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熱を感じて  作者: 湯尾
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4

「あー終わった終わった!」


「中々難しかったねぇ」


 無事確認テストが終わる。テストが終わった後の爽快感というものは全国の学生共通のものではないだろうか。

 結果はどうであれ、今この瞬間だけはすっきりとした気分になる。


「この後、答え合わせでもしない? 喫茶店にでもいってさ」


「……あー、と。ごめんね。この後予定あるんだ」


「高瀬さんと?」


「うん」


「……そかそか。じゃあまた今度ね?」


 何故か目が笑ってない友人に後ろ髪をひかれてるような気がするが、幸いにも私は髪が短い。無事すり抜けたと思っておこう。

 そそくさと逃げるように教室から出ると、彼女が待っていた。彼女と約束があるというのは嘘ではないんだ。ただ特別用事があるだとか、どこかに行くだとかそういうことがないだけ。

 私を見るとにこやかに迎えてくれた彼女に、私も笑顔で返す。


「テストお疲れ様。どうだった?」


「難しかったよぉ。もうしばらく問題は解きたくない」


 他愛もない話をしつつ、玄関へと向かって歩き出す。

 二組の私の教室から、彼女の教室の七組側の階段へと向かう。そっちのほうが玄関に近いからだ。

 帰る生徒でごった返す中、彼女があ、と誰かに気づいたようだ。

 するとそのお相手と思われる男子生徒も立ち止まる。中々整った容姿をしており、彼女と並べば美男美女と言われるのではないだろうか。

 その男子生徒は彼女を見ると目を細めて笑った。


「秋。今日は図書室に来ないのか?」


「うん、特進のテスト終わったみたいだから梛木さんと一緒に帰るの」


「そうか。ああ、梛木、テストお疲れ様」


「ありがとう!」


 にこやかに答えたはいいものの、どこかで見たことあるような気がするが誰だかわからない。彼女の友達だということはわかるが。


「それじゃあまた、暇なときにでも図書室にきてくれ」


「いつもありがとう、部活頑張って!」


「ああ」


 それじゃあ、とクールに彼は去っていった。聞くべきか。聞かぬべきか。


「仲良いの?」


 聞いた。決して気になったとか、そういうわけではないんだがついとっさに言葉がでてしまった。


「え? うーん、小学生のころから一緒だから良いと思うわ」


 てことは私とも中学は一緒ということか。あーだからどこかで見たことあるような気がしたのか……。

 あまり交流が広くなかったことに心の中で反省。


「秀王くんもね、特進並みに頭良いんだけど何故か普通科にきたのよね」


「ヒデタカくん?」


「そうそう! 優秀の秀に、キングの王で秀王ってかくのよ……って知ってるか。同じ中学だものね」


 そういえば友人がその人の話題をこぼしてたことがあった。中学生のころ一度だけ成績負けたことがあるって悔しがってたっけ。

 そうか、その彼がこの学校の普通科にいるのか。


「かっこいい名前よね。本人も名前負けしてないっていうか」


 べた褒めである。

 いつもより饒舌に語る彼女に対し、ちょっと意地悪をしたくなった。


「そんなに好きなんだ?」


「なっ……わかってるくせに変なこと言わないで! 早く帰りましょ」


 顔を真っ赤にしてぷんぷんといってしまった。相変わらず感情が顔に出やすいというか、裏表がないというか。からかいがいがあるなあ。

 ごめんごめん、と慌てて追いかける。

 思いのほか彼女は早く、もう靴をはいて玄関のところで待っていた。うつむいていて、目を合わそうとしない。

 私も靴をはいて、合流すると無言で歩き始めた。あちゃー、やっちゃったかな。

 自分から声もかけるのもなぁ、と思っていたら校門を出るところでピタッと止まった。


「自転車、とりにいかないの?」


「い、いってくる」


 小走り気味に自転車のところへ向かう。下校時間なので人がいるが、ぶつからないようにかつ迅速に彼女の元へと戻る。


「おまたせ」


「……ん」


 その言葉を合図に私たちは歩き出す。再び沈黙。別に気まずいとは思わないが、このままだとなんの会話もなく家についてしまう。謝るべきか。

 そんなことで珍しく頭をぐるぐるさせていると、あっという間に我が家の前に。まぁ今日は仕方ないか。


「――じゃあ、また」


「あれー! ヒロ!」


 別ようとした刹那、そんなわざとらしい声が聞こえてきた。そこにはわが校のジャージを身にまとい、自慢のポニーテールを揺らしながら、きらきらと青春の汗を流している友人の姿があった。


「ほまちゃん。ここでなにしてるの?」


「テストも終わったし、部活に参加したら今日は自主練らしくてさ。久しぶりにこの辺走りたいなーって思って走ってたら、ヒロの姿が見えたから」


「そかそか。部活、頑張ってね」


 笑顔で見送ろうとしたが、友人は動こうとはしなかった。

 ターゲットを私から彼女にかえたのか、彼女の方を向く。


「そういえば今日は高瀬さんはヒロどこに行くの?」


「え?」


「ヒロが今日は用事あるっていってたんだ。どこに行くのかなって」


 まずい。


「今日は私の家に来てもらう予定だったんだ。ごめんね、ほまちゃん、私たちもう行くね」


 彼女に喋らせまいと強引にその場から立ち去らせ、彼女に鍵を渡し先に入るよう促す。私は自転車を片付けるから、と理由をこじつけた。

 その様子を友人はニコニコとみている。


「そんな慌ててるヒロを見るの初めてな気がするな」


「慌ててなんかいないよ」


「そう? じゃあ私もう行くね」


 ふりふりと含みを持つ笑顔で手を振る友人に私も振り返す。すると今度こそ友人は疾風のごとく走り出していった。スタミナをつけるような速度じゃないと思うけど。だが友人は中学の時陸上の長距離でトップを取っている。常人には理解できないんだ――そう思っておくことにしよう。実際会ったときも息一つ切らしてなかったし。

 ――さて、一難去ってまた一難。自分で招いたとはいえ、だ。家の中にいる彼女をどうしようかな。

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