疑惑の念
夜が明け、二人は村を出る準備を始めた。
スズは村の人達に挨拶をしてくると言って外に駆け出していった。
ルフラムは、戦争がどうなったのか気がかりだった。
「おそらく大敗しているだろう、仲間達は……フレロとホルミは大丈夫だろうか……」
考えれば考えるほど悪い方向へと思考が落ちていってしまう。
少し顔を洗おうと、川の方へと歩き出した。
自身が流れてきた川で顔をバシャバシャと洗う。
適度な冷たさが肌に心地良かった。
「ここにいたのね! あなたが溺れてたこの川」
「気を失っていたんだ、溺れていたわけじゃないよ」
「ふふふ、そうだったわね。ところで目的のお城ってどこにあるの?」
「ヘナト平原を抜けた先にある城なんだが」
「あぁ、あの趣味の悪い城ね。あなたたちだったの? あの城作ったの」
「いや、奪ったのだ。圧政を敷いていた領主から」
「……そう、ラオバンのやり方でやったってわけね」
「あぁ、そうなるな」
ラオバンは奪う事で領土を大きくした根っからの野盗集団だが、国として成立している以上、ラシャールが名君である事は疑いようの無い事実であった。
そして、ルフラム達も同じ方法で自分達の領土を作った事を、ルフラム自身は少しだけ傷に思っていた。
もっと他の方法があったかもしれない。
しかし、ルフラムの頭では、ローレンより良い案が思い浮かばなかった。
「ローレンという人がいてな、この人が凄いんだ。頭も良いし戦闘も強い、おまけに先見の明もあるときた」
「へぇ、そんなに凄い人なのね」
「あぁ、でも戦は負けた。ラシャールが乱入してくるなんて想像もしていなかった」
「そう」
スズは小さく呟いた後、何やら唸り声を上げている。
「どうしたのだ?」
「んー、いや、そんなに完璧な人なのに、負ける事が見えないもんかなぁと思ってね」
ルフラムも、確かに思うところがあった。
撤退の指示があまりにも呆気なかったのだ。
特に慌てる様子もなく、何の気なしに撤退を命じている様に見えていた。
「……もしや、負ける事も想定に入れた配置だったのか? いや、だとしたらラシャールが乱入してくる事も予想して、僕とネオが襲われる事も作戦のうちだった……?」
「そこまで読んでてもおかしくないわね。だとしたら相当頭のキレる人物ね」
「早く戻ろう。聞きたい事が出来た」
ルフラム達は急いで旅の準備を進め、川を渡った。
そこから丸二日歩き続け、ようやくエレメンテ城へと戻ってきた。
「ルフラム! 無事であったか!」
「ルフラム! 無事で良かったぜ!」
「わー ルフラム帰ってきたー……って女の子と一緒だ!」
ホルミ、フレロ、シンシャの熱烈な歓迎を喜びつつ、今すぐにローレンの元へ行きたい欲を抑えて、みんなとの挨拶をした。
「みんなただいま、この子はスズというんだ。フーガだ、仲良くしてやってくれ」
「レン・スズと言います! よろしくお願いします!」
「おぉ、ルフラムがついに色気づいてきたぞ!」
「ルフラムがうちよりも早く相手を見つけた……だと!? このプリティーガールホルミちゃんよりも早く!?」
「プリティーガールシンシャは遊び相手増えてうれしー」
「あはは、みなさまお手柔らかにお願いします!」
シンシャがスズと遊びに外へ出かけたタイミングで、戦争についてホルミとフレロに聞いてみた。
「二人とも、あの戦争はどうなった?」
「フレッセンは大負けだ。兵力もかなり失った。あの戦はフレッセンの負け戦から、ラオバン対チャレンの様相を呈していた。そしてうちで対抗できるのはローレンのみ。だから、ラオバン対チャレン対ローレンの構図だった」
「して、結果は?」
「結果だけ見るとラオバンの勝ちだ。チャレンはラビーをローレンに殺されて指揮系統がバラバラになり、そこをラオバンが突く形になった」
「ラオバンは何を奪っていった!?」
つい声が大きくなってしまった。
周りの目がざわついているのを察知し、ルフラムは一つ小さく深呼吸をした。
「ラビーの首とネオが奪われた」
「ネオが!? 今すぐ奪還しに行かないと!」
「ローレンからの命令で奪還に人は割かないとのお達しだ」
「何故だ!」
「ルフラム!」
スズからの呼び掛けに二日前の会話がふと頭に浮かんだ。
ローレンはどこまで考えて行動しているのか。
これは直接問いたださねばならない。
ルフラムは、ローレンの元へと急いだ。
ローレンの部屋に着くと、見張りが二人立っていた。
「フレッセンのリーダールフラムだ。入れてくれ」
「…………承知しました」
見張りは、来てしまったかとでも言いたそうな顔で渋々扉を開いた。
「ローレン! ネオを今すぐ取り返しに行くぞ!」
「おいおい、こんなやかましいやつ今入れんなよ。こちとらルーン使い過ぎて動くのだりーんだよ」
「そんな事言っている場合か! 仲間が一人攫われたのだぞ!」
「あぁ、知ってるよ。それに、それ以上の数戦争で仲間が死んだ事も知ってるさ。それで? 何を言いに来た。何を言われたい?」
ローレンは何から何までお見通しといいたげだった。
「全てだ」




