脱出篇1
「よっ異世界人かい!?」
あたりを見渡してみても自分しか近くにおらず、ラフな服装の男はおそらく話しかけてきているのだろう。だが、どうしても今のこの状況が理解できず、返事が出来ないでいた。あまりにも変わりすぎたから。
♢
「晃さん。検査の時間ですよ」
病院に入院している俺をいつもの看護師が手慣れた様子で俺を検査へと連れ出そうとするが、病気の痛みに加え検査の苦痛を考えると、動きたくない。
「あきくん。検査の時間だよ。頑張ろうね」
動かない俺を見かねて、妻の真由美が体を動かそうとする。いつも妻には迷惑をかけているため、頑張って動こうとするが痛みでなかなか立ち上がれない。
看護師のサポートを受けようやく歩き出したが、妻に一言もかけられなかった。行ってくるよとでも言えれば妻も安心するのだろうが、もう限界を超えていた。
ゆっくりと歩きながらも昨日の事を思い出した。
妻はいつもそばにいてくれた。余命宣告をされて入院をしてから。いったいいつ子供の世話をしているのだろう。夜も傷みが激しいときには、妻が声をかけてくれる。そんな妻に俺が言うことは「はやく死にたい」と願いを込めるのみだった。
もう少し前はまだ妻を気遣うことが出来ていたと思う。妻の生活のことや子供のこと、少しでも長く側にいてくれようとする思いに感謝出来ていたと思う。けれど、限界が来てしまった。妻や子供に会うより死にたいと思ってしまった。もう何日も病気の痛みに耐え、検査の苦痛にも耐え、好きだった食事も味がしない。妻が何度も、今日はあきくんが好きだった〇〇を買ってきたよ、と食べさせてくれるが全ては同じ。言葉を発するのも痛みを伴うが最後だと勝手に思い、妻と子供に感謝を伝えた。そして最後に、はやく死にたい、と伝えた。妻はどんな思いだっただろうか。でももう限界は過ぎた。はやくこの苦痛から解放されたい。
数日後、俺はようやく死んだ。
♢
「次は君か。こっちに来たまえ」
ひさしぶりの言葉に意識が覚醒した。ここがどこなのか考えるよりも言葉に意識が集中した。
「あー余命33歳で病死と……。転生するには君の魂はあと1回が限界かの。どうじゃ、最後に今話題の異世界に行ってみないか?いいぞ異世界。若者は剣と魔法のファンタジーに憧れがあるじゃろ」
この人は何を言っているのだろうか。
「察しが悪いのう。君の魂は輪廻転生をもう繰り返すほど状態が良くない。本来であれば次の人生は更に厳しいものになるだろう。だから、若者に人気の剣と魔法のファンタジー世界に送ってやろうと話しているのじゃ。それでいいか?いいじゃろ!?返事をせい」
「はい」
「15歳くらいからでいいか」
「はい」
「では旅立つが良い」
あれ、どうしよう。勢いに押されイエスマンとなってしまった。と思っている間に、世界が暗転。格式ある町並みに俺は立っていた。
♢
「おーい。聞こえているか異世界人?」
聞こえてはいる。ただ、この状況が全く理解出来ないわけだが……。無視するわけにもいかないし、気になることもあるな。
「すいません。ぼーっとしていました。聞こえています。あの……異世界人というのは、よくある話なのですか?」
剣と魔法のファンタジーに異世界転生したのは神様?から聞いてはいたが、俺がよく知っている異世界転生ものは、転生は最初からバレはしないし、大体は後々実は転生したんだ……とか転生自体を隠しながら悩むのが王道だと思っているため困惑しながら尋ねる。
「あーそうだよな……異世界転生っていったら生まれ持ったチートでやりたい放題がメジャーだよな!でも残念!異世界人で溢れた世界だからモブと変わらないよ!」
この男は、気持ちはわかるとでもいうように笑いながら話している。
気持ちはわかると言われても、まずファンタジーらしからぬ現代的な街並みも気になるし、まずここはどこなのかなど気になることが多すぎる。
「俺はディアス。俺も異世界人で、この世界にきてから自分で付けた名前だ。どうだ……よかったら、この世界について案内をさせてくれないか。案内をするとソシャゲって通じるか?ゲームの友達紹介キャンペーンみたいにおいしい特典が貰えるし、それ抜きにしてもこの世界は異質だと思ってるから良ければ案内をしたいのだが?」
