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熱を感じて  作者: 湯尾
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 こんな時でも勉強しなきゃと呪いみたいに思う自分が嫌になる。普通の、私ぐらいの年頃なら尚更勉強より恋人のことに頭を悩ましてしまうのが自然だと思うから。

 だが、特進劇の練習に文化祭明けにあるテストのことを考えれば同時進行で進めなきゃ行けないと考えるのも必然なわけで。そのために担任はご親切にも夏休み明け早々文化祭の話をしたのだろう。

 それにちゃんと彼女にもいったではないか。私は勉強を1番に考えなきゃいけない。恋愛は二の次だと。

 そんなことを考えながらも悶々と日々を過ごす。秋とはあれから勉強と劇の練習で一緒に帰れておらず、ろくに言葉を交わすこともなかった。

 だが、ご飯だけは作りたいと彼女の強い要望でお願いすることにした。週末に1週間分作りに来てくれるらしく、その日だけは鍵とお金を預けに会うがほんとにほんの一瞬だけだ。ただそんな時にも素直になれない自分に嫌気が差した。

 そんなすれ違いの日々が続くにつれいつの間にか学校全体が文化祭で色めきだって来ていることに気づく。

 放課後も日中と変わらずの喧騒具合を鑑みて、私は彼女のご飯作りの申し出を断ることにした。

 彼女自身も文化祭の準備で忙しいだろうに、更に私のワガママで彼女をこれ以上拘束する訳には行かない。高校一年生の文化祭は一生に一度しかないのだから。

 今日も時折彼女のことをぼんやり考えながら劇の練習をしていた。


「どうしてなんだポニー……僕はこんなにも君を愛しているというのに」


「あ、あたしもヒロのこと、あ、あああ愛して……」


「カット! ちょっとポニー! そこのセリフは『私たちは闇と光で分かたれた身分……結ばれない運命なのよ』だよ!」


「ごめーん! だってヒロの真剣な顔みてたらそう応えずにはいられなくて……」


 ヒロイン……もとい幼馴染はそんな調子で怒られていた。まったく練習とはいえ、少しふざけすぎな感じもいなめないが。

 というか、幼馴染が相手役だからか役名じゃなくて普段の呼び名で呼んでしまうのもどうかと思う。

 そんなほまちゃんの様子に私も苦笑いをうかべることしか出来なかった。


「本番でソレ出さないでよ!」


「だいじょぶだいじょぶ!」


「ったく。じゃあ次は――」


「ラストシーン練習しよー!」


「あんたそこセリフないでしょ!」


 ラストシーンは亡くなってしまった思っているポニーに私演じるネグセ王子がキスするシーンだ。演技力対決の時に高柳くんが演じたシーンでもある。

 たしかになんでこんなシーンばっかりやりたがるのだろうか。もしかして、ほまちゃん……案外こういう練習はさぼりたがりなのだろうか。

 いくら小学生の時からの旧知の仲が相手役とはいえ、そこまでテンションがあがるかは甚だ疑問ではある。だけどきっとほまちゃんはそういうタイプなのだろう。


「誉と梛木さん、ちょっと被服室きてくれるー?」


「はーい! ヒロ、いこっ!」


「う、うん」


 衣装班のクラスメイトから呼ばれ、ほまちゃんに引きずられるように教室を出る。

 夏休み明けからハードなスケジュールをこなしているとは思えないほど活力に満ちている。

 聞いた限りでは役の練習はもちろん、小道具大道具の手伝いもして、おまけにスケジュール管理や予算管理なんかもしてるようだ。

 だがきっとこれ以外にもプライベートにしろ学校関連にしろ何かしら活動しているだろうに、一体そのエネルギー源はなんだと問いたい。

 被服室につくとどうやら数クラスの生徒がミシンを使用して衣装を作っているようだ。何の気なしに教室内を見回すと、そこには見知った人たちもいた。


「秀王くんってミシンもできるのね……」


「ウチの旅館で使うハッピとかで自作する機会もあってな。ただこういうヒラヒラの服を作るのは初めてだから、上手くいけばいいのだが」


 楽しく談笑している2人のことを無意識に見つめていると、こちらにはまったく気づく気配もなくまるでふたりの世界に入りこんでいるみたいだ。


「梛木さん、はいこれ!」


 ぼんやりと2人を見ていた私に王子の衣装と思われる衣類一式が手渡される。


「あっちで試着してみてくれる? キツかったり大きかったりしたら教えてね」


「う、うん。わかった」


 被服準備室に行くよう促され、早速着替える。採寸は幼馴染が念入りに測っていたので、私が極端に太ったり痩せたりしていなければピッタリのはずだが……。


「ありゃ……」


 ウエスト周りが少し大きかった。少し痩せたか、私。だが、この程度なら許容範囲だろう。ベルトでしめれば問題ない。

 衣装に関しては全く関わってないから知らなかったが、闇の国の王子らしく黒を基調にしており所々に赤いラインが入っている。そしてあまり華美ではないが王族らしさをイメージしたのか上品に意匠を凝らしていた。

 こういう王子役の衣装は明るさを感じ出せつつも煌びやかで派手なのを想像していたので、意外さを感じる。

 あまり派手なのよりこっちの方が根暗な私には合ってるから、デザインした人は私のことをわかっていると思う。というか、どちらかというと吸血鬼じゃないかこの衣装。

 着方におかしなところがないか確認し、準備室を出るときゃーと聞き覚えのある黄色い声が飛び出す。


「かっこいいよヒロー! さすがあたしの王子様だよー!」


 ほまちゃんが抱きつく寸前、この衣装を作ってくれてたであろうクラスメイトが制止する。


「ちょっと誉! あんたらの2人の衣装まだ仮縫いのとこあるんだからあんまり激しい動きしないで。特に王子の方難しい注文受けてあげたんだから!」


「……はーい」


 ほまちゃんは渋々と引き下がった。……助かった。

 初っ端からの幼なじみの猛攻でついつい見逃していたが、ほまちゃんも衣装に着替えている。


「あれ? ほまちゃんも着替えてたの?」


「うん、だからあたし達二人で呼ばれたっしょ?」


「まさかここで着替えてたの……?」


「ううん、あたしはトイレで着替えてたよー!」


「なんでわざわざ……一緒に準備室で着替えればよかったんじゃ?」


「だってそれじゃ完成系のヒロの王子姿見られないでしょ! その衣装だけあたしがデザインしたんだけど、ヒロが着てるの見た瞬間感動もひとしおだよぉ」


 ああ……この衣装のデザインにも納得。ほまちゃん好きだからなあ、吸血鬼。

 ふと視線を感じ、その先を辿ってみると秋がいた。目が合って笑顔を向けたはずがすぐ顔を背けられてしまう。……自分から目を背けたくせになんでそんなに悲しそうな顔をするんだ。

 それがなんか面白くなくて、胸中にもやもやと黒い澱のようなものが積もり燻り始めた。いや、きっと――あの日から今までもその黒い澱は胸の底に積もっていたのだろう。

 気持ちの悪い澱が弾けた拍子に、衣装合わせだということも頭から吹き飛んでしまい、気づけば彼女の元へ足が動いていた。

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