18
現地につくまで、友人は手を離そうとしなかった。否、現地について尚、離してくれていない。
おかげ様で周囲は微笑ましい光景として見てくれたが、もう一人一緒にカラオケにいくメンツからはただならないオーラを感じる。もしマンガの世界で表現するならば、彼女の長髪がメデューサのように髪の毛が逆立っているだろう。
さりげなく恋人繋ぎを解こうとはしているが、友人がそれを許してくれない。
「アッキきたんだー? 勉強大丈夫? 五十位とれる?」
「おかげさまで。……ところでそれはどういうことかしら」
「それ? それってどぉれ?」
なんてバカにしたように私と繋いでる手を上にあげて、彼女が指さした方向をきょろきょろと探すような仕草をする。
彼女が痺れを切らしたのか私たちの繋いでる手をとろうとするも、友人はあざ笑うかのようにひらりとかわす。そういったやり取りを何度か繰り返しても彼女に捕らえられることはなかった。
「そんなんじゃあたしとヒロの絆は切れないよーだ」
「ーーっ! もういいわよ!」
彼女は捨て台詞かのようにふん、と大げさに声をあげると私とは反対方向、友人の隣へいった。友人はなんだと身構える余地もなく、もう片方の手も彼女に絡めとられてしまう。友人の反対側の手と彼女がしっかり恋人繋ぎをしている。
なんとも奇妙な状況であるが――友人は突然のことで言葉を失っていた。
「ちょっとアンタ、何すんのよ!」
「あなたが離そうとしないからでしょ。誉さんが離したら私も離すわ」
「は、はぁ?!」
「まぁまぁ、二人とも。そろそろカラオケいこ? あっという間に時間過ぎちゃうよ?」
「……うん。ごめん、ヒロ」
友人は申し訳なさそうにようやく私の手を解放した。それを確認すると、彼女も友人の手を離し、私の隣へと移動した。
「ヒロム、その服きてくれたのね。うん、やっぱり似合ってるわ!」
「ありがとう」
彼女は興奮したのか、私の手を両手で包み込んで絶賛してくれた。包み込まれた手がなんだか熱くて、褒められた気恥ずかしさもあって思わず手を引っ込めてしまう。
だが彼女はまったく気にしないような様子で、いきましょ、とすたすた先にいってしまった。
「どしたの、ヒロ。いこ?」
「う、うん」
彼女の熱を片方の手に感じつつ、私は彼女を追いかけていった。
***
高校生たちにとって、そこは定番であり青春を謳歌するような場所ではないだろうか。私にとっては、その場のノリに合わせて適当にシャンシャンやってればいいという認識なのだが、どうも今の彼女たちにとってはそうではないらしい。
最初は平和にのんびりカラオケを楽しんでいたのだが、彼女が私の歌をきいて友人が私にリクエストを連発したところで火ぶたは切って落とされた。
なんで彼女らが私に歌わせたがるのか――私の儚くて? 可愛い? 声がラップとかかっこいい系の曲を歌うのがたまらないらしい。私自身、別に練習してるわけでもないし聞いたまま歌っているだけなんだけど。これに関しては声質の問題ではないだろうか。
今も目の前でバチバチと火花が散らせてる二人をめんどくさいなあと思いつつも現状をどう打破するか考える。
「もういっそ歌わないで帰ろうよ」
「次いつこれるのかわからないのにそれはもったいない!」
と、私の意見は一蹴。
言い争っている間にも時間は過ぎていくというのに。
「絶対最後は偶像にすべきよ!」
「いーや、吸血鬼だね」
「そもそもヒロムにそんなヴィジュアル系のえ、えっちな歌――」
「そっちこそ、そんなアニソンの歌よりこっちの方が――」
ヒートアップして、まるで止まる気配を感じない。
私はなぜかこの数時間を彼女らのリクエストで全部歌っている。私がいれた曲は一曲もない。彼女らも歌ってはいたのだが、どちらかというと私に歌わせたがる。別に私は歌わなくてもいいから、自分らで歌えばいいのに。