提案はとても有り難いのだが考えることが多すぎる。そもそも名前も自分でつけなければならないのか。まるでゲームだな。異世界に転生している時点でゲームなのか。昔にゲームをしたことがあるが、その時も主人公の名前はよく考えてつけていたな。弓使いで世界を救ったな……。遥か昔を思い出したが、考え事をしていては失礼か。
「あー名前は晃だったんだが、せっかくだからちゃんと考えたい。とりあえずモブAと呼んでくれ。それと是非案内を受けさせてくれ」
右手を差し出すと、しっかり握手をしてくれた。すこし気恥ずかしかった。
「それにしてもモブAって……もうそれでいいんじゃないか」
ディアスは冗談を交えて言ってくれた。
「キャラ立ちしないだろ」
とりあえずボケを潰されず一安心した。
「まぁ、ある程度案内をしたら、冒険者ギルド。まぁ役所みたいなところに連れて行くからそれまでに名前決めときなよ。モブA」
ディアスは笑顔のまま答え、思いの外、モブAという呼び名に抵抗がないようで良かった。まぁ、申し訳ないが絶対にいい名前を決めてやると心に誓った。
それからディアスから簡単にこの世界について歩きながら聞いた。
今いる場所は聖の国で、他には火、水、雷、風、邪の国があること。都市は上層、中層、下層に分かれており大多数は中層、犯罪者や一部の者は下層。権力者や富豪は上層とのこと。各国は六角形に位置しており電車も通っている。ただ、冒険者をするなら聖の国が、ヒーラーが多く冒険しやすいこと。
この世界にはステータス表示はなく、レベルアップの都度自分で変化を確かめ、どのステータスが上がったのか確認作業をするのが習わしであること。またステータス自体もランダム要素があり、才能とは一致しないこと。一部の人間は特殊能力の【ギフト】があること。さらにステータスの種類もすべて把握出来ておらず、変化に気付けないこともあるらしい。そして、一番大切な事は、最弱の野菜の魔物を日々倒せば最低限の生活は成り立つため、無理に冒険をする必要はないこと。
「よし、この建物が1番お世話になる冒険者ギルド。別名、役所だ。ハローワークとか言うなよ!職員の機嫌が悪くなるからな!」
ディアスは笑いながら、からかって話していたが、ハローワークか。いい得て妙だなとつられて笑ってしまった。それにしても、冒険者ギルドといったら勝手にウェスタンスタイルの木のドアを想像していたが、自動ドアである。ほんと異世界に来た感触がないな。
「なぁディアス。冒険者ギルドでは何をするんだ?」
「あぁ、個人登録と魔力測定だな。個人登録はSSNとかマイナンバーみたいに個々人に割り振られる。登録後はこの手首にあるタグネス(タグ有りの腕輪)が配られる。預金口座も連動してるし支払いもできる。一部に限るが収納袋を兼ね備えているし、既婚と未婚で色が変わるぞ。婚活し易い仕様だ。ちなみに俺はシルバーだから彼女募集中だ。」
今更だが、ディアスは気さくな男だなと感じつつも、彼女募集の件は無視をして話しを進める。
「タグネスだったか。多機能な割に既婚で色が変わるとか不思議だな。」
というより、現金がない社会とか異世界が進みすぎてはないか。生きてたときでもキャッシュレスは半々ぐらいだったのに。しかも収納袋とか異世界無双の定番が冒険者ギルドで貰えるってほんと異世界進みすぎでは。
「おいおい!無視かよ。こんないい男が彼女いないってのに。まぁいい。最後に忠告だが、魔力測定で聖属性が2以上でた場合、聖者ギルドに入れる権利を得るが、実態は飼い殺しだから安易に入るとか言わないほうがいいぞ。衣食住で困ることが無くなる代わりに、自由も失くすようなもんだからな」
ディアスは辺りを見回してから小声で話してくれた。あまり周りに聞かれたくない話しだったんだろう。わざわざ忠告してくれるなんて感謝だな。
