叱責
ルフラムは戻った後、すぐ様報告の為ローレンの元へ行った。
タビンの使っていた部屋なのか、金の装飾が多く悪趣味な空間にローレンはゴロリと寝転がっていた。
「よー、勝ったんだってな」
言葉は穏やかだが、テンションは低い。
「なんとか、勝ったよ」
「どうだった、初めての戦争」
「恐ろしい所だった。汗は止まらないし心臓は常にうるさく、恐怖で体が震えていた。なんなら今も」
「そっか。まぁ、そんなもんよな」
ローレンは、立ち上がると付いてこいと言い部屋を後にした。
夜風が涼しく、眠れそうにないルフラムの心は少しだけ落ち着いた。
ほんの小一時間前まで、命の取り合いをしていたのだ。
そして、そこでルフラムは自身の手でトネルの左手を射た。
「トネル、逃したそうじゃねぇか」
「あぁ、あと一歩のところで逃した」
「お前が左手じゃなく、頭打ってたら逃さなかったんじゃねぇの?」
「……その通りだ」
「お前、見たよな避雷針の奴ら」
「あぁ……みた」
「もしお前が左手じゃなく頭射抜いてたら、あいつら帰って来れたかもしれねぇんだぞ? お前のよく分からん感情で、帰って来られるはずだった奴らが帰って来れなくなったんだぞ? お前、どう責任取るんだよ」
「……僕には命の責任を取れるほどのものを持っていない」
「持ってねぇならどうすんだ! 捨てでも拾いにいけよ! 変なもん捨てて、弓と心中しろよ! そんなもんかよ、お前の想いは。人一人傷つける事に怯える様なもんなのか? 姉ちゃんにあいてぇんじゃねぇのかよ!?」
全くの言う通りだった。
ぐうの音も出ないとはこの事で、言い返す言葉もないほどに正論だった。
「なぁ、お前、本当に外出られるのか?」
「出られる! 絶対に出る!」
「いや、今のお前じゃ無理だ」
やはり、言葉を返す事はできなかった。
未熟な事も覚悟が足りなかった事も重々承知していたからだった。
「もう迷わない」
「口じゃなんとでも言えるさ、態度で示してくれよ。次もまたチャレンと戦ってもらうからな」
「あぁ、任せてくれ」
その日の夜、ルフラムは眠れなかった。
何度も何度も、トネルに向けて放った一射が感覚として残っていたし、戦争の熱が体から引いていかなかった。
仲間の死は、更にそんなルフラムに追い打ちをかけた。
体は重く熱を帯び、足には何かが絡まる様な感覚に襲われた。
「ふぅ……」
夜風に当たりに外に出ると、ホルミが外にいた。
「ホルミ、眠れないのか?」
「ルフラムこそ、大丈夫か? お前にしちゃよく頑張ってたからさ」
「あぁ、少し熱が引かなくてな」
「ローレンに怒られたからか?」
「なんでそれを……」
「にしし、一国の主が、あんだけ盛大に怒られてりゃ伝わるもんさ」
イタズラっぽく笑うホルミに、ルフラムは頭をかくことしか出来なかった。
「でも、いいんじゃねぇか? ルフラムはルフラムだし、今すぐ変わるなんて事はできないんだし、ウチはそんな優しいルフラムだから良いと思う事もあるぜ」
「ありがとうホルミ」
優しい、というホルミの言い回しに救われた。
そして、ルフラムは考えた。
もし、今日の戦争で失っていたのがホルミだったら。
見ず知らずの者達だけでなく、見知った顔だったら。
散って行った者達を思う気持ちは止まなかったが、そんな事を考えた時にルフラムは強く覚悟を決めた。
もう仲間は失いたくない。
もう自分の手から溢してしまいたくない。
「ホルミ、ありがとう。僕は本当の意味で覚悟が足りなかった。今、覚悟が出来た気がするよ」
「そうか、まぁ、どんな形であれウチはルフラムの味方だからな。義兄妹なんだ。なんでも頼れよ」
「あぁ、分かった。ありがとう」
闇夜の中で空に小さな点がいくつも光って輝いていた。
普段何気なく見ているそんな景色でさえ、愛おしいと思える様な気がした。
「そろそろ寝ようか」
「あぁ、おやすみルフラム」
「おやすみ、ホルミ」
そして迎えた次の日の朝、急報が届き世界は一変する。
「たいへんですだ! チャレンが……! チャレンが大軍でこっちに向かってますだ!」
「なんだって!」
「しかも、セレンさんの情報によると、大将はラビー! 国のトップですだ! あー! なんてこっただ!」
「はやくローレンの元へいこう」
朝一番に、ローレンの元へと皆が駆けつけた。
ざわざわとした雰囲気の中、ローレンはいつも通りの体勢で寝転んでいる。
「よー、みんな集まったなー、ルフラムー仕切ってくれ」
「皆、よく聞いてくれ、今チャレンのトップであるラビーがこちらに向かっているとの情報が入った。これから作戦会議をする」
その場にいたセレン以外の全員がルフラムに膝をついた。
「して、どうするのです? 相手はあのドウレウス・ラビー、ドウのルーンを操る最強軍団を導くトップです」
セレンが冷静に言い放った。
「もちろんウチも全軍で突撃だ。俺も出る。配置も俺が決める」
「了解した」
「まず左翼はルフラム、ネオ中央後方に俺とシンシャ、中央前方にフレロ、ホルミ、セレン、そして右翼はテツゾウこの布陣で行く。各々千五百で俺の後方部隊は残りでいく」
「はっ!」
全員が返事をした後、一斉に準備へと取り掛かった。
ルフラムは服を着替え、弓を取り肩にかけた。
矢はいつもより重く、長く感じた。
それでもやるしかない。
仲間を守る為には相手を倒すしかないのだ。
「さぁ、行こう」
ルフラムは、部屋を勢いよく飛び出して駆け出した。




