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熱を感じて  作者: 湯尾
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33

 一学期最後の学校の日、修了式。

 こういった行事は通常の授業がないせいか気が緩みがちの私は安定の遅刻をかましてしまった。遅刻はするけど欠席はしない、梛木大夢のマストね。

 そろっと後ろからさりげなく入ったが、既に先生はおらずどうやら後はプリント配布等で一学期の学校は最後らしい。


「ヒロおはよう! 先生怒ってたよ?」


「おはよぉ。どうしても授業ないとなんか気が抜けちゃって」


 あはは、と苦笑いをうかべる。気を付けなよ、と幼馴染からありがたい忠告を受けると、そういえばと言葉を続けた。


(ヒデ)とアッキと話してたんだけど終わったら図書室集合だって。プールの件で」


「秋たちと話す時間あったんだね」


「は?」


 ドスのきいた声にさらに一瞬顔に影が差しこんで、何年も一緒にいはずなのに今までみたことない程顔を歪めた幼馴染にかなり驚いてしまった。だけどすぐにいつもの笑顔が戻る。

 え、なに、なにがあったの……。


「……朝ね、ホームルーム始まる前会ったんだよー!」


「そ、そうなんだ」


「いやー楽しみだね!」


 そうでもないけど……。というか、なんでなんでもないように話してるんだ。

 努めて顔に出ないようなんとか笑う。


「あはは……」


「ヒロは水着どうしたの?」


「ネットで適当に買おうと思ってる」


「試着しなくて大丈夫? あたし、付き合おっか?」


 やっぱり子ども扱いされてるなぁ。

 そんな扱いに不服を申し立てるために、顔に出してみるがどうやら伝わってないようで平然とした様子だ。


「買いに行くとしてもさすがに一人でいけるよ。子供じゃないんだから」


「そう? じゃあ楽しみにしてるね!」


 なんてニッコリ笑ってる顔を見れば、まるで子供の成長を嬉しく思っている様な母のようで。……物語とか本の世界ではそういう母が多いってことね。

 カバンを机の横に置き、席に座るとほまちゃんも身体の向きを変えて話を続けた。


「そういえばさ、あたし夏期講習パスして部活いくことにした!」


「へーそうなんだ。部活、頑張ってねー」


「……少しは寂しがってくれないの?」


 なんで私が寂しがるんだ? 一人で受けることになるから?


「寂しくなったら会いに行くね!」


「それ行けたら行くと一緒のやつじゃんー」


「そんなことないよー。また弓道場行きたいなって思ってたから。あと一応夏期講習のプリントもコピーして持ってくね?」


「うん! ありがと、ヒロ!」


 なんて元気に抱き着かれ、和気あいあいと話しているとがらりと扉が開き担任の先生が入ってきた。ジロリと睨まれたので愛想笑いを浮かべ、ぺこりと頭を下げる。

 夏休みに気を付けることや留意事項、あとは勉学に励むよう強く言われ解散となった。

 ――と思ったら、担任がこちらをギロリと睨みつけ、こちらに近寄ってくる。


「おい梛木――」


「あーっと、先生、ヒロ……梛木さんには私から色々いっておきますから、ね? 私たちこれから勉強しにいくんで!」


「……始業式は遅刻するんじゃないぞ」


「き、気を付けます」


 ほまちゃんはお疲れ様ですと明るく元気に見送った。学年一位の美少女に見送られ、担任もまんざらでもない様子が背中から透けて見える。

 姿が見えなくなるとまるで人ふう、と一息漏れていた。


「じゃ図書室、いこっか」


 そして何事もなかったかのように私の手を引っ張って図書室へと向かう。

 ……遅刻したのは私なのに、どうしてほまちゃんが言い訳しているんだろう。

 なんて表現しがたい心の奥底に燻ぶるような思いを抱えていても、


「どうかした?」


「なんでもないよ」


 なんていって、笑うことしかできず。

 ほまちゃんは不思議そうな顔を浮かべていたが、すぐに笑顔を浮かべ夏休みの予定を話してくれた。

 夏休み後半に家族で祖父母の家にいくらしい。よければ、と嵐山母が私をお誘いしてくれているらしいが、丁重にお断りして話が長くならないように早足で図書室へ向かった。


「む、来たみたいだぞ」


「早く早く!」


 既に二人はきていたようで、手をあげて席へ誘導してくれた。それにしても秋は何をあんなにはしゃいでいるんだか……。

 私たちは席に着くと早速、とプールの話を進めることに。


「早速だけど、秀の予定はどう?」


「それなんだが、申し訳ない。8月はほぼ無理だ。7月中だと嬉しい」


「あー書き入れ時だもんね。じゃあ7月にしよっか」


「……私には聞かないの?」


「アンタはいつでも暇でしょ」


「そ、そんなことないわよ! 私だって店の手伝い、あるし……」


 書き入れ時……? と頭にハテナを浮かべていると、その疑問にはほまちゃんが答えてくれた。


「秀の家、旅館なんだよ。坂上ったらあるんだよね、アスマ旅館」


「あー! あー……」


「なんか微妙な反応だね」


「いや、いい温泉あるとは聞いてたけど坂を上るのが苦手すぎて、すっかり頭から抜け落ちてたなーって」


「泉質は保証する」


「坂上る決意できたらいくね」


 苦笑いで誤魔化すように頭をかくが、遊馬くんとしてはあまりこの話題に触れて欲しくないようだ。

 その後はとんとん拍子に話が進み、みんなで予定を合わせて日程が無事決まった。

 とうとう夏休みが始まる。どうせ勉強くらいしかすることないだろうと思っていたけど、今年はそうでもないみたいだ。

 日程も決まったので、後は秋と帰るだけかと思っていたら、ほまちゃんに声をかけられる。


「ヒロ、今年は何が食べたい?」


 ……そういえば夏休みはこの行事が毎年あったな。なんて、毎年思ってる気がする。


「肉じゃが」


「あれ? 今年はお茶漬けじゃないんだ?」


「あ、いや、ごめん、間違えたお茶漬けで!」


「だめでーす! 一度言ったものはかえられないよー!」


 やってしまった。つい頭に思い浮かんだ料理を言ってしまった……。

 ほまちゃんは嬉しそうに、これでもかっていうくらいの高速フリックで携帯に打ち込んでいる。これもう確実に出るやつだ。

 自分のやらかした回答に頭を悩ませていると、後ろで秋が何の話ー? と首をかしげている。

 ほまちゃんは面白くなさそうにちっと舌打ちをしていた。


「アンタには関係ない話」


「大夢、なんの話?」


「もうすぐほまちゃんの誕生日なんだ。毎年誕生会あるんだけど、いつも好きなもの作ってくれるんだぁ」


「ちょっとヒロ! ぺらぺらなんでも喋んないの!」


「私も参加する! ね、誉さん、私たちの仲だもんね?」


「あたしとアンタ、一切合切なんの関係もないけど」


「なによ、同盟結んでる仲じゃない」


「ばっ……」


 慌ててほまちゃんは秋の口を塞ぎに行く。同盟……? この二人が?


「わかったから、それ以上喋んな! あとでアンタにも詳しい日程連絡するから」


 最後にじゃあね、といつものようにばっちりウインクを決めると風のように去っていった。さすが元陸上部、もうあんなところに……。

 結局同盟についての疑問は解消されなかったけど、まあいいか。めんどくさいし。

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