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slag  作者: 雨後の筍
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ルーンを持つ者

 ローレンは、名乗りを上げた後、ルフラム達をジロジロと眺め始めた。


「一、ニ、三……なるほどね。んで、なんだったっけ?」

「名前は、ルフラム、フレロ、ホルミ」

「……ん?」


 ローレンは、ホルミとフレロに対して、交互に視線を向け始めた。

 そして、何かに納得した様に、ルフラムに目を向けた。

 すると、即座に怪訝そうな顔をして、ルフラムの両肩をがっしりと掴んだ。


「お前……なんかおかしいな?」


 ルフラムは真剣な目をする、顔立ちの整いすぎたローレンに尻込みをしてしまった。

 あまりにもビジュアルが良すぎると、体が自然と離れたくなってしまう。


「……何か?」


 ルフラムが、その一言を発した瞬間、ローレンは「いや、大丈夫だ」と小さく呟いた後、ホルミとフレロの方に体を向けた。


「よし、お前達は合格だ。ホルミとフレロ、お前達はこっちに来い。ルフラム、お前は他の奴と同じだ。一兵士として招集したらいつでも来れる様に準備をしておいてくれ」

「えっ……」


 ルフラムは、言葉の内容を咀嚼するのに時間がかかった。

 体から熱がゆっくり奪わらていく感覚に陥る。


「おい、ちょっと待ってくれ」

「少し待ってはもらえないか」


 ホルミとフレロは、同時にローレンに待ったをかけた。


「何だ?」


 ローレンは清々しいまでの真顔で二人を見る。

 あぁ、なるほどと、何かを閃いた様な仕草を見せると、懐から紙を取り出し、何かを書き始めた。


「契約の確認だな、お前達のルーンの力を使わせてもらうんだ。それなりの報酬は用意しよう」

「ルーン!」


 思わず、ルフラムは口に出してしまった。


 フレロとホルミは、ルーンを持っていたのだ。


 小さな頃から、二人の強さが異次元な事は理解していたし薄々そうでは無いかと思っていたが、いざそうだと言われると複雑な思いがあった。

 少しでも、弱い自分が二人と並んで立てる様に、遅れを取らない様に鍛錬を重ねてきた。

 姉がいなくなり、二人がルフラムの事をキョウダイと呼んでくれる様になった日から、今日までずっと、二人についていく為に心身を鍛え上げて来た。

 しかし、そもそも埋まらない壁がそこにはあったのだ。

 ローレンの物言いだと、どうやらルフラムはルーンを持っていないらしい。

 ルフラムは、小さく唇を噛んだ。

 己の無力さが歯痒かった。


 自身には無い特殊な能力、何かは分からないが、二人はそれを持っている。

 先程のフーガというのは、ルーンを持つ者達の事をいうらしいというのも理解できた。

 そして、今ローレン達がフーガを集めているという事は、相手取るものにもフーガがいるということだ。


 超常的な能力を持つはずのフーガと一兵士として生身で戦うのは、自殺行為に等しい。

 ルフラムは、じっとりと体中に汗をかいていた。


「おいおい、違うぞ。ウチ達は、三人一緒じゃなきゃお前のとこには入らねぇ!」

「あぁ、同感だ。ルフラムが一兵士としてなら、私達も同じ立場で入ろう」


 二人は、ローレンの方を睨みつける様にそう言い放った。


「え! 二人とも……なんで……!」


 ルフラムは、驚きを隠せなかった。

 ポッと出のローレンの元であれば、大きくなりすぎた三国に比べれば、かなりの高い位を約束されるはずだ。

 二人にも、叶えたい願いがあるからここに来ている。

 ルフラムも、不合格にされたわけではないから、一兵士として運が良ければまた二人と共に道を歩める事もあるはずだ。


「は? 何言ってんだルフラム、ウチ達はお前無しで先に進む事なんか考えてねぇよ」

「あぁ、何があろうと三人は共に歩むのだ」


 ルフラムは、胸が温かくなるのを感じた。

 そんな事は二人が一番理解しているはずだったのだ。

 二人の顔がとても凛々しく見えた。

 ルフラムと目が合い優しく微笑みかける二人の笑顔を見たら、ルフラムは瞳の奥がツンと痺れる様な感覚に陥った。


「ふむ……まぁ、お前達二人を囲えるなら、ルフラム一人くらい入れてやっても良いが………」

「おいおい! なんだその言い方は!」


 ホルミがローレンにすかさず噛みついた。

 しかし、ローレンは意に介さずという具合に、淡々と続けた。


「じゃあ、ルフラムを特別待遇するとして、どんな良い事があるか言ってみな」

「ルフラムがいると力が湧く!」


 即答した割には、中身がないと思われたのか、ローレンは呆れ顔だった。


「あぁ、確かに。ルフラムと戦っていると勇気が湧いてくるな」

「はぁ……話にならん」


 ローレンは、頭を抱えている。

 しかし、それを言った当の二人は真剣そのものだった。


「アホ毛が面白いから、私は賛成」

「シンシャ、お前には聞いてねぇが……まぁ、いいか」


 艶のある髪をかきながら、ローレンはルフラムの目をじっと見た。


「お前も、俺達と一緒に来い。活躍を期待する」