ぎゃーのぎゃーのと騒いでるうちに室内にある電話がなる。お決まりのあの電話だろう。
「はい、延長はなしで。はい、わかりました。――二人とも、もう時間だから出るよー」
「え?!最後のお楽しみは?!」
「君らの狂騒曲で終幕のようだね」
「そんなぁ……」
二人して同じようにしょぼくれる。だが終わりなものは終わりだ。二人して名残惜しそうにデンモクを置くとバタバタと準備をし始めた。私はそんな二人を置いてさっさと部屋をでて会計を済ませる。
「ヒロム、払ってくれたのね。一人いくらくらいかしら?」
「別にいいよー。気にしないで」
「え、なんでよ?」
「大した額じゃなかったし……」
計算するのめんどくさいし。レシート捨てたし。
「そんなのよくないわ!」
「そうだよ、ヒロ。お金のことはきちんとしないと」
「んー……じゃあ二人には今後お世話になるし、それのお礼ってことで!」
実際彼女にはご飯作ってもらったし、友人には勉強面でかなり世話になっている。カラオケ代くらいむしろ払わせてくれと首を垂れるべき立場だ。
それでも納得してなさそうな彼女にそっと耳打ちする。
「また料理、お願いしてもいい?」
「ふぇ……?! ……わかったわよ、もう……」
儚くて可愛いと言われたこの声を利用し、納得させることに成功。
一人納得させても、もう一人も面白くなさそうな顔をしている。……ふう、こちらのほうのケアもしておかなければ。
「ほまちゃんにはまた次行くとき、払ってもらおうかな? それじゃだめ?」
「……次は吸血鬼、歌ってくれる?」
「う、うん。私でよければほまちゃんのリクエスト曲、なんでも歌っちゃうよ!」
頑張る、という意志を表示するためにガッツポーズをとる。
どうやら効果はてきめんだったそうで、友人はありがとー! と勢いよく抱き着いてきた。おまけに髪にすりすりして匂いをくんくん嗅いできたかと思えば、ちょんと何かが頭に触れる。
……え、なんだ、顎?
「ちょちょちょちょっと誉さん?!なにしてるのよ?!」
「熱い抱擁? 愛情表現?」
「キスしたじゃない! ヒロムに!」
「ダメなの? 別にキスくらいなら、今まで何度もしてるけど?」
「はぁ?!」
「ほまちゃん?!誤解されちゃうよ?!それは前の話でしょ!」
このままだとあることないことすべて誇張されてでてきそうだ。
慌てて止めに入ったが、もうすっかり二人のボルテージはあがってしまっている。私は先ほどの窮地をなんとか切り抜けたと思ったけど、ただ火に油を注いでいただけのようだ。
今にも彼女は友人を殴りにかかるのではないか――と思ったのだが、意外にも彼女は涼しい顔をしている。
「……そう。それは仲が良くてよろしいことで」
なんて言ってるが、先ほどの涼しい顔もつかの間、ちらちらとこちらの様子を伺っている。なんていうか、本当感情を隠せないんだな、と思う。
「ほら、ほまちゃん離れて。今日はさ、秋ちゃんがほまちゃんを連れていきたい場所があるんだって」
「え?」
二人して素っ頓狂な声をあげる。
「そのアッキが一番驚いてるけど」
「ま、まぁまぁ。ほらほらほまちゃんの服見に行こう!」
「え、服?!」
「見立ててあげてもいいけど?」
「はあ? 別にアンタに見立ててもらわなくても――」
「私、ほまちゃんが秋ちゃんに見立ててもらった服きてるとこ、みてみたいな」
「ほら、二人とも早くいくよ」
友人は私と彼女の手をとり、服売り場へと向かう。前回私が服を見立ててもらった彼女おすすめの店と同じような、全国チェーン展開されているアパレルショップだ。私も友人とここで部活動の青春の服を買った。
彼女が友人の服を見立てている間に店内を見て回っていると、今友人がきてる服があった。新商品だった。




