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熱を感じて  作者: 湯尾
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 テストも無事終わり、今日は結果が張り出される日だ。特進を維持できるだけ……なんて悠長なことは言ってられないけど、せめて前より結果がよくあれと祈りながら提示版を見に行く。

 入試の結果とか一番初めに行った確認テスト、入試試験は特進の中で中間、確認テストは上位10位以内、少しずつ成績が上がっていっていた。今回のテストは……正直自信がない。

 彼女のせいにするわけではないが、私自身彼女と一緒にいるのが心地よくて彼女と一緒にいる時間をなにかと優先してしまっていた。先日恋愛より勉強が大切、なんていって情けないと自分でも思う。

 友人とともに提示版へ向かうと既に人だかりができている。チラホラえんじ色のネクタイも見えているところから、どうやら普通科の人たちから見世物にされているようだ。


「この瞬間だけはいつも緊張しちゃうね」


「ほまちゃんでも?」


「あはは、ヒロはあたしをなんだと思ってるのさ。結果を見るまでは何が起こるかわからないんだから」


 なんていいながら自信満々の表情だ。その自信、分けて欲しいなあ……。

 人ごみをかき分けて前へと進んでいく。背が低いので後ろから見えない。こういうとき常々身長が高ければなと思う。

 なんとか提示版の前に身を出せば、まずは一位の確認。当たり前に嵐山誉の名前がある。そうなると自然と二位の名前も目に入るわけで――


「あ……」


「ヒロ! やった、二人でワンツーだよ! やったやった!」


 しかも過去最高点だ。

 友人は私の手をとり、ぴょんぴょんと跳ねて喜んでくれていた。私は今回ダメだと思っていたから、現実味を感じられなくてすっかり脱力してしまっている。


「ヒロ?」


「……ご、ごめん。ちょっと驚いちゃって」


「そう? あたしは今回のヒロはすごく調子がいいなって思ってたから、あんまり驚きはしなかったけど」


「え、ど、どうして?」


「最後に図書室で勉強した時かなりできてるなーって思ってたし、血色もよさげだし」


 血色が……良い?


「最近ちゃんとご飯食べてるみたいだね、よかった」


 食べてる……というか、食べざるを得ないというか。

 だけど言われてみれば確かに――という面がある。寝る前に紅茶を飲んで睡眠の質が上がったような気もするし、バランスの良いご飯食べたりで身体の調子も良いような。今までゼリー飲料とチョコレートでカロリーを摂取していたから、確かに身体からしてみれば嬉しい変化なのかもしれない。

 彼女にもお礼をしないとなあ……と考えていると友人に袖を引っ張られる。


「お疲れ様のちゅーでもする?」


「……ふぇ?!な、なに言ってるの!」


「……あは、冗談だよ! その顔が見たかっただけ!」


「もー、変なこと言わないでよぉ」


「ごめんごめん、だってヒロのその顔、可愛いんだもん」


 あははって明るく笑ったかと思うと鼻の頭をちょんってされた。なんか子供扱いされてるなぁ。幼馴染だし、イメージが子供のままで止まっているのかも。

 そう考えると身長も伸びなかったし、と少し落ち込み友人とともに教室へ戻る。友人も彼女も身長160はあるっぽいのにな。


「なに急にしょぼくれた顔してるの? そんなにちゅー嫌だった?」


「それは違う……っていうか、嫌じゃなくてもちゅーはしないけど……」


 顔に出てたかな。気を付けないと。


「なんで?」


 そこを深堀しないでよ……。


「なんでってもう高校生だしね。ほまちゃんは恋愛はまだいいって言ってたけど、突然本番の機会がくるかもしれないよ」


「ヒロにも?」


 そういわれてふと彼女とのことを思い出す。途端に胸が熱くなってくる。


「そ、そうだよ。誰にだって可能性はあるんだからっ」


「ふーん?」


 たぶん変な顔してるから、隠すように言い捨てると面白くなさそうな声が聞こえてくる。

 ああ早く授業始まって……。


***


 前方の席から強い圧を感じながらの授業は中々に集中もできないし、いつも授業中にある眠気もどこかへ吹き飛んでしまっていた。

 それにしても本当に友人の地雷がわからない。この間は猫道いったときに好きな人聞かれてた時に怒ってたっぽいけど……。以前にもそういう話をちらっとした時は普通だったと思うんだけどなあ。恋愛に興味ないわけじゃないって言ってたし。

 本当に人の気持ちって察するのが苦手だな。結構人間関係の本は読んだと思うんだけど、全然身についてないや。テストの点をあげるより、人間としての点数を上げる方が先ってことなのかな。


「じゃあヒロ、今日もお疲れ様。残り夏休みまでがんばろー!」


 友人は朝の会話なんてなんのそのという感じで、笑顔で手を振って急いだ様子で教室を出ていった。

 なんとなく図書室に行く気しなくて、ぶらっと校舎を散歩していると話し声が聞こえる。どうやら、いつの間にか人気の少ない校舎裏まできていたようだ。

 盗み聞きはよくないよな……と離れようとしたが、聞き覚えのある声が聞こえた。


「……山が、好き……」


「あたし…………好き…………」


 友人が告白をされて……受けた?!

 あまりの驚きに急いでその場を離れる。万が一見つかって雰囲気を壊したくない。きっと友人のことだ、しばらくは隠し通すだろう。今はいいかなっていっといて、恋人を作るなんて言いづらいと思うし。

 時間が経てばきっと話してくれるだろうから、私もその時に彼女とのことを打ち明けられたらと思う。友人に彼氏ができてなんだか少し気が楽になった。

 なんだか気持ちがふわふわしたまま図書室にいくと既にいた彼女がこっちにぱたぱた歩いてくる。


「ヒロム! 遅かったね、なんかあった?」


「別になんもないよ」


「そう? ならいいけど。あ、テストの自己ベスト更新おめでとう!」


「ありがとう。でももっと頑張らなきゃね」


 気持ちを新たに言葉にする。

 すると彼女は興奮した様子で私の手を握ってきた。


「ねね、今日は家いってもいいかしら?」


「今日の分のご飯まだあるよ?」


「いいじゃない。テストのお祝いさせてよ、ね? 報告したいこともあるし」


「う……まぁいいけど……ありがとう」


 どの道彼女にお礼をしなきゃと思っていたし、ちょうどいいか。それにしても……報告したいことってなんだろう。

 今日のノルマ分を一通りこなし、二人で私の自宅へ向かった。

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