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電車編1

「よっしゃー逃げ切った!!」

 電車が動き出し、風景が徐々に移り変わっていく。

 やがて少しずつ興奮から落ち着いてきた。この解放感たまらない。あーなんと不安であったことか!1時間もトイレに籠ってしまった。迷惑をかけてしまったが生き抜いた!!電車が動いてしまえば、もういいよな。あぁ良かった。とりあえず、まだ一人は怖いから誰か相席してくれそうな人はいないかなー。

「あのすいません。良ければ相席してもいいですか。まだFランクの冒険者なもので、いろいろ教えていただきたいのですが。」

 ボックス席に座っている、話しかけやすそうな三人組、男1人女2人にとりあえず声をかけてみた。

「どうするー。イリスー?」(女1)

 おっとりとした女の子が反応してくれた。長髪のかわいらしい顔立ちだ。向かいのイリス?に話しかけた。

「かまいません。アルスもいい?」(女2)

 きりっとした顔立ちのキレイ系な女の子が隣の男の子に話しかけた。

「ああ」

 アルスと言われた男の子は不愛想なようだ。

「ありがとうございます。」

 空いているアルス?の向かいに座り感謝を伝えた。

「みなさんは冒険者になって長いのですか?先ほども話した通り、昨日冒険者になったばかりなものでして、いろいろ教えていただければと思うのですが」

「あたしは、ミレナだよー。それよりもー、Fランクで国替えとかどうしたのー。なにかあったのー?」

「ちょっと!いきなり失礼ではないですか……ミレナ。遅れましたが、私はイリスです。よろしくお願いします」

 ミレナさんとイリスさんだな。しかしどうしようか。名を名乗るべきか。いや、電車には乗ったものの邪の国にまだ着いていない状況で、大丈夫だろうか。指名手配……少なくとも情報提供対象になっていた場合、危険が伴うな……。

「俺はモブAって名乗っています。ちょっとごたごたに巻き込まれて逃げてきたもので……」

「うーん。もしかしてあれかなー。朝から聖ギルドの人がやたらマルって男を探してたけどー」

 今のやり取りでミレナさんは疑念を抱いたようだ。聖ギルドも大々的に探していたようだな。困った……。

「私も朝聞かれました。恩返ししたいって」

 イリスさんも心当たりがあるようだ……。

「あはは、俺……どうかされちゃいます?」

 苦笑いを浮かべるしかない。

「あはは、しないしないー。懸賞金とかまでは出てなかったからー、安心していいんじゃないかなー」

 はぁ安心した。捕まったらどうしようかと思ったけど大丈夫そうだ。にしても、指名手配もされてはいないようだ。

「良かったー。昨日から落ち着かなくてやっとひと息つけます。」

「2択かなー!?。聖ギルドにケチをつけたかー。聖属性が高くて勧誘を無下にしたかー」

「違います違います。勧誘されましたが、丁寧にお断りしました。でも、勧誘してきたのがトップの方で、その後も尾行されたり、挙げ句に今日は知り合いでもないのに人探しみたいなことされたり。案内人から聖ギルドには悪い噂もあるって聞いていて、怖くて怖くて。隠れてようやく聖国を脱出できたところなんです」

