第四十四話 手合わせ
第四十四話 手合わせ
サイド 福矢 亮太
季節は八月となり、本格的に夏となった。校長達との特訓も終わり、自分は秋元舞に『冒険者としての技術交流』という名目で手合わせをしたいという旨のメールを送った。
勝敗が決まった後、その後どういう『付き合い方』をしていくかもメールでだが話し合った。
『福矢亮太が勝利した場合』
秋元舞を含めた世界樹の会は、手合わせを行ったその日より福矢亮太とその家族、友人への監視及び過度な干渉を禁じる。
『秋元舞が勝利した場合』
福矢亮太は冒険者を引退。北天傘下の企業にて働く事。また、護衛として常に親衛隊のいずれかを最低でも二人以上、外出時は同行させる事。
詳しい内容。特に過度な干渉とはどの範囲を指すかを細かく決めた後、このような内容での契約が成された。契約書へのサインは当日行われる。
手合わせの場所は一番近くにある世界樹の会支部。電車を乗り継いで向かった先には、霊峰富士が良く見える場所だった。
「やばい……吐きそう……」
「ばばばばばかやろっ、こ、こんな所でへたれるんじゃねえべさ!」
「アイカワン、それもう何語でござるか」
心配だからといつもの二人と、『一応大人もいた方がいい。あくまでプライベートなので問題ないさ』と言って来てくれた校長。計四人である。
「福矢君。深呼吸」
「は、はい」
ゆっくりと深呼吸をした後、校長が肩を叩いてくる。
「大丈夫、君は出来る限りをしてきた。とても頑張った。『用意』もした。君は勝てる」
「……はい」
優子が背中を叩いてくる。
「大丈夫でござるフクヤン。敵は精鋭。なれど、フクヤンとて十分に強い。勝ちの目は十分にあるでござるよ」
「ああ」
昭が尻を叩いてきた後鷲掴みにしてくる。
「まあ負けたら俺は逃げるけど、がんば!」
「奥歯へし折ってやろうか」
「なんで!?」
昭の手を引っぺがして、支部へと入っていく。どうでもいいが、『世界樹の会富士支部前』というバス停があるのに正直びっくりである。
まあ、入るのは裏手からとさせてもらったが。正面からだと凄く面倒な事になる気がするし。
「ようこそおいで下さいました。福矢亮太様。そしてご友人の皆様」
そう言って出迎えたのは、ここの支部長である男性だった。老け顔ではあるが、たぶん肉体年齢は二十代だろう。もっとも、実年齢は六十二歳らしいが。
この支部長は見た事がある。全国覚醒者スポーツ大会、その成人の部で各種目を荒らしまわった人物だ。……まさかと思うが、あの段階で目をつけられていたとかはないよな?流石に考えすぎだと思いたい。
「どうも。福矢君の通っている高校で校長をやらせてもらっている芦屋満と申します。本日はお忙しい中申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ皆様に来ていただいて心から感謝しております」
名刺交換を始める大人たちの後ろで、支部長と目が合ったので会釈をしておく。
そうして通された先には、小さめの体育館ぐらいのスペースがある『戦闘訓練室』があった。……本当に金があるな、この新興宗教。これで支部だというのだから恐れ入る。
その部屋には例の四人もおり、秋元舞は既に兜を外した鎧姿だ。
「……亮太様。本当にやるんですか?」
「はい。了承して頂いたはずですが?」
今回の『手合わせ』のルールは『頭部』への有効打を決めた方が勝ち。自分は『全耐性』、秋元舞は『全無敵』を有しているので、『万象一閃』以外はスキルでもなんでも相手を殺さなければ制限なしとなっている。
「では、あちらが更衣室となっております」
「いえ、その前に契約書の方を」
そう言ってバインダーに挟んだ契約書を見せる。その瞬間、支部長の眉が少しだけ動いた。
覚醒者なら一目でわかるだろう。この契約書は『式神』で出来ている。
式神作成の応用。最近ネットで流行り出した物で、契約内容に『呪詛』を仕込むことが出来る。つまり、契約を破れば自動的に破った側へ呪いが発動するのだ。
「ええ、わかりました。隅に机を持って来てあるので、そちらで」
しかし、支部長はすぐに笑顔で机に案内した。彼も、こちらがこれを持ってくるのは想定していただろう。
それに、正直言えば『世界樹』に関係するスキル持ちに通用するかと言うと、不明である。自分とかたぶん完全無効化するだろうなと思うし。
だから、相手も大して躊躇なくサインできるのだ。お互いサインをして拇印を押す。
……まあ、効かないなら効かないで効くやり方をやるだけだが。
