表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱を感じて  作者: 湯尾
13/63

11

 友人の誘いにどうしても色良い返事をだせない。ダメなんだ。どうしても。ご飯を食べることは。

 私が困っていると、友人は少しむくれたような態度を出す。


「ヒロって高校入ってから、一緒に食べてくれなくなったよね」


「そんなことないよ。お昼一緒に食べてるでしょ?」


「でもヒロがご飯食べてるところみたことない」


「食べてるよー!」


「ゼリー飲料だけでしょ。もしかして、家でもそんな食生活してるんじゃないの?」


「そんなことないよ。わかった、食べに行こ?」


 こうなったら友人は納得するまで追求をやめない。こちらから折れたほうがまだ傷は浅い。

 だが、ここまで追求がきてしまった以上、引くに引けないようだ。


「今日はヒロの家で料理作る」


「……え?」


「私が料理ふるまうよ」


「家はちょっと……今日はだめだよ。だから、いつものお店いこ?」


「じゃあ私の家にくるのは?」


「それも悪いよ。ほまちゃんの家、兄弟多いんだから」


「なんも悪くないよ!」


「ほまちゃん。私はほまちゃんの家にはお邪魔しないけど、一緒にご飯を食べるならいいよって言ってるんだよ」


 語気を少し強めると友人は私から顔をそらす。


「それは……わかってるけどっ」


「じゃあお願い」


 これ以上私に何かを言わせないで欲しい。

 私が落ち込んでいると友人も言い過ぎたと思ったのか黙ってうつむいてしまった。


「ごめんね、しつこかったね」


「私こそ……ごめん」


「少し頭冷やすね! 今日は一緒に帰ってくれてありがとう! またね!」


 友人は私に顔を見せないようにそのまま走り去ってしまった。


 ***


 友人とも気まずいまま、日をまたぐことになってしまった。だめだ、私は本当にだめだ。こんなに人間関係の構築って難しかったか?

 自室にある本を読みながら考える。人間関係の構築の仕方がわからなかったから、中学生の時に本を買って勉強してみた。実践したら、浅いけど友人関係といえるものもできた。だが、彼女と友人に関してはセオリー通りにはいかない。

 人間関係を構築するのに嘘や隠し事をしないってかいてあるけど……これは無理なのではないかと思う。だって人間だれしも知られたくないことの一つや二つあるはずだ。嘘も方便。親しき仲にも礼儀あり。

 そんなこともあって、学校へは遅刻していった。頭の中がもやもやする。


「あ、おはよーヒロ! 今日の朝連絡できなくてごめんね、ちょっと朝バタバタしててさ」


「ううん、もともと私がちゃんと起きないのが悪いんだし。いつもありがとう」


 よかった。友人は普通だ。だけど妙に期限がよさそうなのは、何かいいことがあったのだろうか?

 ホッとし、次の授業の準備を始める。だが本当の修羅場はお昼休みに訪れた。


「じゃーん! ヒロ、お弁当作ってみたよ! 食べて!」


 屈託のない笑顔とともに弁当箱を差し出す友人。友人にとっては善意なのだろう。もちろん。それはわかるのだが。


「あはは……気持ちは嬉しいけど、私ちゃんとご飯もってきてるよ?」


「ゼリー飲料はご飯って言わないよ。ちゃんと食べないと倒れちゃうし勉強もできなくなるよ! 大丈夫、冷凍食品使ってないから!」


「でもチョコも食べてるし」


「それもご飯のうちにはいらないよ! いいからほら!」


 私がなかなか受け取らずにいるとずいっと弁当箱を差し出され、思わず受け取ってしまう。困った。非常に困った。

 するとひょい、とその弁当箱がなにものかによって奪われる。その主はクラスのお調子者の男子だった。友人のことが好きだって専ら噂のある男子。


「梛木がいらねーってんなら俺がもらってやるよ!」


「はぁ?!なんでアンタに?!」


 その男子は友人に奪い返されないように素早く弁当を開封し、一口パクリと食べる。すると先ほどまで好きな女子の手作り弁当を食べれることに幸せを覚えていた表情が、一気に苦悶の表情へと変わる。

 口元をおさえ、一応は吐き出すまいとしている男子に心の中でそっと称賛。


「お前、これ、味見……した?」


「してないけど?」


「なんで得意げなんだよ! ちょっと食ってみろ」


 友人はむっとした表情で男子生徒から弁当をひったくるように奪い、中身を一口食べる。すると先ほどの男子生徒と同じような苦悶の表情を浮かべる。

 な?な?としつこく絡んでくる男子生徒を一瞬睨みつけたかと思えば、友人は泣きそうになりながら、そっと弁当箱をしまった。


「ごめん、ヒロ……これはあげられないや」


 そういってとぼとぼ席に座る友人に私は何も声をかけることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