「大変でしたね。確かに聖ギルドは勢力を拡大中のようですが。まぁ最悪の想定では軟禁して洗脳するくらいですね」

「脅かしすぎだ」

 イリスの話をアルス?がフォローしてくれた。案外物静かなだけでいいやつなのか。

「そう?拘束くらいは余裕で行っていたでしょう。冒険者なんて選択肢はなくなっていたでしょう」

 やっぱり物騒なギルドだな。逃げ出してよかった。

「あとは邪の国に無事につければ、一安心ってところです。」

「邪の国ですか。どのような国かご存知ですか」

「聖ギルドがなく、ヒーラーが少なくて冒険者も少ないと聞いています」

「妥当なとこだねー。付け加えるなら、成功者が多く娯楽、カジノの街かなー。あーでも私設ガチャがあるからお金に余裕があるならありかもー」

 新情報だ。カジノの街なのか。それよりも気になる情報が出たな。

「私設ガチャってなんです?」

「成功者が娯楽で作ったガチャポンだよー。年に1回しか引けないんだけどねー。値段以下のものはなし。けど、武器、防具から食材、更には商売道具などの値段以上の不用品をガチャに入れてるのー。更に面白いのが、ガチャには手紙が入っていてねー。例えば、装備した姿を見せに来いーとか、食材で最高の料理を作ってくれーとか書いてあるのー。まぁ強制力はないけど、普段は入れない上層に入れて、依頼者とのコネクションは作れるから意外と人気はあるのよねー」

「私は重装備が当たって不要だったけど、冒険者とトレードして結果は得だったわね」

 なるほど。ランダムなガチャポンか。一発逆転もありえるのかな。イリスも得になったという話だしな。

「何$なんですか?」

「10,000$なの。ものがいいのはわかるけど高いのよねー」

 10,000$は高いのか。物価がまだわかっていないんだよな。友達紹介キャンペーンは10,000$だったから、だいぶお得だったんだな。電車代に今後の生活も考えるとな……。せっかく上がった気分が沈んだ。

「しばらくは引けそうにありません。」

「でもー冒険者成りたてにしては、電車にも乗れるし不思議よねー」

「案内人制度を運良く利用できたので」

 いやー本当に運が良かった。脱出も無事できたし幸先がいいな。下がっていた気分がまた上昇した。

「なるほどねー、ラッキーだったのか、どんくさかったのかー」

 ミレナさんの顔が、可哀そうなものを見る目でみてくる。

「どんくさいってどういう意味ですか」

「きっと街の真ん中でぼーっとしてたんでしょう」

 うっ。バレてる。

「異世界に突然来て、すぐには動けませんよ」

「私なんかはすぐにいろいろ回ったからー、案内人制度なんて気付く暇もなかったよー」

「そういえば教えてほしいんですが。やっぱり冒険者の最初は野菜を討伐して少しずつ装備を整える流れですか」

 ディアスに聞くことが出来なかった冒険者について聞くことにした。

「そうねー。少しずつ資金貯めて武器と防具貯めつつ、初心者の門で訓練って感じねー」

「初心者の門ってなんですか」

 冒険者ギルドの受付の方も言っていたな。初心者の門。

「お前本当に何も知らないんだな」

 アルスが呆れた目で見ていた。

「こら失礼でしょ」

「いいんです。ほんとその通りで」

 逃亡するのに精いっぱいで他のことなんて考えれなかったんだよな。

「初心者の門は一番始めに通うダンジョンだよー。計5階層+ボスがいて、一階層ごとにレベルアップ上限が2までで、つまり最大レベル10までのダンジョンだよー。またねーボスを撃破すると、必ずレア宝箱が出現するのー。このレア宝箱は初回撃破のみの報酬なのー。一応、複数人での攻略も出来るけどー、宝箱は一つのみ。だから、レベルをひとつづつあげて、自分の特性を確かめ踏破を目指すのー。宝箱で良いものが当たればその後の冒険も安泰だねー。外れたら血反吐を吐く地獄が待っているけど……」

 3人の顔をみるが変化がない。本当のようだ。

「まじですか……」

 運次第で今後の冒険者活動が楽になるのか決まるのか。

「まぁ半分は冗談ですよ。宝箱であたらなくてもどうにかなります。アルスなんて、うんまいぼう10年分でしたから」

「まあな」

 3人は互いに笑いあっていた。仲の良いPTなんだな。

「初心者の門の道中はすべてスケルトン。ボスが熊となっていて。基礎的な動きは道中で体験できるから、ごりおさず道中を勧めたほうがいいわ。とくに魔法の才能がなければ、片手剣に盾が無難ね」