更衣室に向かい、装備一式を身に着ける。そのまま各部のチェックを。防具類よし。剣もちゃんと研いである。かれこれ三カ月以上も使っているが、ここまでかなり雑に扱ってきたのによくもったものだ。買ってくれた両親に感謝しなければ。
そして、校長の伝手で紹介してくれたドワーフ作の『切り札』を装備する。
本田さんとの会話。そしてその後に見た『とある動画』。それらから得た着想から考えた装備を、校長が紹介してくれた女性ドワーフ生産職の手で作ってもらったのだ。
まあ装備と言っても本当に小細工なんだが。それでも生産職系スキル持ちドワーフの作品なので、強度はかなり信頼できる。
それにしても校長の人脈凄いな。今でも二百人以上の卒業生と年賀状を送り合っているとか。……男女比で女子生徒の方が多かったりするのは、気のせいだろう。なんとなく超感覚が『無自覚罪作り』と囁いている気もするが。
装備を整え終わり、戦闘訓練室へと戻る。部屋の中心には秋元舞が兜をかぶり、手に槍を持っていた。
「では、我々は二階から戦いを見学させてもらいます。審判はこちらの加藤蔵馬が行います。よろしいですね?」
「はい」
「……わかりました」
支部長に連れられて皆が二階に移動し、加藤蔵馬が装着したマイクで呼びかけてくる。
『では手合わせを開始します。お互い、『万象一閃』は絶対に使わないようお願いします。それ以外はいかなるスキル、道具を使っても構いません』
「加減はします。ですが、くれぐれも事故には気を付けてくださいね?」
「ええ、大丈夫です」
当然ながら、秋元舞はこちらをなめている。いや、これは『庇護すべき対象』としてしか見ていないのか?
まあどちらでもいい。相手の慢心はこちらのジョーカー。これほど頼もしい鬼札もあるまい。
『では構え!』
剣を正眼で構える。対する秋元舞も中段の構えをとっている。こうして改めてみると、驚くほど構えが適当だ。重心が高いし、肘も開きすぎている。
だが自分まで慢心してはならない。技量の差は団栗の背比べ。身体能力はあちらが上。それを念頭に置いて戦わなければ。
『いざ尋常に!始め!』
次の瞬間、自分は大きく吹き飛ばされた。
「っぉ……!」
自分が先ほどまでいた位置に、秋元舞が槍を突き出した姿勢で立っている。その態勢から、今になって強烈な突きを放たれたことが理解できた。
ガードが間に合ったのは、ひとえに超感覚があったからだ。元より、防御に関してはこのスキルに頼りっきりにならざるをえない事は承知済みである。
辛うじて突きに剣を合わせる事が出来たが、全耐性がなければ剣を取り落としていたかもしれない。
「いきます」
「この……!」
そこから始まる乱打。
四方八方から槍が叩きつけられてくる。出来るだけ剣で受けるが、三割ぐらい腕で防ぐ事になっている。
高速で動き回りながら、秋元舞が打撃を続ける。叩きつけられるのは主に石突き。次に穂先の根元だ。斬撃は使うつもりはないらしい。
衝撃に体が左右に揺らされ続ける。踏ん張ろうと足に力を籠め、床にヒビをいれる。だが、それでも耐え切れない。
ついに、石突きによる打突がガードの隙間を縫って腹に直撃する。
「ぐぅ……!」
痛みはない。だが衝撃で内臓がシェイクされる。それでも潰れたり痛めたりしないあたり、スキルによる恩恵はすさまじい。
数メートルほど両足で床を削ったが、転倒は防げた。さらに言えば、秋元舞は追撃をしてこなかった。
それどころか、槍を右手一本で握り、穂先をだらりと下げてすらいる。
「もうやめませんか?」
構えさえ解いて、その場に棒立ちになる秋元舞。
「力の差はお分かりになったはずです。もうやめましょうよ、こんなこと」
ちょうどいいので呼吸を整える。なんか言っているが無視だ。
「貴方はそもそも『戦う者』ではないように思えます。私もそういうのはよくわかりませんけど、たぶん。そういうのに向いてません」
切り札は……よかった、壊れていない。他の装備はあっちこっちボロボロだが、さすがドワーフ作。
「私が、私達がお守りします。亮太様が戦う必要などないのです。さあ、どうかこの手を……」
左手を差し出す秋元舞。それに対し、静かに歩み寄る。無防備に立っていてくれるならありがたい。距離を詰めよう。
「……!よかった。わかっていただけたのですね!安心してください。私達が二十四時間三百六十五日付きっきりでお守り」
「『エア』」
手を伸ばせば差し出された左手に手が届くという所で、切り札を切る。
「は?」
轟音とともに、秋元舞が吹っ飛ばされた。
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