「じゃとりあえず登録とかしてきな。適当な椅子で待ってるから終わったら声かけろよー!あと、俺が案内したこともちゃんと言うんだぞー」
「ありがとう。行って来るよ!」
なんだかようやく異世界に来た感覚を受けながら冒険者ギルドのドアをくぐる。周りを見渡すと緊急依頼の張り紙や待合室、パソコン?、仕切りのついたブースと総合案内があるが、まるでハロワにしか思えない。きっとパソコンに求人情報がたくさん掲載されていると思うと異世界感が薄れ面白くなってくるな。
一通りぐるりと室内を確認してから総合案内の女性へ声をかける。
「新規で冒険者の登録をしたいのですが」
「では、こちらの書類に名前を書いてください」
「申し訳ない。異世界から来たばかりでわからないのですが、ファミリーネームは必要になりますか」
「独身の方は不要ですよ。結婚した際決めることになりますのでー」
さて、名前だがどうしようか。複数考えてはいたが、異世界人が溢れている中で歴史やゲーム知識等から持ってくるのも恥ずかしいしな。
「ちなみによくある名前とかありますか」
受付の方は顎に手を当て、考えてくれた。
「最近ではキリトという名前が多いですが、時代によるとしか言えませんね。アルスが流行った時期もありましたし、どの時代からくるかによりますね。ただ圧倒的に日本という国からの方が多いですね」
「ありがとうございます。」
うーん、ゲームをしていた時の名前でもいいのだが、この世界で使うなら中二病と思われたくないな。まあ略名でよく呼ばれていたから略名でいこう。
名前欄に、マルと記入した。
「ご記入ありがとうございます。続きまして魔力測定に移りますがよろしいですか」
この受付をしてくたさる方は、すごく丁寧だ。こちらも丁寧に対応しなければいけないな。
「申し訳ない。魔力について簡単に説明していただけませんか」
「かしこまりました。各国からわかるように、邪、雷、聖、風、水、火の6属性が魔力にはあります。また使用出来る魔力にもランクがあり、最低限のランク1、才能有りのランク2、天才のランク3に分かれており、ランク2以上が魔法師として最低限のラインとなっています。なお、ランク1は必ずあるため日常生活の魔法で困ることはありません。ランクについては口外される方も、しない方もそれぞれいらっしゃいますね。以上簡略な説明とさせて頂きますがなにか質問はありますか」
「いえありがとうございます」
「では別室へと移りますのでどうぞこちらへ」
受付の方のあとに続き部屋へと入ると、椅子と机がある。机には紙と針と小さな火があるのみだ。水晶玉みたいのを想像していたがどうやら違うようだ。
「では説明致します。机の上に針がありますので、指等に刺し血を1滴、紙の真ん中、つまり円の中央に垂らしてください。三重の円が書かれておりますが、内円から順にランク1、次の円に伸びるとランク2、外周円まで達するとランク3となります。また上から時計回りに邪、雷、聖、風、水、火となっております。ご確認後、机の上にありますろうそくの火で紙を燃やし退出ください。では、私は先に退出しておりますので」
血を垂らすとか、また古めかしいファンタジーだな。最新なのか古いのか。混在しているからファンタジーなのか。とはいえ、この結果で今後の冒険者活動がどうなるか決まるかと思うと緊張するな。やっぱり魔法使いって憧れがあるよな。なるべくなら遠距離で安全に戦いたいし。
よしいっちょやるか。針を右手にもち左手の人差し指に刺し、紙に血を垂らす。すると血が紙に滲み、赤黒く6方向に伸びていく。ランク1の円まではもうすぐ達するがここからが本番だ。伸びてくれという祈りが通じたのか12時と4時に、さらに伸びていく。2属性来たーー!!ダブル魔法使い!!これってチートなのか。異世界チートなのか。神様ありがとう!!と、立ち上がり感動に打ちひしがれていたら4時方向には外周に到達していた。言葉が出ない。天才の域に達しているとは。膝が震え、倒れそうになるのをなんとか机を支えにしがみつき紙を見つめる。しばらく感動に包まれていたが、大事なことを確認しよう。何属性だ?
