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プロローグ

揺れる電車の中で、N○Kの戦争特集を見ている変わり者がいた。


動画を見終えた変わり者こと俺、佐藤孝明(さとうたかあき)は小さくつぶやく。

「やっぱりN○Kの映像の世紀シリーズは面白いな。大雑把だけど歴史の要点を抑えてる」


俺は子供の頃から戦争、戦術、戦略について調べるのが大好きだった。

いわゆるミリオタというやつだ。


当然平和主義な日本で話があう人間が周りにいるはずもない。

自分から積極的にコミュニティに参加するわけでもないため気づけば一人になっていた。

今日も大学からは真っ直ぐ帰宅だ。

家族との関係が悪くないことだけが救いだろう。


今の俺の楽しみはネット上の戦略シミュレーションゲームをプレイすることだ。古代から近代までの時代設定でプレイできる。俺は既にかなりの時間遊んでいて、イベントマップにも多く参加しているためプレイヤーランクも高い。


そういえば今日は昼から勝利ボーナス増加イベントが始まっているはずだ。

家に着いたらすぐに参加しなければ。


そう思った瞬間、俺は強烈な光に包まれた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「成功だ!黒騎士の召喚に成功したぞ!」


「流石です!魔王様!」


「魔王軍、万歳!!」



前の方からやたらはしゃいだ声がいくつも響いていた。

声の聞こえ方から察するにどうやら大広間のような場所らしい。



自分の身体が自分のものではないような違和感を感じる。


うずくまりながら周囲を確認しようとした。

しかしまだ目がくらんで視界がはっきりしない。

なんだかとてつもない距離を移動したように感じた。



ようやく目が慣れてきたところで顔を上げて前をみると、赤色の怪物達が俺を見つめていた。

頭にはトサカがあり背中には尻尾がある。

間違ってもコスプレではなさそうだ。


現実世界には到底存在しないような生物たちだ。

これが一時期流行っていた異世界転移というやつなのだろうか。


だとしたらすぐに元の世界に戻して欲しい。

こんな化け物たちに囲まれるなら絶対日本の方がいい!


赤い怪物のうち、分厚いローブを着込んだ一体が前に出てきて口を開いた。

ヤバい、口がやたらデカい、食い殺されるかもしれない。

俺の脳裏を流れ出す走馬灯。

ああ、恥の多い人生を生きてきました。せめてもう少し親孝行してから・・


「おい、貴様」


「はい」


「名前はあるのか」


「名前は…佐藤孝明です」


ひとまず答えた。


「おお…ネームドかっ、素晴らしい!」


次の瞬間さらに俺の周りから大きく響く歓声。

意味が分からない。

唯一分かったのは俺の後ろ側にも怪物がいるということだけだ。


詰んだ。


俺が絶望感に包まれているうちに口のデカい怪物は後ろに向かって話しかけていた。

よく見れば広間の奥に玉座があり、そこに一際大きな怪物がいるようだ。

正直小声で話された内容はほとんど聞き取れていない。


すると玉座の大きな怪物(頭に角が3つあり目が飛び出ている。)から迫力のある声が響いた。


「召喚は成功だ。これで卑劣な人間のおもちゃも恐れることはないだろう」


「はい!流石です魔王様!これで人間どもの守りも一撃でしょう!」


口のデカい怪物が答える。

よく見ればデカい口には牙が生えそろい、赤色の肌は鱗で覆われている。

まさにアニメやゲームに出てきそうな魔物の姿をしている。


さらに玉座に座っている怪物は魔王と呼ばれている。

どうやら俺は本当にファンタジーな異世界の、しかも魔王軍に召喚されたらしい。


俺は怪物たちの話が進む中で恐怖に震えていた。

だがそれも魔王から次の言葉が放たれるまでだった。


「よくぞ我の召喚に応じてくれた。立て、黒騎士よ」


黒騎士ってだれだ。

もしかして人間っぽい奴もいるのか。

とにかくそいつを探さなければ。


しかし、玉座の怪物はすべての希望を砕くように俺を見て言った。


「お前だ。早く立て」


「え…」


嘘だろ? 

だが自分の身体を見つめると、俺は黒い鎧を身に着けていた。

しかも背中には大剣を背負っていた。

明らかに黒騎士は俺だった。


「早くしろ」


「はっはい!」


俺は全力で立ち上がった。

これほどの速さで立ち上がることは二度とないだろう。


「黒騎士よ、ここがどこかは分かるか?」


魔王の飛び出した眼球が俺を見つめる。


「いいえ…」


「ここは魔王城…我が城だ。ここから少し離れたところに人間共が砦を作っている。奴らはそこを拠点に我々のいる魔王城一帯に攻撃を仕掛けて来ているのだ」


魔王が言葉を続ける。


「そればかりか、戦いで傷ついた我らの仲間を人間どもが砦の中に監禁し、あの手この手で拷問し、辱めていることが分かった。到底許すことはできぬ!」


 

話をする魔王の表情は明らかに怒りに染まっていた。どうやら人間とは敵対しているようだ。


「お前には高い戦闘力と戦争への深い知識があるはずだ。魔王として命ずる。明日の砦の攻撃に加わり、力を示せ」


砦?なんだそれ、攻撃?戦う? どういうことだ。

まずい、何も知らないまま戦地送りは本当にまずい。

正直この怪物とは会話したくない。それでも何とかしてこの世界の情報を得なければ…


「砦とはいったい---


だが、魔王にはもうこれ以上話すつもりはないようだ。


「ではお前たちの武運を祈っている。我を失望させるな」


それだけ告げると言うべきことは言ったとばかりに、玉座に座る魔王と名乗った怪物の姿はどんどん薄れていく。


どうやらどこかへ移動しようとしているらしい。


聞きたいことばかりなのにこのままでは何も聞けない。

言いたいことも山ほどある。

なら、せめて…


「俺を召喚したのはあんたか?なんで俺を呼んだんだ!俺は元の世界に帰れるのか!?」


俺は自分の身の危険や恐怖すら忘れ叫んだ。敬語も崩れていた。


「我ら魔王軍の状況が改善すれば、貴様を元いた場所に帰すこともできよう………」


魔王と名乗った怪物はそれだけ答えるとその場から姿を消した。

魔王が去ったからか、怪物たちもぞろぞろと広間から出ていく。

結局分かったことはすぐには日本に戻れないということだけだった。


取り残された俺は頭を回す。

与えられた情報はほとんどない。


だがどうやら異世界に召喚され、俺は魔王軍(?)の一員にされたらしい。

それだけは推測できる。


日頃から昔起こった戦争を調べていたが自分が本当に戦争に参加するとは思ってもいなかった。

しかも右も左も分からない異世界で。




俺はしばらく立ち尽くしていたが他の怪物が見えなくなる前に追いかけ、広間の扉をくぐった。


置かれた状況がどんなに困難なものであっても諦めずに可能性を探り生き残る。

戦いが終わった後、元の世界に帰るために。


プロローグの冒頭を改稿しました。以前と印象の違いがあれば、感想などで教えて頂けると嬉しいです!



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