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あれから朝の時間は私も文化祭の作業を行った。今まではクラスの皆が演技に集中してくれていいと言ってくれていたので、その言葉に甘えていたが演技の相方のこんな姿を見てはいつまでも何もしない訳にはいかないだろう。
すると、今までは遠目かつ遠慮がちだったクラスメイトも、お昼近くになれば頼ってくれるようになった。
「梛木さんって本当器用だね! もう、誉ったらヒロは――」
「はいはい、監督はあっちでまだやることあるでしょ! あたし達はこれ終わらせたら通しでやらなきゃいけないんだから!」
ほまちゃんは、行った行ったとなにかを言いかけた監督を追い払うと、バックハグをしてきて私が作業をしている手に自らの手を重ねてきた。
「こんなに小さな手で器用に色んなことこなしちゃうんだから、ヒロってほんとキューティだよぉ」
意味が繋がっていない褒め言葉を頂き、重ねてきている手をスリスリされながら、苦笑いを浮かべる。
すると近くから面白くなさそうな声で鼻を鳴らして笑う声がした。
「ようやく王子様は裏方の仕事もする気になったかよ」
隅の方で可愛らしい小動物の耳をつけながら作業をする彼――高柳くんは、どこかいじらしく――そして滑稽だった。
私と役を巡って演技力対決した面影はなく、すっかり覇気が失われている。
「あんたこそ、出番ほぼないんだから、裏方の仕事くらいまともにこなしてくれない? いつまでも魂の抜けたツラして作業されると、士気に関わるんだけど」
「……俺一人いなくたって大してかわんねーだろうが」
彼はそう言い捨てると、緩慢な動作で手に持っていた工具を投げた。
ほまちゃんは声に出すつもりはなかったような、心の声が意図せず滲み出たような低い声でだる、と漏らすと私から離れ高柳くんの元へと歩いていく。
だが特になにか高柳くん自身にアクションをとる訳ではなく、手に取ったのは工具だった。
「お、おい何すんだよ」
「あんたに任せてたところ、結構大事な道具だったから。適当にやられちゃ困るんだよ」
「は? ……あえ?」
「あたし、あんたの演劇に関しての情熱だけは尊敬してたんだけどな。まあ、自分が目立たてなきゃどうでもいいんだって思ってるところを見ると、そこまでだったんだなって――」
「んなわけねえだろ!」
ほまちゃんは憂いを帯びた目と哀しさが滲み出た表情を隠すように伏せる。
そんな姿を目の当たりにした高柳くんはほまちゃんからひったくるように工具を奪い、罪悪感いっぱいの表情で頭を下げた。
「悪い、誉。俺どうかしてたわ。――でも、来年はお前の相手役やれるように、演技も勉強も頑張るから」
そして今にも目の前でドラマが繰り広げられそうな雰囲気で、ほまちゃんの手をぎゅっと握る。
「これ、やっとくよ。早めに行って少しでも休んでから臨めよ。梛木、こいつのこと頼む、結構無理するところあるからさ」
そして煌めく表情で得意げに親指を立てると、別人のように作業に没頭し始めた。
一連の流れなどなかったかのように、彼女は私の所へ戻ってくる。
「ヒロ、ああいってくれてるし、いこ?」
「え、う、うん。た、高柳くん、ありがとう」
ほまちゃんに引きずられながらお礼を言うと、高柳くんはヒラヒラと手を振ってくれた。
「いくら特進劇があるから優先とはいえ、体育館使える時間も限られてるからさ。有意義に使わなきゃねっ」
その有意義に使う、とは時間のことなのかはたまた別のことなのか――私にそれを尋ねる勇気はなかった。
体育館につくと、もうすぐで準備が整うところとのこと。私たちも急いで着替え、化粧を施してもらった。
どういう雰囲気にするか、とお試しで化粧はしてもらったことはあるものの慣れないことでなんだか顔がむず痒い。集中して演技ができるといいのだが。
「きゃー! ヒロ、王子服にオールバックに色黒メイク! 全部似合ってるよぉ!」
「ポニー! 化粧がとれるだろ! 必要以上に王子にくっつこうとするな!」
「このヒロを堪能しない方が失礼じゃん!」
そう言い残して監督に引きづられていった。
早めに帰ると伝えられないまま迎えた、通し稽古はいつも以上に緊張感を高める。だんだん時限爆弾が爆発する時間が近づいている、そんな感覚だ。
今までシーンシーンで演じてきた役を、か細い糸で繋げるように王子役を紡いでいく。戦闘シーンとかもあるため、これまでの私だったら途中でへばってしまったのではないだろうか。
短期間とはいえ、この演劇でしごかれて体力がついたのだろう、幼馴染には感謝しかない。
「もう……必要、ないんだ」
クライマックスのキスシーンを演じると幕が閉じるのを確認すると、ばたりと後ろに倒れ込む。
初めての通し稽古。やりきった私は自らの声で録音した、小っ恥ずかしいモノローグを恥ずかしがる余韻もなく、浅い息遣いを繰り返した。
「はいお疲れ様でしたー! いや、王子よく最後までもたせた! 本番もその調子でお願いね! ポニーも暴走しないように!」
ほまちゃんがむくりと起き上がって、んーと気持ちのよい朝を迎えたかのように、伸びをする。
「ヒロ、お疲れ様! すっごくかっこよかった! パーペキ!」
「あ、はは......ありがとう……」
二日連続でできるのか、これ。いや、でもやるしかない。
ほまちゃんに手を貸してもらい、何とか起き上がり衣装を脱ぐため簡易更衣室へ向かう。時間を確認すると下校時間間近だった。
着替え終わり、化粧も落とし終わるとほまちゃんにおずおずと確認する。
「その、文化祭まであと数日なのに申し訳ないんだけど、今日はもう帰っても大丈夫かな……?」
「ん? いいよ、初めての通しだったし。ヒロも疲れたよね、早めに帰って疲れとるんだよ!」
ほまちゃんはにっこり快諾してくれた。……よし、ちょっとずるい気もするけどさっさと帰ろう。
クラスメイトから少々突き刺さるような視線を感じつつ、そそくさと体育館を後にしようとするが――
「え?!タカが?!」
幼馴染の動揺した声が体育館に静かに響く。
「お母さんは……そっか、今日は……。わかった、なんとかするから、泣かないでつむ。お兄ちゃんは強いから、大丈夫だよ。お姉ちゃんがすぐいくよ」
ほまちゃんは電話をしまうと早足で監督の所へ向かう。
「でも今日までにあの作業終わらせないと、次のクラスの引渡しもあるし……でも誉がいないと終わらないよね……」
「本当にごめん……あたし、弟の様子みたらすぐ戻ってきて、泊まってでも――」
「っ……そ、その作業、私にできるかな……?!」
だめなのに。待たせてる人がいるのに。
切羽詰まった二人――幼馴染を見てると、やっぱりどうしても知らんぷりで帰るなんてできるわけがなかった。