「邪の才能があったんですが、魔法師としてやっていけますか?」

 一番気になっていたことだ。

「純粋な魔法師は難しいわね。バフ、デバフ職だからMP管理が大変だし。ダンジョンの道中で使ってるといざってときにmpがないってこともあり得るから、MP回復の指輪とか手に入れない限りは難しいわ」

「そうなんですか。てっきりアンデットとか召喚する魔法かとおもってました」

 なんだネクロマンサーじゃないのか。なんで邪なんてついたのだろう。それにしても……バフ、デバフ職か。

「だから邪って名前だけど、悪いイメージは本来ない。だけど聖ギルドが嫌っていて、冒険者ギルドが発展していないわ」

「そうでしたか、なんかいろいろ教えて頂きますありがとうございました。本当に昨日から不安で不安で……」

 安心して眠くなってきた。まだ聞きたいことが……たくさん……あったのに……。



「モブAー!!起きてー!私達、火の国で降りるからここまでなのー。邪の国はこの次だからねー。じゃまた何処かで会おうねー」

「私達は、クラウネスってグループで活動してるから。また何処かで」

「またな」

「いつのまにか寝ててすいません。ありがとうございました。」

 すっかり寝てしまい、相席したのに失礼なことをしてしまった。

 でも気にした様子はなかったので安心出来た。

 あと1国か。

 なんかあっという間だったな。いきなり異世界に来て、過去との整理もまだ出来ずにいる。

 死んだんだよな。痛くて死にたくて死にたくてやっと死ねたのに、記憶を持って転生して。

 耐えられなくて妻に早く死にたいと言ってしまったけど、どう思ったのかな。辛いね大変だねって声をかけてくれて、頑張れなんて一言も言わなくて、いつも笑顔をみせてくれて……看病も大変だったと思うのに……。wifiのつなぎ方もわからないくらい機械音痴なのに……。娘もまだ3才。俺がいなくてもちゃんと生活出来てるのかな……。考えても仕方ないのに。最後には妻になんて事を言ってしまったんだ。前世を思い出すと後悔しか浮かばない。はぁ。

「そこのお兄さん。なにかあったのかい。良ければ話してみてはどうかな」

 新しい乗客だろうか。一人の俺が珍しかったのか。はたまた同じく一人で寂しかったのか。

 なぜかわからないが、俺は見知らぬお爺さんに前世での行いや後悔を話してした。

「私も昔は妻を忘れられず、妻も転生するんじゃないかと長い時をかけ探したものさ。でも結局見つけられなかった。思いが足りなかったのか、相手の思いがそこまでではなかったのか、それともそもそもそんな運命なんてなかったのか。いまでもわからないが、わしもようやく気付いたことがある。妻も現実を頑張って生きただろうし、また儂という思い出を心に留めて生きたんじゃないかって。勝手な推測だが、儂の妻なら強く生きたと思うんじゃ。だから儂も、過去は大切な思い出として今を生きないと笑われてしまうとようやく考えられるようになった。まぁ気付くまでに年老いてしまったがな。だから、お兄さんも心配なのはわかるが、妻を娘を信じてあげなさい。そのうえでお兄さんも今を必死に生きなさい。儂からのアドバイスはこれくらいじゃ。お邪魔しましたな。」

「いえ……とんでもありません……ありがとうございます……」

 ああ。異世界に来て、周りの環境に慣れるので手いっぱいで、こうして時間ができると前世での後悔が溢れてきて……。

 でも、あの見知らぬお爺さんのお陰で、少し心が楽になった。有難い。本当に有難い。

 感謝をしながらお爺さんの後ろ姿を見送った。


「間もなく終点の邪の国です。お忘れないようお気をつけください」

 電車のアナウンスが鳴った。

 ようやく邪の国につくようだ。

 おじいさんと別れてから、ずっと考えていたようだ。まだ、自分の中で整理は出来ていないがそれでもこの異世界を楽しもうと思う。

「よし、冒険者頑張るぞ!!」

 ここからようやく俺の冒険が始まる!!

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