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熱を感じて  作者: 湯尾
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7

 今日は彼女と初めて休日に遊びに行く。昼下がりの丁度いい気候の中、待ち合わせ場所に行くと既に彼女がいた。私の姿を見るなり少し驚いていたようだが、私が遅刻せずに来たことに驚いているのだろう。まったく失礼な。

 どこに行くんだろう、と私は何も考えていなかったが彼女は行きたい場所があるようだ。

 彼女の後についてやってきた場所はなんと――猫カフェだ。素敵なモフモフがたくさんいる場所だ。

 動物は嫌いじゃない。人間みたいに裏表がないし、なにも打算的なところはない。普通にただ、生き残るための行動を、最善策を取っている。人間といるより動物と過ごしているほうが楽、という人も多いのではないだろうか。

 こういう場に来るのは私もだが、彼女も初めてらしい。どうも行ってみたかったが、一人では飲食店とかはいけないタイプのようだ。

 私たちはさっそく猫カフェに入る手続きをとって、中に入る。

 中はまさに猫のために作られているといっては過言ではないくらいの作り。真ん中に大がかりなキャットタワーのようなものがあり、壁には猫が移動できるような板があったり、中にはお月様の形をしたものまである。そして、そこらかしこにモフモフがモフモフしている!

 私たちはそんなこんなで、モフモフを調査すべく雑居ビルの奥地へ向かったのだった――。


 ***


「……なんで私の周りには一匹も寄ってこないのかしら」


「さぁ」


「なんで私の持ってるおやつは誰も食べてくれないのかしら」


「さぁ」


「なんで私が近寄るとみんな逃げるのかしら」


「さぁ」


 私は膝の上にいる猫ちゃんを一撫でする。喉元をなでてやると喉をゴロゴロと鳴らし始める。このゴロゴロ音にはなんでも、人間を癒す周波数なんだとか。たしかにきいていると心が落ち着くような気がする。


「……なんでヒロムの周りにはいっぱいいるのよー!」


「大きな声ださないの。びっくりしちゃうでしょ」


「うぐ……」


 精一杯の抵抗といわんばかりに、じゃらしを左右にふっているが、まるで猫たちに相手にされていない。

 こんなに懐っこいにゃんこ達だというのに、何をしたら避けられるのやら。

 するとどうだろう、彼女は気がふれたのか猫に向かって手をグーにし、手首を上下にひねってなにやら怪しげな動きしていた。まさか猫に好かれないだけで、ここまで頭がおかしくなるのだろうか?


「な、なにやってるの?」


「招き猫の真似よ。こうしたら私を仲間だと思って近寄ってきてくれるはずだわ」


 本当にどうかしてしまったようだ。

 当然、猫達は近寄ってきてくれることはなく、むしろシャーと威嚇され、敵意を向けられている。当たり前だ。猫より大きな身体していて、そんな変なポーズをとっていたら猫にとっては脅威以外の何物でもない。猫は臆病な生き物だ。


「時間でーす!」


 非情にも極上のモフモフ天国とおさらばの時間が訪れる。

 膝の上のモフモフも接待は終わりだといわんばかりにぴょんと離れていった。私は十分堪能できたが、同行者はというと――


「全然……触れ合えなかった……」


 なんの感情もなく、ただぽつりと呟いている。彼女のもっているじゃらしだけが空しく揺れていた。

 私は茫然としている彼女をひっぱって、猫カフェを出る。店員さんは申し訳なさそうにしていたが、かわりにお礼をいっておいた。

 彼女にどう声をかけるべきか。


「次があるよ」


「……次?」


「うん、また来ればいいじゃん」


「また一緒に来てくれるの?」


 う。……いや、私は彼女に向き合うと決めた。億劫に感じて、拒否をしてはだめだ。


「うん、いくよ」


「ありがとう。……ヒロム」


「一応アドバイスだけど、次はその柑橘系の匂いのするものはやめといた方がいいよ」


「え、どうして?」


「猫は柑橘系の匂い苦手だから。だから近寄らなかったのかもね」


「それを先に教えてよー!」


「だって、どこに行くか聞いても教えてくれなかったじゃん」


「うう……次から気を付けるわ」


 彼女はがっくしと肩を落とす。猫カフェにいって猫に触れ合えず出てきたんだし、余程ショックなのもうなずけるが。


「次、どこいこっか?」


「私は解散でもいいよー」


「さすがに早すぎるわよっ!」


 十四時に待ち合わせをして、猫カフェで一時間弱過ごして現在時刻十五時過ぎ。確かに恋人が過ごす時間としては短いのかもしれない。

 だが世の女子高生はどうやって時間を過ごしているのだ?


「ヒロムの服、見立ててあげたいんだけど、どうかしら」


「服? なんで?」


「別に悪いとは言わないんだけれど……その部活動の青春が詰まったような文字のTシャツは、家で着るようにしたほうがいいと思うわ」


「友達に勧められた服だったから……変だったかな?」


「いえ、いいのよ。好きで着てるなら。じゃあ、私の勧めた服もきてくれる?」


「いいよ。行こう」


 妙に歯切れが悪い彼女に黙ってついていく。先週友人と出かけたさいに購入したものだけど、これって家着だったのか。でも今度これ着て一緒に出掛けよう、なんて言ってたし外に着ていくものだと思っていたが。

 彼女に連れられてやってきた場所はリーズナブルで利用者も多いというアパレルショップ。私でも一度はきたことがある有名なお店だ。


「ヒロムはどういう系統の服が好きなの?」


「うーん……特に気にしたことはないかなぁ……」


「可愛い系もかっこいい系もどっちも似合いそう……っていうか、どっちも似合うわよね! ねぇねぇ、これ着てみて!」


 自慢じゃないけど、それはよく言われる。だが、圧倒的に身長が足りないからボーイッシュ止まりだけど。

 あれよあれよという間に彼女が試着の服を持ってくるため、私は黙って着せ替え人形になっていた。ここ数か月分は服をきたと思う。

 彼女は気になる服を試着させ終えたのか、最終ジャッジに入ったようだ。


「ヒロムはどっちがいい?」


 彼女が提示しているのは、可愛らしい感じの服と落ち着いたカジュアルな服。ううん……正直服にあまり頓着がないため、どちらでもいい。だが、どちらでもいいなんていったら間違いなく不機嫌になるだろう。


「どっちも素敵だなぁって思うよ?」


「そうよねぇ……どっちもヒロムには似合うわよねぇ」


 服のことを言ったんだけど、まぁいいか。

 彼女は吟味するように二着の服を見比べる。このままじゃらちが明かなそうだ。


「二着とも買うよ」


「え、いいの?!」


「せっかく秋ちゃんが私に選んでくれたしね」


 彼女はありがとう、と嬉しそうに私の片手を両手で包み込むように握る。まだ夏の訪れには早いと思うが、これで解決するなら安いもんだ。

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