「えーと、邪、雷、聖、風、水、火だろ。だから、邪が2で聖が3か。聖って回復魔法だったよな。まずはヒーラー。邪ってなに?ネクロマンサー?」
えっ?傷を癒やし、仲間が死んでも死体として使役するやべー奴!?ないないない。いてたまるか。何だよ邪って。他の属性はわかりやすいのに邪って。
いずれにしても、戦闘魔法職にはなれなさそう。邪はわからないけどいっそ回復タンクとか。いや遠距離希望だったよ。ちょっとこの興奮を返してほしい。
悲しみを感じながら紙を燃やし、別室を出た。
「魔法がすべてではないので気を落とさないでくださいね」
受付嬢さんが慰めてくれた。よほど悲壮感が出ていたのだろうか。恥ずかしい。
「ではタグネスをつけるので左手を出してください」
左手を差し出すと手慣れた動作でシルバーのタグネスをつけて貰った。ふと、受付の方を見ると、右手のタグネスはピンクゴールドだったよ。既婚者ってことだな。なるほど。こういう風に区別されるのかと感心した。
「では最後に、クエスト依頼はパソコンから受けられます。マルさんはFランクからのスタートですが、受注自体はどのランクでも可能です。しかし、未達成の場合はペナルティが大きいので注意してください。また食材系のクエストを受けていれば生活は出来ますので、最初は食材系のクエストを受けてそのうち初心者の門に挑むのが良いと思います。また異世界転生とのことですので、現在のレベルも不明なためご注意ください。施設内の身体測定は24時間開放されておりますのでご自由にお使いください。あっ忘れておりました。案内人と一緒に冒険者ギルドへいらしゃっていた場合、再度一緒にこちらへおこしください。では良い冒険を。」
いぞがしいのか最後は早口で終えられてしまった。初心者の門ってなんだろう。まぁあとで調べるか。ええとディアスさんはどこかな。
「そこのマル殿。少しよろしいか。」
えっ、誰です?名前もさっき決めたばかりなんですけど怖っ。冷静を装いつつ、相手を見る。小奇麗な身なりの老人だな。
「ええと何でしょうか」
「マル殿は聖ギルドを知っておいでですか」
「なんとなくは知っております」
ディアスが警告してくれていたギルドの名前だ。いったいなんの用だ。
「おおそうでしたか。我々は各国に拠点をもち、傷ついた冒険者の方を癒やすことを仕事として行っております。勝手で申し訳ないございませんが、鑑定のギフトで魔力判定を見させていただきました。才能がおありのマル殿に、是非聖ギルドに入会してはいただけないでしようか?」
入ったら最後自由がないギルドか。鑑定されたってことは魔力測定の結果も筒抜けで声をかけられたのか。厄介だな。なんと断ろうか。
「申し訳ない。まだ冒険者として始まったばかりであり、もうしばらくは自分の力を試してみたいと思います」
「そうですか。本当に残念です。私はラディアスと申しますので、聖ギルドに入会の際には私の名前をお出しください。」
「ご丁寧にありがとうございます。」
白髪の老紳士ラディアスを見送り、ようやくひと息つけた。怖かったー。魔力測定してすぐ勧誘とか怖っ。しかも勝手に鑑定までしてるし。冒険者ギルドに鑑定員でも配置してるのか。力の入れよう半端ないな。
まぁいいや。ディアスはどこだ?あ、いたいた。
「ディアス終わったよ」
「おう。お疲れ様。さっきのおじさん何だったんだ?初心者にわざわざ話しかける人なんて初めてみたぜ。」
「あー、ディアスの名前にラをつけた紳士だったよ。早速聖ギルドの勧誘にあった。」
「もしかしてラディアス!?聖ギルドのトップかよ!?」
ディアスはとても驚いていた。
それ以上にこっちが驚愕だよ。そんな大物が冒険者ギルドにいることが。
「本当!?トップがわざわざ新人を見定めにくるのか?鑑定もちって言ってたけど。聖ギルド人材難なの!?」
「あーいい話だけではないのは確かだな。」
ディアスは同情したように顔を向けてきた。
まぁとりあえず終わった話しだ。気にしないでおこう。
「それより、一緒に受付へ来てくれ。」
