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熱を感じて  作者: 湯尾
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目が覚める。今日も今日とて、今日が始まるんだなと布団の中でもぞもぞと動き、なんとか重い体起こす。目覚まし時計をみると、8時で止まってる。その横にはその目覚まし時計から外されたと思われる電池も置かれていた。

ふむ、と目を擦りつつ携帯を見てみると電源が切られている。とりあえず時刻を確認するために電源をつけたら、今の時刻はどうやら10時をまわっているらしい。友人から何件か連絡が来ていた。一応おはよう、と送りなんとか朝の支度を始める。さて、今日は高校の入学式だ。

髪をとかし、真新しい制服を着る。紺のブレザーに薄い青と白のチェックのネクタイ。チェックのスカート。中学のときはセーラーだったため、慣れないネクタイを結ぶことがこの上なく面倒くさい。

五秒チャージがうたい文句のゼリー飲料をちゅーちゅー吸いつつ、家を出る。通学用にと買ってもらった自転車のかごにカバンをいれ、出発した。


***


学校に着いた。だが、当然のように門はしまっていた。ふぅ、と一息付き近くにいる守衛さんに頼んで開けてもらう。自転車置き場に自転車を置いて、職員玄関を目指す。おそらく生徒用玄関は空いていない。

玄関を通り、とりあえずクラス表を確認。自分は二組。彼女と友人のクラスを確認すると七組と二組だった。

新入生は四階らしいので、階段をのぼっていく。二階、三階と新入生は大変だ。ほんの一ヶ月くらい前までは二階に登っていた気もするがあっという間だなと思う。ようやく四階につくと目の前に七組。ちなみに一年生は八組まである。

何の気なしに七組の窓を覗いてみると彼女が窓際の席で若干不機嫌気味に教卓のほうをみていた。すると視線に気づいたのか彼女はこちらを横目で見ている。驚いたように目を見開いた。軽く手を振りそのまま私はクラスへ向かった。

クラスに入ると視線が集まる。先生らしき人が喋っていたのがピタリととまった。


「おはようございまぁす」


「……おはよう」


「空いてるところ失礼します!」


あはは、と愛想笑いをうかべ空いてる席に座る。


「とりあえず終わったら職員室こい」


「わかりました」


先生は不機嫌そうに話を続ける。式はもう終わったそうで、心構えだとかこれからの生活だとかのことを話していた。机の上に置いてあったプリントにざっと目を通す。特に重要なことは無かった。

長々と話が終わり、今日は解散というところで先生は私の名前を再度呼ぶとさっさと教室をでていってしまった。ついてこいということなのだろう。

すると今度は別の声で呼び止められる。


「ヒロ! 電話したのに……」


「ごめんごめん、携帯の電源切れててさー」


「高校は出席日数とかあるんだから、気をつけてよ」


「お母さんか!」


心配してくれてる友人にあはは、と笑顔を向けじゃあいってくるねと手を振る。

案の定職員室ではそれなりの叱責と遅刻関連の書類等を書かされ、私もあらかじめかいてきた書類を提出。すみませんでした、と謝り教室へと戻る。すると私たち特進側の教室では見かけないえんじ色のネクタイをした女子が教室のドアの前で待っていた。


「あ! どこいってたの?」


「おはよ、職員室だよ」


「そ、そうなの。……入学式から遅刻なんてなにかあったの?」


「あー寝坊しまして」


「そうだったの……ねぇ、色々話したいことあるし、一緒に――」


「ヒロ!」


彼女の言葉を遮るように友人が教室からでてきた。


「終わったなら一緒にお昼ご飯でも食べに行こ!」


「ごめん。彼女と約束してるから」


「え? 高瀬さん?」


「うん」


「……うん、わかった。じゃあまたね」


友人は笑顔をうかべ彼女を見ると踵を返して教室に戻って行った。目が笑っていなかったが。


「ああ、ごめんね。別に約束してたわけじゃないよね」


「別に構わないわ! 行きましょう」


ちょっとカバンを取ってくるね、と彼女に告げ私も教室の中に入っていく。私の席の前に友人がたっていた。


「ねぇ、やっぱり高瀬さんと何かあったの?」


「何かって、そんな物騒なもんじゃないよ」


「でも中学の時そんな話してる印象なかったし……」


「あはは、お母さん心配しすぎ! じゃ、またね」


カバンをもって早足で教室を出た。

出るまでにビシビシと後ろ頭に視線を感じたが、なんとか耐える。


「じゃあ行こっか」


笑って彼女とともに歩き出す。校内では話しづらいのか、私も彼女も学校から出るまで言葉を発することはなかった。

自転車を取りに行き、再び彼女と合流する。


「学校には歩いてきてるの?」


「私、中学卒業してからは引っ越したから、今はバスで通ってるの」


「あーそうなんだ」


「梛木さんは中学より近いの?」


「うん。自転車で五分くらい」


「それでもあの時間に登校なのね」


「そーそー、自分でもびっくりだよー」


ぽつりぽつりと会話が繋がったり途切れたりする。肩書き上は付き合ってるとはいえ、お互いのことを全く知らないのだからこれくらい会話ができれば及第点なのではないかと思う。

と、いうところで自転車で五分のところにある我が家についたわけだが。


「じゃ、うちここだから。またね」


「え?!もうちょっと話そうよ」


「え、なんで?」


「……もっと梛木さんのこと知りたいわ」


恥ずかしそうにいう彼女はどこか初々しい。だが、面倒くさいな。


「時間はこれからもあるんだし、ゆっくりやっていこうよ」


適当にそれっぽいことをいってみたが、彼女は納得はして無さそうだ。ちょっと目力で訴えてみたらうぐ、とした顔を浮かべる。彼女は感情表現豊かなようだ。


「……うん、わかった。それじゃあまたね」


「気をつけて帰るんだよ」


にっこりと手を振って見送るとしょんぼりとした様子でとぼとぼ歩いていってる。

少し罪悪感もあったが、今日はもう疲れた。

ちらちらとこちらを名残惜しそうにみてる彼女を尻目に帰宅した。

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