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熱を感じて  作者: 湯尾
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 普通にドアをあけ、入室したが私が入った来たことに気づいていないみたいだ。


「やっぱり――には――ないんですかね」


「そんなこと――。むしろ――は――」


 どうやら部屋の隅でレイナードお姉さんが雑談? をしているようだ。雑談相手はちょうど陰になっていて見えない。

 ぼそぼそと何を言っているのかはあまり聞こえないが、盗み聞きをする趣味もないので、すみませんと声を少し張り上げるとぴたりと雑談の声がやんだ。


「はーい、どうかしました……って大夢か。どうした?」


 お姉さんが私に気づくと雑談相手に待てのようなジェスチャーをした。


「あれ、誰かとお話してなかった? 大丈夫なんですか?」


「気のせいじゃないか? それに、いたとしても怪我人優先だよ。お前は雑談しに来たわけじゃないだろう?」


 まあそれはそうだけど。……隠す必要ある?

 簡単に怪我の内容を説明し、手当を受ける。容赦なく傷口に消毒液をかけられたが、ポーカーフェイスを保って耐えた。

 慣れた手つきでとどめの絆創膏を貼ってもらうと、そういえばとお姉さんは言葉を続ける。


「……お前、この前の友達の友達の友達、どうなったか聞いたか?」


「友達の友達の話です。それもう赤の他人じゃないですか」


 はは、と苦笑いを浮かべるとお姉さんは視線をそらした。誤魔化すかのように咳払いをし、どうだったんだ、と再び詰め寄られる。

 夏休みの期間はよかった。ただ何故か夏休み明け初日に一緒に登校して下校するころに、どこか平行世界へ移動してしまったのではないかと錯覚するくらい、険悪な仲になってしまっていて。

 なんて思い返しているとお姉さんは少々眠たげにこぼす。


「その顔を見る限り、あまりうまくいかなかったようだな」


 どうやら、言葉にせずとも顔にでてしまっていたようだ。


「……家で宿泊することになって、当然その子もその……色々意識はしていたそうなんだけど……」


 思わず口ごもる。自分のことではないように話さなきゃいけないのに。

 顔が強張りそうなところをなんとか平静を装い、ここからは淡々と喋る。


「まあその、一線は超えられなかったらしいですが好きとは伝えたし翌日の相手も別に不機嫌ではなかったし。……その後の別日に会ったときも普通の態度だったらしいのですが」


「……ですが?」


「夏休み最終日に宿題を手伝って、始業式遅刻したものの何事もなく下校時間になって、さあ帰るぞってなったら、別世界に来たってくらい態度が急変していたそうです」


「じゃあ単純に学校にいるその間に何かあったんじゃないのか?」


 そんなの、言われなくてもわかってる。なんて、自分のことじゃないと言っている手前、口が裂けても言えないけど。

 だけどその間に合った出来事なんて、始業式の連絡事項と……あと文化祭の演技力勝負をふっかけられたっけ。それくらいだ。

 うーむとついその場で頭を悩ましているとお姉さんがふふっと笑みをこぼす。


「……なんで笑うんですか」


「いやなに、他人のことなのに随分と思い詰めた顔をしているなと思ってな」


 ニヤニヤとすべてを見透かしたかのように私を見る顔が妙に腹立たしい。


「恋愛話のついでだからって聞くわけじゃないんだが、お前誉のことどう思ってるの?」


「え?」


「ほら、お前と誉は小さいころからずっとカレーとライスのように一緒にいるだろう? 誉はともかく、大夢には男子の影も見えたことがないし、もしかして……と思ってな」


 またそういう話か。最近は多様性も大事にしているとはいえ、まだマイノリティではないか? ……そうでもないのかな。

 だがそんなの、息を吐くように答えられる。


「大事な幼馴染ですよ」


「どのくらい大事なんだ? お前の大事の度合いはなんなんだ?」


「そりゃ、小さいころからほまちゃんはずっと私を助けてくれてたし、返しても返しきれない恩があって――」


「それは劇の王子役を絶対やらなきゃいけないほどなのか?」


 その一言で一気に空気がぴりついた気がした。お姉さんは普段通り話しているはずなのに、空気が重く感じる。私の気持ちの問題だろうか?

 以前にも同じようなこと聞かれたな、なんて思いながら答えようとした。


「うん。だって――」


 ――幼馴染が困ってたら助けるのは普通だから。

 いつだったかも言えなかった私の言葉を遮るように死角にいた誰かがバタバタと音を立て、疾風の如く保健室から逃げるように出ていった。呆気に取られて硬直してしまっていたが、彼女だけは見間違えるわけない、秋だ。

 そういえば、お姉さんが普通に話すものだから、今の今まで誰かがいたことがすっかり頭から抜け落ちてて、顔が青くなる。


「今のこの時期、廊下は走ったら危ないんですけどねー」


「いや、え?!ちょ、レイナードお姉さん?!」


「早く追いかけた方がいいんじゃないですか? 今ならわだかまり、解消されるかもしれませんよ。それと私は山田千代子です」


 保健室にはまた別の来客が来たらしい。だけど今はそんなこと気にしていられない。今は追いかけなければならない人がいる。

 ――それに、あれだけヒントをもらって解けなかったのなら、きっと落第ものだろうから。

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