「おっ待ってました」
「?」
「ソシャゲの友達紹介キャンペーンだよ。」
「ああ」
忘れていた。急にこの世界がチープに感じてしまい笑ってしまった。
まぁいいや。キャンペーンを受け取りに行くか。二人で再度冒険者ギルドの受付へと歩く。
「受付さん。こちらのディアスさんが案内人です」
「かしこまりました。では御二方タグネスをお出しください。」
右腕を差し出すと、機械を双方のタグネスにかざしてすぐ終わった。
「マルさん。お金のご利用は計画的にですからね」
受付の方がご丁寧にも忠告をしてくれた。とても親切だ。
「よっしゃ。じゃあ今度は街を案内してやるよ。やることないならついてきな」
返事を返す前にディアスは既に、出口へ向かっていた。駆け足でディアスの跡をついていく。
武器屋や道具屋の案内をうけ、なんとなくであるが町について知ることが出来た。
「周りの店を見ながら聞け。冒険者ギルドをでてから2人組につけられてる。なんかしたか?」
ディアスが案内をしながら、少し警戒をして声をかけてくれた。
「聖ギルド断ったくらいだけど……他の人に言わないでほしいんだが聖がクラス3だったんだよ。」
「あちゃー監禁コースもあり得るかもな。流石にクラス3をほっとかないわ。ましてや、聖ギルドトップが診たんならなおさら。とりあえず。一緒にいる間は襲われないと思うから、ひと目の多いとこを中心に移動するぞ」
監禁と聞いて背筋に冷たいものが走ったが、ディアスの頼もしさから冷静をすぐに取り戻せた。まだこの世界になれていないため、頼りにさせてもらおう。
「すまん。迷惑をかけるが頼む」
「運良く明日が都市間電車の日だから、国を移動するべきだな。できれば聖の支部がない邪の国がベストだが、ヒーラーが極端に少ないまちだから冒険者としては厳しくなるな」
「仕方ない。なんとかなるさ」
国の移動か。せっかく街の案内を受けたのに無駄になってしまった。それに冒険者としてもっといろいろなことを教えて欲しかった。それにしても邪の国か。邪に縁があるのかもしれないな。
「電車は、えーと12時発だな。見た目変えて宿屋を10時過ぎに出て、あとは電車の出発まで見つからなきゃミッションコンプリートってわけだ。てなわけで今夜は俺と泊まるぞ。あとは散髪道具や変色に服か。なんか暗躍するみたいでワクワクしてくるな」
いや監禁されるかの瀬戸際を楽しまれるのも、少し複雑だな。でも頼りになる。
「迷惑に感じてないなら、良かったよ。改めてよろしく頼むよ」
「任せとけ」
「それにしても監視されているなんてよく分かりますね?」
「これでももうすぐランクBの冒険者だからな。狙われてる感覚は自然とわかるんだ」
もうすぐBランクってことは、結構ランクが高いんだな。頼りがいが増した。
「安心感が増したよ。ありがとう」
こうして、聖国脱出へ向け動き出した。
「よし今日はここに泊まるぞ。酒場兼宿屋だ。質もいい。けれど値段もそれなりだな。まぁ今日儲けた分で奢ってやるよ」
ディアスは機嫌がよさそうだ。兄貴肌なのかな。
「いつ儲けたの?」
「案内人の仕事だよ。あれ割がいいんだよ。マルにも入ってるから今後大事に使えよ」
「タグネスで預金額ってどうやってみるの?」
「入金か出金時にしかみえないから、次から気をつけるこった。マルにも10,000$は入ってるはずだぜ。」
「あれ、途中の買い物分は?」
「対した額じゃないから気にするな」
ディアスは左手を上げ適当に振った。本当にたいした事がなさそうだ。後ろ姿を追い、宿屋へ入った。
「2人部屋ツイン。夜朝飯付きで頼む。」
「1人 1,200$になります」
ディアスがタグネスを出し支払う。
「では2階5号室です」
「一旦部屋行くぞ」
「まずは作戦会議だ。明日電車に乗ることは決定でいいか?」
「よろしく頼む」
