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熱を感じて  作者: 湯尾
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 つい何も考えずこの場にきてしまった。

 私が鬼気迫る勢いで来て、無言でいるもんだから目の前にいる2人は困惑の表情をうかべている。特に遊馬くん。

 そんな私が出す神妙な空気に耐えかねたのか、遊馬くんはミシンをとめ苦笑いで口を開く。


「や、やあ。今日は衣装合わせか? 梛木の役は王子だときいていたが、吸血鬼にでも配役変更したのか?」


「……秋、どう? 似合うかな」


「…………」


 私は遊馬くんの問いには答えずじっと秋を見つめ、問いかける。話したいことがたくさんあったはずなのに、いざ目の前にするとそれを声に出すことができない。こんなどうでもいい、的外れなことしか言えなかった。

 秋が私を見つめ口を開こうとした途端、背中にドンとした感触を感じ、それと同時にその沈黙は破られる。


「ヒロー! 急にどっか行っちゃうからどうしたのかと思ったら、アッキとヒデじゃん!」


 より一層秋からの視線が強くなるのを感じ、幼馴染に抱擁をとくよう手首を掴むと面白くなさそうに離れていく。


「お、おお嵐山。嵐山も衣装合わせか?」


「うん、ヒロとね! あたし達王子とヒロインだからさー!」


 遊馬くんが助かったといわんばかりに会話を続け、ほまちゃんは嬉々として明るい口調でそう返し懲りずに私の肩を軽く抱く。


「僕もその話は聞いてる。毎年、特進劇は楽しみにしていてな。梛木と嵐山が主演なら尚のこと楽しみになった」


「……そうね、2人ともお似合いだわ」


「え、そお? まさかアッキに言われるとは思わなかったなー!」


「い、衣装の話でしょ、ほまちゃん!」


「もちろんそだよ? 衣装以外にあたし達が『お似合い』って言われること、ある?」


 いたずらっ子みたいににひひと笑う幼馴染に見事やり込められ、呆気にとられ何も言い返すことができなかった。

 するとほまちゃんは調子づいたのか自身のほっぺたをぴたっと私のほっぺたにくっつけてくる。


「ほらほら、貴重なオフショット。写真撮ってもいいよー?」


「はぁ?!撮るわけないでしょ?!」


「あたしはともかく、ヒロのこと撮らせるわけないじゃん。冗談にそんなムキにならないでよ」


「……っ。私たち、衣装作らなきゃいけないの。邪魔だからどっか行って」


「はーいすいまっせーん。ほら、2人の邪魔しちゃ悪いし、ヒロいこっ」


「そういう意味じゃ――」


 秋が言い切る前にほまちゃんを私の手を引きずるように、私たちのクラスのところへ戻って行った。

 結局私は彼女に何も言えず、伝えることができなかったのだ。まただ、また私はなにも伝えることができない。

 目の前が真っ暗になり、自分の周りだけ空気がなくなったような感覚に陥るが、なんとか正気を保つ。


「――ヒロ! 聞いてる?」


「ご、ごめん。ぼーっとしてた」


「衣装作っちゃうから、脱いでだって。ほら、早く準備室にいったいった」


「う、うん」


 準備室に入る前、ちらりと後ろを確認すると先程の出来事がなかったかのように楽しそうに談笑する2人の姿が目に入った。

 乱暴に脱ぎそうになりそうな手をなんとか自分で宥め、震える指先で元のジャージに着替える。準備室を出る前に深呼吸をして、心を落ち着かせると劇の練習の続きをするために再び教室へ向かおうとする。

 私が被服室を出るまでの間、彼女は一度もこちらをみることはなかった。


「おかえり、梛木さん。あれ、誉は?」


「……あ」


 しまった。ぼーっとしてたものだから、つい1人で戻ってきてしまった。


「もしかして他の用事? 誉色々やってるからさ」


「……ぼーっとしてて1人で戻ってきちゃった……ごめん」


「喧嘩したとかじゃないよね?」


「ち、違う違う。そういうわけじゃないよ」


「それもそっか、誉が梛木さんと喧嘩するわけないもんね。誉が戻ってくるまで休憩でもしてて!」


「う、うん」


 と、言われたものの皆が忙しなく動き回っている中、1人だけなにもしないというのも気持ち悪い。

 さっきから頭の中で反芻する出来事を振り払い、教室の隅で小道具を作ってくれてるクラスメイトに話しかける。できることといえば手先を使うことくらいだし。


「ねぇ、私にもなにか出来ることあるかな?」


「わ、梛木さん?!い、いいよ、梛木さんは劇の練習に集中して」


「そ、そうそう。ここは手が足りてるからさ……それに梛木に余計なことさせると誉が――」


「おーい! 誰か手伝ってくれー!」


「わかった! じゃああっち手伝ってくるね!」


 2人が静止しようとしてきたのも露ほどにも気付かず、私は縋るように声の方へ向かう。今はとにかく何かしていないと気が変になりそうだった。


「じゃあこれ、ここのとこささくれてるから――って梛木?!」


 何故か相手は私であることに驚き、手元が狂ったのかささくれたところが私の指を掠めた。

 その瞬間、私の指差から赤いものが滲み、それを意識したかと思えば痛みがついてくる。


「わ、わわわ悪い梛木! 早く、保健室! 誰か付き添ってやってくれ!」


「大丈夫だから! 1人でいけるから! なにも手伝えなくてごめんなさい」


 その場から逃げるように保健室へ向かう。結局なんも役に立たなかった……。

 なにか貢献するどころかむしろ迷惑をかけたことに、気を落としつつ堕天使の根城――もとい保健室にやってきた。

 もういっそ保健室のベッドで眠って全てを忘れてないしまいたい――なんて考えながら入室するとどこか聞き覚えのある声が聞こえる。

 その声を聞いた途端、また胸が苦しくなるのを感じた。

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