まさか殿下、そんな理由で婚約破棄を!?
「アメリィ、た、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」
「――!!」
国中の貴族が集まる夜会の最中。
わたくしの婚約者であり、我が国の王太子殿下でもあらせられるレオン殿下が、急にそう宣言しました。
そんな――!?
「ど、どういうことですか殿下! 悪い冗談はおやめください!」
「冗談ではない! 僕は僕なりに、深く考えた末の結論なんだ!」
何てこと……。
わたくしと殿下は政略結婚の間柄とはいえ、心は通じ合っていると信じていましたのに……。
しかも人生で一度も味わったことのない絶望にめまいがしているわたくしを、周りの貴族たちはニヤニヤしながら無言で見つめています。
ヒドいわ……!
「……つまり殿下は、わたくしのことがお嫌いになってしまったということですね?」
ああ、もう、いっそ死んでしまいたい……。
レオン殿下から愛されない人生なんて、何の意味もありません……。
「そ、そんなわけないじゃないかッ!」
「……え?」
殿下……?
「僕はこの世の誰よりも、アメリィのことを愛している! ……愛しているからこそ、君との婚約を破棄するんだ」
「??」
どういうことですか??
愛しているのに婚約を破棄する意味が、わたくしにはまったく想像もつきません。
「……どうか理由をご説明ください、殿下」
「……君ともっと仲良くなりたくて、君が最近ハマってるロマンス小説ってやつを何冊か読んだんだ」
「――!」
まあ!
殿下がわたくしのために!
でも、それがどう婚約破棄に結びつくと?
「ロマンス小説の中じゃいつも決まって婚約破棄されたヒロインが、よりスペックの高いイケメンに溺愛されて幸せになるだろ?」
「は、はあ」
まあ、それがロマンス小説の王道パターンですからね。
「……だから僕が君との婚約を破棄すれば、君も幸せになれるかと思って」
「――!?」
まさか殿下、そんな理由で婚約破棄を!?
「き、君には絶対、幸せになってもらいたいからぁ……」
「……殿下」
そう仰るレオン殿下の瞳には、大粒の涙が浮かんできました。
「うぐっ……。でも、やっぱり僕はイヤだよぉ……。アメリィとの婚約を破棄したくないよぉ……。アメリィが大好きなんだよおお!」
「レオン殿下――!」
遂に殿下はワンワンと泣き出してしまいました。
嗚呼――!
「もう、本当におバカさんですね殿下は」
「ふえっ!? ア、アメリィ!?」
わたくしは堪らなくなり、はしたなくも殿下をギュッと抱きしめます。
「ロマンス小説はあくまで作り話です。わたくしの一番の幸せは、わたくしが大好きな殿下のお嫁さんになることなんですよ」
「ア、アメリィが、ぼ、僕のことを、だ、大好き!?」
あわあわしながらタコさんみたいに真っ赤になってしまう殿下。
うふふ、殿下可愛い。
本当に殿下は子どもっぽいですね。
まあ、殿下もわたくしもまだ9歳ですから、まさに子どもそのものなんですけど。
「ですからどうか、婚約を破棄するなんて悲しいことは仰らないでくださいまし。殿下のいない人生なんて、わたくしには考えられませんわ」
「うん、ゴメンよアメリィ。大人になったら絶対、アメリィを僕のお嫁さんにするからね」
「はい、楽しみにしております」
「アメリィ、愛してるよ!」
「わたくしも愛しています、レオン殿下!」
熱いハグを交わす殿下とわたくしを、周りの貴族たちは微笑ましい目で見守っていました。
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