「よし。今日は飯を食ったら酔いつぶれたふりをしろ。俺が介抱して2階へ運ぶ。翌日遅めに起きて飯を食う。一度部屋に戻りすぐ散髪、染色、着替えて裏口から移動しろ。俺はその間、宿屋の外でマルを待ってるふりをしてひきつけておくつもりだ。相手はおそらく一人のときに襲いにくるだろうから明日宿をでてわかれるまでは手を出さないと思う。裏口から出た後はもう手助けを出来ない。出発の時間まで見つからないように逃げきる。相手もいきなり出国するとは思わないはずだ。これが俺の計画だが、なにか不足はあるか?」
「ディアスの散髪技術が心配なくらいだ」
「ちげーねー。じゃ腹も減ったし飯食いに行くぞ」
二人で大笑いし、一階の酒場へ向かった。
「この世界では、この料理が普通なのか?」
「このハンバーガーか。最近の流行りだな。どの店もデカくボリューミーかつ彩りも添えて凝ってるぞ」
死ぬ前の世界では、ハンバーガーピックを刺した同じようにでかいハンバーガーが映えると人気だったな。しかもこれは大食いチャレンジレベルの大きさだ。
「食い切れる気がしないんだが……」
「この世界では、食事=継続回復も兼ねてるから食べ始めれば余裕だろうよ」
「そういうものか」
「信じられん。あんなデカ盛りが余裕だ。」
「よしもう1ついくか。よーし酒もどんどん飲めよ」
食事をとりながら、ディアスのどや顔冒険譚を聞くのであった。ある程度の時間が過ぎたことを確認し酔いつぶれたふりへと移行する。
「たく。どんだけ酒に弱いだよ。おーい起きろ!だめだこりゃ。おやじご馳走様。」
ディアスが俺を背負って、部屋まで運んでくれた。
翌朝
「おやじ。すまねー。寝坊した。すぐでていくからもう少し待っていてくれ」
「あいよー」
「朝は普通のサンドイッチか。助かる」
サンドイッチは食べやすくていい。しかも好物のBLT。浮かれてしまった。
「いいから食え。ここからが時間との勝負だぞ。おやじには事前に話してるから、あとで裏口使わせて貰え。」
適当な世間話をして時間を過ごした。
「よし部屋戻るぞ」
「さあてどんな髪型にしようか。最近流行りのツーブロックマッシュ風にしてやるよ」
「おい、本当に出来るのか?整える程度でいいぞ!?」
「そんなんじゃバレちまうよ。なぁによく見たことあるから出来るさ。……こんなもんだろ。染めるぞ」
「思ったよりは上手だった。ケチつけて悪かった」
意外と手慣れた手さばきに感心してしまった。それにしても、本当に別人みたいだ。これなら鑑定されない限りバレそうになさそうだ。
「よしあとは服を変えれば完成だ。まぁなんだ冒険者以外でワクワクしたのは初めてだったぜ。上手く逃げて冒険者として名を馳せろよ」
本当に他人事みたいに言う。けど、助かったのは事実だ。無事に出国できたら、いつかまた会いに来たいな。
「本当に助かった。案内人以上にいろいろして貰って感謝しかない」
右手を差し出し握手をし左手を添え頭を下げた。
「ああそうだ。餞別があった。ほら聖の魔法書だ。ランク2相当だな。いつか回復してくれよな。じゃあな」
「よし俺も行くか」
ここからは、一人での行動だ。思えばこの世界に来てから初めての一人だな。これから俺の冒険が始まる。そのためには無事逃げ切る。
「おやっさんもありがとう」
「おうよ」
宿を出てから、人ごみの中をなるべく通り、もうすぐ駅だ。出国まであと60分あるか。とくに変わったことはなかったはずだ。これなら駅に行ってのんびりするか。
「おうあんたすまない。マルって男を知らないか。昨日酒場で借りがあって返せていないんだ。長髪の黒髪なんだがみていないか?」
それは突然であった。俺を探している見知らぬ人物に出会った。出会ってしまった。緊張を悟られないようにしなければいきない。気を引き締めなければいけない。
「知らねーな。もしあったら探してるって伝えとくよ」
「ありがてー、頼むよ。」
「そこのあんた、マルって男を……。」
怖ー。がちで探しに来てるよ。ラディアスにあわなきゃ逃げ切れるのか。鑑定とはどのくらいの人が持っておるんだ。常時発動で何人でも見れるのか。どうなんだよ。考えてもわかんねー。逃げるが勝ちだ。速攻駅の改札通ってトイレに隠れるぞ。