「……っ! はい!」

「やったな! ルフラム!」

「当然の事よな、ルフラム」

「二人とも、本当にありがとう!」


 ルフラムは、二人の心強さにひたすら平伏していた。

 それでも、今回は二人に免じて残されただけであって、ローレンが言った通り、活躍しないとフレロとホルミと共にはいられない。

 より一層強くならねばならない。

 フーガを、自分一人でも相手取る事が出来るくらいには強くならなければいけない。


「仲良しごっこして、足手まといになる事だけはやめてくれよ」

「へっ、ウチ達は元々仲良しごっこなんてしてねーやい」

「そうかい、そうかい。ならそれを本番で見せてくれ」


 本番、という言葉に、フレロとホルミは強く反応した。

 ルフラムも、体に自然と力が入る。


「……いつあるんだ、その本番とやらは」


 フレロがいつにも増して怒気のこもった声でローレンに尋ねた。


「三日後だ」

「三日後だぁ!? そんなすぐにやれんのかよ! あいつらどうやって集めんだよ!」

「あいつら? あぁ、一般兵の奴らの事か。心配ねぇ、あいつらは今回は使わねぇ」

「え? それは一体どういう?」

「ふふっ、やっぱいいね。面白い」


 ルフラムが不思議そうな顔をしていると、シンシャの笑い声が響く。

 シンシャに笑われると、そんなに変な事を言っただろうかと、急に恥ずかしくなる。

 誤魔化す様にローレンを見ると、至って真剣な顔をしていた。


「メンバーは、お前達三人と、俺の仲間だけでやる」

「そんな! 無茶な!」


 ルフラムが口をついて叫んだ言葉に対して、誰一人として賛同する声を上げた者はいなかった。

 それどころか、ルフラム以外は真剣にローレンの話を聞く姿勢を示していた。

 兵の心配をしていたホルミでさえ、何も言わずに真剣な眼差しをローレンに向けている。

 ルフラムのこの発言なら、腹を抱えて笑っていてもおかしくないシンシャでさえも、鋭い視線をローレンに向けている。

 ルフラムには、この差がとても大きなものに思えた。

 ルーンを持つ者と持たざる者の世界の見え方の違い。

 たった数人でさえ、フーガなら相手が例え国であろうと勝利の道筋が見えてしまうものだと。

 今し方、自分達がフーガだと知ったはずのフレロとホルミでさえ、直感的に理解しているのだ。

 そんな世界に二人の温情で入れてもらえてしまったルフラムは、想像を絶する程に役立たずだという事を痛い程実感した。


「して、どこを攻める?」


 フレロが口を開いた。


「それは、まだ言えない」

「なんでだよ」


 高圧的なホルミに対して、ローレンはやれやれと言った顔をする。


「お前達が三国のスパイだったら作戦が台無しになるからだ。三日後、もう一度ここに来い。裏道を教えてやるから今日よりも楽に来れるはずだ」

「相分かった。では、今日の所は我らは帰らせていただく。その裏道とやらの案内を頼もう」

「シンシャ、連れてってやれ」

「あい」


 シンシャは、ルフラム達には目もくれずに軽やかな足取りで丘を下って行った。

 ローレンは、気がつくと再び傘の下で寝転んでいた。


 無言で丘を去った後、しばらくシンシャについて行くと、歩いた先に林が現れた。


「この目印のついた木から、真っ直ぐ三本先の木の下」


 シンシャが独り言の様に呟いた。

 木を見ると、小さな布切れが枝に結びつけてあった。

 そこから、三本先の木の地面を見ると、よく見ないと分からない様な掘り返した跡があった。

 シンシャが、そこから小さな取っ手の様なものを掘り出して、ぐいと手前に引っ張った。


「ヨイショっ!て言ってみただけ」

「ざっけんな! 真面目にやれ!」

「えへ、ごめん。って言ってみただけ」

「きちんと、謝れよ!」


 木の下から出てきたのは、隠し通路だった。

 中は暗くてどうなっているのか分からないが、手前には階段があり、奥深くに続いている様に見える。


「あ、暗いから蝋燭持ってった方が良いよ」

「そんなもん、あるわけねーだろが! 先に言えよ!」

「……今日は、足元に気をつけて歩くしかあるまい」

「この隠し通路はどこに繋がっているのですか?」

「……ふふ」

「えっ……何かおかしな事でも言いましたか?」

「そんなかしこまった話し方、しなくてもいーよ。もう私達、仲間だもん」


 シンシャは、微笑んだ。

 無邪気に笑うその姿は、どこからどう見てもどこにでもいる普通の幼気な少女だ。

 こんな少女の中に、ルーンという恐ろしい能力があるなんて夢にも思わないだろう。


「あぁ、分かった。これからよろしく、シンシャ」

「うん、がんばろーね。この通路はそのまま行けば近くの街のそばに出るから。また三日後に、これを使って来てね」

「分かった。ここまで親切にしてくれてありがとう」


 ルフラム達は、真っ暗な通路の中へと歩みを進めた。

 振り返ると、シンシャがにこりと笑いながら、その白く細い手を控えめに小さく振っていた。


 ゆっくりと隠し通路を閉じて、三人は暗闇の中へと身を投じた。

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