると一斉に攻撃してくるが、ルフラム達はうまく噛み合わずホルミだけが戦っていた。
「ホルミ! 大丈夫か!」
「あぁ! このくらい余裕だ!」
「このくらいやってもらわなきゃ困る」
次々と現れる敵をバッタバッタと薙ぎ倒し、なんとかホルミの力で抜け切った。
一本道を抜けた先、そこには再び扉があり、開けると眩しい光が一同の目に飛び込んできた。
一面、金の装飾で飾られた煌びやかな空間に玉座が一つ。
その周りには武装した兵達とタリムの姿があった。
玉座の上には、目をギラギラと光らせた小太りの野獣の様な中年の男が座っていた。
「あいつがタビンか」
玉座でふんぞり返っているタビンは、憤慨した様子で奥歯をギシギシと噛み締めている。
「よう、侵略者共、ご機嫌いかがかな?」
「タビン! お前は何故民達を苦しめる!」
ルフラムは怒りに任せて叫んだ。
タビンは、貧乏ゆすりをしながら、イライラした様子でルフラム達を見下ろした。
「あ? 侵略者共が何を言い出すかと思えば、そんな事か。俺が治めている土地で俺が自由にして何が悪い! 奪われる奴らが悪いんだよ! 俺は一生奪う側だ。ラオバンは奪って大きくなった国なんだから当たり前だろうが!」
「奪う事は悪い事だ! 領主なら分け与える器量がなければならないのではないのか!」
「虫ケラ共が……! お前達は俺からあの土地を奪ったくせに、鬱陶しいこと極まりない! お前らが俺から奪おうとするなど、あってはならない! 俺は奪う側の人間だ! お前達! あいつらをやれ!」
掛け声と同時に、兵士達がルフラム達を襲う。
玉座の間は途端に乱戦になり、場が乱れ始めた。
唯一戦況を俯瞰して見ていたのは二人、タリムとローレンの二人だった。
ルフラムは、慌てて弓を番えるがやはり手が震えて上手く打つ事ができない。
他のメンバーは、ルーンの力をフル活用してあたり一面に兵士達を次々に転がしていく。
そこで、一瞬の違和感が生まれた。
時が止まった。タリムが出撃したのである。
「ぐはっ!」
「フレロ!」
タリムの一撃でフレロが床に膝をついた。
「はっ、気の速ぇ奴だぜ」
そういうと、ローレンも戦場に加わった。
ローレンは歩くだけで周囲の敵がバタバタと倒れていく。
理屈は分からないが、ルフラムから見ても明らかに次元の違う存在である事がすぐに分かる。
「さすが、最強」
ローレンはタリムの元へゆっくりと歩いていく。
最強と相手の最強カードの対決が今始まった。




